Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
物権変動の対抗要件に関する問題 平成8年・問3
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | × | × |
Aの所有する土地について,AB間で,代金全額が支払われたときに所有権の移転登記をする旨の約定をして,売買契約が締結された。この場合,次のそれぞれの記述は民法の規定及び判例によれば,○か×か。(平成8年・問3) |
1.「AからBへの所有権移転登記が完了していない場合は,BがAに代金全額を支払った後であっても,契約の定めにかかわらず,Bは,Aに対して所有権の移転を主張することができない。」 |
【正解:×】 ◆移転登記がすんでなくても,売主に所有権の移転は主張できる 不動産に関する物権変動は,登記がなければ第三者に対抗する(権利を主張する)ことができません(民法第177条)。 しかし,本問の場合のA(売主)とB(買主)との関係は、売買契約の当事者間の関係であって,当事者の“意思表示”の時点ですでに移転しており(第176条),当事者間では,所有権移転登記がすんでなくても,所有権の移転を主張できます。 ▼売主は,民法第177条で定める「登記なくして対抗できない第三者」の関係ではありません。 |
2.「BがAに代金全額を支払った後,AがBへの所有権移転登記を完了する前に死亡し,CがAを相続した場合,Bは,Cに対して所有権の移転を主張することができる。」 |
【正解:○】 ◆売主が死亡 A(売主)…→ C(Aの相続人) 相続人は,原則として,被相続人(死亡者)の有した一切の権利義務を受け継ぎます(第896条)。 したがって,本問の場合の相続人Cは,Aに交替して売主としての立場も受継いで当事者となるため(A=C),買主Bは,登記なくして,Cに対抗することができます。 |
3.「Aが,Bとの売買契約締結前に,Dとの間で本件土地を売却する契約を締結してDから代金全額を受領していた場合,AからDへの所有権移転登記が完了していなくても,BはAから所有権を取得することはできない。」 |
【正解:×】 ◆二重譲渡 B(第二譲受人) 本肢の場合の売主Aは,土地をBとDに“二重譲渡”したことになり,BとDとの優劣は売買契約の先後ではなく,“先に移転登記を受けた者”となります(第177条)。 本肢では,『Dから代金全額を受領していた場合』とありますが,AD間で『代金全額を支払ったときに所有権を移転する』という契約になっていたか不明なので,Dに登記があるとは言えず,BもDも登記を得ていないということで考えていく必要があります。 したがって,Dはまだ登記を得ていないため,Bが登記を先に受ければ,BはDに対抗することができます。全額を払ったかどうかというのは対抗要件にはなりません。 |
4.「EがAからこの土地を賃借して,建物を建てその登記をしている場合,BがAに代金全額を支払った後であれば,AからBへの所有権移転登記が完了していなくても,Bは,Eに対して所有権の移転を主張することができる。」 |
【正解:×】 ◆賃貸人の地位のチェンジ A(土地の所有者。賃貸人)…→ B(土地の新・所有者。新・賃貸人) 買主Bが土地賃借人Eに対して所有権の移転を主張するためには,代金の支払いだけでは足りません。 判例によれば、他人に賃貸中の土地の譲受人(この場合はB)は,その“登記”を経由しなければ,当該賃借人(=売買契約上の第三者=E)に対抗することはできません。 つまり,買主Bが売主Aに代金全額を支払っても,BとAの当事者間ダケでしかわからないことであって,部外者には,特段の事由がない限り,土地の所有者がAからBに代わったことを知りようもないからです |