Brush Up! 権利の変動篇
契約総合の過去問アーカイブス 保管のときの注意義務 (昭和61年・問2)
次のうち,目的物の保管義務について,自己の財産におけるのと同一の注意をもって保管すれば足りるものはどれか。(昭和61年・問2) |
1.「無報酬で寄託を受けた者」 |
2.「使用貸借の借主」 |
3.「留置権者」 |
4.「引渡し前の特定物の売主」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | × | × |
●保管するときの注意義務 | |
他人のもの又は事物を管理するにあたっての注意義務については,民法では,大別すると2つあります。 自己の財産と同一の注意義務 < 善良なる管理者の注意義務 『自己の財産と同一の注意義務』は,債権・物権関係では,無償寄託の一つしかありません。このページは一度ザッと見ておけば十分です。
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1.「無報酬で寄託を受けた者」 |
【正解:○】 寄託とは,(寄託者)モノを預ける−(受託者)預かるという契約です(ex.ホテルの手荷物預かりなど)。注意義務については,無償寄託と有償寄託で異なります。 無償でする「寄託」での寄託物〔寄託の目的物〕の保管の場合は,『自己の財産と同一の注意義務』です。〔有償での寄託は善管注意義務(400条)〕
●貸金庫やコインロッカーは寄託と間違えやすいのですが,貸金庫やコインロッカーは物を入れるために使っているのに過ぎず,言うなれば,場所を提供してもらっている−『賃貸借』に該当します。 ●銀行にお金を預けるのは『消費寄託』です。(666条)預金契約とは預金者から預かった金銭を銀行が自由に消費〔運用など〕して払い戻しのときに金銭を返還します。(利息をつけて)←寄託の場合は,寄託者〔モノを預ける人〕の承諾を得ないで寄託物を使用することはできません。(658条1項) |
3.「留置権者」 |
【正解:×】 留置物や質物は,担保のために預かっているのに過ぎません。留置権者は引渡し義務を負っているので,引渡しまで善管注意義務をもって保管しなければなりません。
→ 善管注意義務を怠って債務者または所有者に損害を生じさせると損害賠償責任を負います。(415条) ▼この留置権の規定は質権で準用されています。(350条) ▼留置権者が必要費を支出したときは,所有者に対して費用償還の請求をすることができます。〔有益費は価格の増加が現存する場合に限る。所有者の選択に従い,支出した金額か,増価額のどちらかを償還請求できる。〕(299条) |
2.「使用貸借の借主」 4.「引渡し前の特定物の売主」 |
【正解:2つとも×】
この義務は以下のものに課されます。みな特定物を引き渡す義務のある者が善管注意義務を負います。 特定物の売買,贈与,交換,賃貸借,使用貸借,有償の寄託など → 債務者がこの規定に反して,目的物を滅失毀損したときは損害賠償の義務を負います。(415条) → (債務が特定物の引渡しのときは)400条の善管注意義務を果たしているならば,弁済者はその引渡しの時の現状でその物を引き渡せばよい。(483条) |
●委任事務の処理−善管注意義務 | |
▼寄託では有償か無償かによって区別されていますが,委任では区別されていません。委任の報酬の多寡にかかわらず受任者は善管注意義務を負う。(大審院・大正10.4.23) ▼この規定は準委任〔法律行為ではない事務の委託〕にも準用されます。(656条) ▼この規定は後見人〔成年後見人・未成年後見人など〕(869条)・後見監督人(852条)・保佐人(876条の3第2項)・補助人(876条の10第1項)・遺言執行者(1012条)に準用されています。 ▼事務管理〔法律上の義務がないのに他人のために事務の管理を処理すること〕にも善管注意義務があります。←軽減される場合アリ。(698条) |
●自己の財産と同一の注意義務 |
・無償の受寄者(659条)無報酬で寄託を受けた者は,自己の財産に対するのと同一の注意をもって,寄託物を保管する義務を負う。(659条) ・親権者(827条)親権を行う者は自己のためにすると同一の注意をもって,その管理権を行わなければならない。 ・相続人(918条1項)相続人は,その固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産を管理しなければならない。 ・相続放棄者(940条1項),相続放棄した者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産と同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。 ・限定承認した者(926条1項)限定承認者は,その固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産の管理を継続しなければならない。 |