Brush Up! 権利の変動篇

危険負担の過去問アーカイブス 平成元年・問9


所有の家屋につき,を売主,を買主とする売買契約が成立した。この場合,民法の規定によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。(平成元年・問9)

1.「家屋の所有権移転登記後,引渡し前に,その家屋が天災によって滅失した場合,は,に対し代金を請求することができない。」

2.「家屋の所有権移転登記後,引渡し前に,その家屋が放火によって半焼した場合,は,に対し代金の減額を請求することができる。」

3.「家屋の所有権移転登記後,引渡し前に,その家屋がの失火によって焼失した場合,その契約は失効する。」

4.「家屋の所有権移転登記が完了し,引渡し期日が過ぎたのに,がその引渡しをしないでいたところ,その家屋が類焼によって滅失した場合,は,契約を解除することができる。」

【正解】

× × ×

1.「家屋の所有権移転登記後,引渡し前に,その家屋が天災によって滅失した場合,

は,に対し代金を請求することができない。」

【正解:×

◆滅失のときの危険負担の債務者主義

  契約締結  移転登記  天災により滅失

 ――――――――――――――→

 契約成立後に、引渡し債務が実現できない。

 特定物の売買契約(特定物に関する所有権の移転を目的とする双務契約)では、契約が成立して引渡しをする前に、売主(債務者)の責任ではない事由で目的物が滅失・毀損したときは、負担契約についての別段の特約がなければ、そのリスクは買主(債権者)が負担し、買主は代金の支払いを免れることはできませんでした。(危険負担の債権者主義)

  したがって、引渡し前に建物が大地震により滅失したとき,の帰責事由による滅失ではないために対し代金を請求することができます。
●関連問題
1.「に対し,所有の建物を売り渡し,所有権移転登記を行ったが,まだ建物の引渡しはしていない。また,代金の支払いと引換えに建物を引渡す旨の約定がある。

 が自己の費用で建物の内装改修工事を行って引渡すと約束していた場合で,当該工事着手前に建物が地震で全壊したときは,は,内装改修工事費相当額をに対して償還しなければならない。」(平成8年・問11・肢3)

【正解:

◆利益償還請求権

 契約締結  移転登記  地震により全壊

 ――――――――――――――→

 売主・は、建物が地震で全壊したことによって、引渡し債務を免れていますが(危険負担の債権者主義)、このことで本来は、引渡し前にしなければならなかった「自己の費用で建物の内装改修工事」をしなくてすみ、内装改修工事費の相当額の出費を免れ、その分の利得を得たことになります。

 判例では、債務者が債務を免れたことによって利益を得たときは、その利益を債権者に償還する義務を負うとしています。これは危険負担について債権者主義をとる場合にも適用されるとしています。(536条2項の類推適用、大審院・大正15.7.20)

 

2.「家屋の所有権移転登記後,引渡し前に,その家屋が放火によって半焼した場合,

は,に対し代金の減額を請求することができる。」

【正解:×

◆毀損のときの危険負担の債務者主義

 契約締結  移転登記  放火により半焼

 ――――――――――――――→

【危険負担の債権者主義】

 契約成立引渡し前に滅失or毀損,債務者に帰責事由がない場合は、
滅失・毀損のどちらでも債権者が負担する。

 滅失 → 代金支払いを免れない

 毀損 → 減額請求はできない

 特定物の売買契約の成立後、引渡し前に引渡し債務の債務者(売主)に責任のない事由で、売買の目的物が滅失・毀損した場合は、そのリスクは、買主つまり債権者が負担します(534条1項)

 目的物が毀損した場合は、売主毀損したまま引き渡せば債務を履行したことになります(483条)

 このとき、買主は、代金の減額を請求することはできず、代金を全額支払わなければいけません。

3.「家屋の所有権移転登記後,引渡し前に,その家屋がの失火によって焼失した

場合,その契約は失効する。」

【正解:×

◆債務不履行(履行不能)

■特定物の引渡債務の原則
                      債務者に帰責事由がある → 債務不履行
                     /  
 契約成立引渡し前に滅失 
                    \
                      債務者に帰責事由がない → 危険負担

 契約締結  移転登記  の失火により滅失

 ――――――――――――――→

 契約成立後に、引渡し債務が実現できない。 

  本肢では、債務者に帰責事由があるので、"履行不能による債務不履行"の問題になります。この場合、に対して損害賠償を請求することができますが、契約を解除することもできます。

履行の全部または一部債務者の責めに帰すべき事由によって不能となったときは,債権者は契約の解除をすることができる。(543条)

 したがって、本肢の表現の「契約が失効する」ということとは違います

4.「家屋の所有権移転登記が完了し,引渡し期日が過ぎたのに,がその引渡しを

しないでいたところ,その家屋が類焼によって滅失した場合,は,契約を解除する

ことができる。」

【正解:

◆債務不履行(履行遅滞+履行不能)

■特定物の引渡債務の原則
                      債務者に帰責事由がある → 債務不履行
                     /  
 契約成立引渡し前に滅失 
                    \
                      債務者に帰責事由がない → 危険負担

 契約締結  移転登記  引渡し期日      類焼により滅失

 ―――――――――――――――――――――→
                     履行遅滞

 所有権移転登記は行ったが、引渡しがまだ終わっていない時点で滅失

  (売主)-----------------------------(買主) 
  引渡し未了 →履行遅滞
    ↓
  類焼により建物が焼失 →履行不能 

 判例によれば、の履行遅滞後に、不可抗力により引渡し債務の目的物が滅失し、履行不能になった場合、に対する損害賠償請求権が発生すると同時に、Bの解除権も生じます。

 したがって、は,契約を解除することができます。

 Aは、引渡し債務の履行を遅滞しており、債務者の責に帰せない不可抗力による
 履行不能とはいえ、適時に履行していればこのような損害は生じなかったと考え
 られ、履行遅滞をした者は履行不能の賠償責任についても免れない
 (大審院・明治39.10.29)


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