Brush Up! 権利の変動篇

危険負担の過去問アーカイブス 昭和57年


所有の建物につき,を売主,を買主とする売買契約が成立したが,移転登記もすまないうちに,建物が落雷で焼失してしまった。この場合,負担契約について特約がなかったとして,民法の規定によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。なお,この建物が焼失した時点は,引渡し期限の前であるとする(昭和57年・問5)

1.「売買契約は無効となる。」

2.「は,の履行不能を理由に売買契約を解除することができる。」

3.「売買契約は無効であり,は,に対し,建物に代えてその評価額に相当する金額を請求することができる。」

4.「売買契約は有効であり,は,に対し,代金の支払を請求することができる。」

◆特定物の引渡し債務での不能のまとめ
 不能の分類  内容  法的処理
■原始的不能

 目的物の滅失  契約締結  

 ――――――――――――→

契約は成立したが、

契約成立時点で給付の実現が不可能。

 契約は無効

■原始的瑕疵 契約は成立したが、契約成立時点で、

売買の目的物に瑕疵(欠陥)がある。

 担保責任(売主の無過失責任)
■後発的不能

  契約締結  目的物の滅失

 ――――――――――→

 契約成立後に、

引渡し債務が実現できない

 債務者に、

 帰責事由があるか、ないかで

 法的処理は異なる

(1) 債務者に帰責事由があるもの

 → 債務不履行(履行不能)
(2) 債務者に帰責事由がないもの   → 危険負担

【正解】

× × ×

【正解:

◆特定物の引渡債務:危険負担の『債権者主義』

  契約締結  落雷で焼失(滅失)

 ――――――――――→

 契約成立後に、引渡し債務が実現できない。

■特定物の引渡債務の原則
                      債務者に帰責事由がある → 債務不履行
                     /  
 契約成立引渡し前に滅失 
                    \
                      債務者に帰責事由がない → 危険負担
 

 特定物の売買契約(特定物に関する所有権の移転を目的とする双務契約)では、契約が成立して引渡しをする前に、売主(債務者)の責任ではない事由で目的物が滅失したときは、負担契約についての別段の特約がなければ、そのリスクは買主(債権者)が負担し、買主は代金の支払いを免れることはできませんでした。(危険負担の債権者主義)

目的物の滅失が売主(債務者)の責任によるものならば債務不履行(履行不能)となり、買主(債権者)は損害賠償を請求することができ、契約の解除権も発生しました。

 本問題では、目的物の滅失の原因が落雷であり、売主には帰責事由がないため、危険負担での債権者主義が適用されます。

 したがって、「売買契約は有効であり,は,に対し,代金の支払を請求することができる」という肢4が正しいことになります。

 (肢2は履行不能による債務不履行と混同した受験者を落とし穴に誘導する肢。)

【危険負担の債権者主義】

 契約成立引渡し前に滅失or毀損,債務者に帰責事由がない場合は、
滅失・毀損のどちらでも債権者が負担する。

 滅失 → 代金支払いを免れない

 毀損 → 減額請求はできない

 


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