Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
危険負担に関する問題 平成8年・問11
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
AがBに対し,A所有の建物を売り渡し,所有権移転登記を行ったが,まだ建物の引渡しはしていない場合で,代金の支払いと引換えに建物を引渡す旨の約定があるときに関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成8年・問11) |
1.「代金の支払い及び建物の引渡し前に,その建物が地震によって全壊したときは,Aは,Bに対して代金の支払いを請求することはできない。」 |
【正解:×】 ◆滅失のときの危険負担の債権者主義 代金の支払いや引渡しに関係なく、建物の売買契約の時点において「所有権は売主Aから買主Bに移転」しています(民法第176条)。 したがって売買の目的物が引渡し前に、売主Aの責任ではない事由によって全壊(または毀損)しても、売主Aは、買主Bに対して代金全額の支払いを請求することができます(第534条1項)。 つまり、その引渡しにつき債権者であるところの買主が不可抗力による危険を負担することになるのです。これを『危険負担の債権者主義』といいます。 <参考>金銭貸借の担保としてその家屋に抵当を付けたような場合(物権の設定)も同様に、不可抗力による危険は債権者(抵当権者)が負担します。 |
2.「代金の支払い及び建物の引渡し前に,その建物の一部が地震によって損壊したときは,Aは,代金の額から損壊部分に見合う金額を減額した額であれば,Bに対して請求することができる。」 |
【正解:×】 ◆毀損のときの危険負担の債権者主義 設問1でも解説しましたが、売買契約の時点で所有権は移転していますから、売主Aは、損壊した建物を引き渡して、その“損壊の程度に関係なく”買主Bに対して代金の全額を請求できます。 |
3.「Aが自己の費用で建物の内装改修工事を行って引渡すと約束していた場合で,当該工事着手前に建物が地震で全壊したときは,Aは,内装改修工事費相当額をBに対して償還しなければならない。」 |
【正解:○】やや難 ◆債務者の利益償還義務 債権者が危険を負担する場合に,債務者が債務の全部または一部を免れることにより利益を得ているときは,公平の見地からその利益を債権者に償還しなければなりません。 本肢で考えると,債務者である売主Aは、地震によって債務を免れたことにより利益、つまり「内装工事が不要になった」ため、内装工事費相当額の利益を受けており(=Aは自己の費用を出すことなく全壊したママの建物を買主Bに引渡して代金を受領することができる)、Aは、工事費相当額をBに償還しなければなりません(第536条2項類推適用)。 なお、「…残債務を免れたことにより受けた利益は、注文者に償還しなければならない」と、同様の判例もあります。 |
4.「Bが代金の支払いを終え,建物の引渡しを求めたのにAが応じないでいる場合でも,建物が地震で全壊したときは,Bは,契約を解除して代金の返還を請求することができない。」 |
【正解:×】 ◆履行遅滞後の履行不能は債務者の責任 本肢は、売主A(債務者)に帰責事由があり、危険負担の問題ではありません。 債務者Aが“履行遅滞”になった後に目的物が滅失したときは、判例によれば、適時に履行をしていればこのような損害は生じなかったであろうと考えられるためAの責任による履行不能であり、Bは当該“契約を解除”することができ、代金の返還請求もできます(第541条、第543条、大審院・明治39.10.29)。 |