Brush Up! 権利の変動篇

物権入門の過去問アーカイブス 物権 (昭和55年・問5)


物権に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。(昭和55年・問5)

1.「物権は,法律で定めるもの以外でも,当事者が自由に創設できる。」

2.「登記には公信力がある。」

3.「動産に関する物権の変動の対抗要件は,引渡しである。」

4.「不動産に関する物権の変動について,民法は登記の移転を要件としている。」

【正解】

× × ×

1.「物権は,法律で定めるもの以外でも,当事者が自由に創設できる。」

【正解:×

◆物権法定主義

 物権は,物に対して直接・排他的に支配するだけではなく,対抗力や効果として物権的請求権などがあり,債権に比べてはるかに強力な権利です。物権は法律で定めるもののほかに,当事者間の契約によって新たに創設することはできません。(法の定める内容や効力と異なる規定を物権に当事者間で与えることも禁止。)

 民法175条
 物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか創設することができない。

民法上の物権は11種類あります。

 所有権,占有権,用益物権〔地上権・永小作権・地役権・入会権〕,担保物権〔留置権・先取特権・質権・抵当権・根抵当権〕

2.「登記には公信力がある。」

【正解:×

◆公信力−不動産の登記に公信力はないが,動産の占有には公信力がある。

 不動産登記には,公示力,対抗力はありますが,公信力はありません。
 それに対して,動産の占有には公信力が認められています。(192条)

 動産の占有
 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。(192条)

 → 動産では占有されていることを信頼して取引関係に入った者〔善意かつ無過失〕は保護されますが,
 不動産では登記が実体と合致していないときに登記があることを信頼して取引関係に入った者は保護されません。→登記に公信力はない。

3.「動産に関する物権の変動の対抗要件は,引渡しである。」

【正解:

◆対抗要件−不動産は登記,動産は引渡し

 物権変動の対抗要件は,不動産については登記(177条)動産については引渡し(178条)です。つまり,原則として,登記や引渡しがなければ第三者に対してその物権変動を対抗できません。

 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法〔平成16年法律第113号〕その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。(177条)

 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡がなければ、第三者に対抗することができない。(178条)

178条の『引渡し』は「占有の移転」を意味し,「現実の引渡し」とは限らない。(182条〜184条)

178条で動産に関する物権変動で引渡しを対抗要件とするのは一般的な原則を示したもの。動産であっても,船舶・航空機などのように,特別法で登記や登録制度が設けられ,引渡しではなく登記や登録が対抗要件になっているものもある

4.「不動産に関する物権の変動について,民法は登記の移転を要件としている。」

【正解:×
◆物権変動は意思表示によってその効力を生じる

 本肢は,物権変動の対抗要件についてではなく,物権変動の成立要件を尋ねています。

 物権変動は当事者の意思表示のみで発生し,成立要件として登記や占有などの形式は必要ではありません。したがって×になります。

 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによってその効力を生ずる。(176条)


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