Brush Up! 権利の変動篇
担保責任の過去問アーカイブス 平成11年・問10
他人物売買・抵当権・隠れた瑕疵
AからBが建物を買い受ける契約を締結した場合〔売主の担保責任についての特約はない。〕に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成11年・問10) |
1.「この建物がCの所有で,CにはAB間の契約締結時からこれを他に売却する意思がなく,AがBにその所有権を移転することができない場合でも,AB間の契約は有効に成立する。」 |
2.「Aが,この建物がAの所有に属しないことを知らず,それを取得してBに移転できない場合は,BがAの所有に属しないことを知っていたときでも,Aは,Bの受けた損害を賠償しなければ,AB間の契約を解除することができない。」 |
3.「AがDに設定していた抵当権の実行を免れるため,BがDに対しAの抵当債務を弁済した場合で,BがAB間の契約締結時に抵当権の存在を知っていたとき,Bは,Aに対し,損害の賠償請求はできないが,弁済額の償還請求はすることができる。」 |
4.「Bが,この建物の引渡し後,建物の柱の数本に,しろありによる被害があることを発見した場合は,AがAB間の契約締結時にこのことを知っていたときでないと,Bは,Aに損害賠償の請求をすることはできない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | × | × |
1.「この建物がCの所有で,CにはAB間の契約締結時からこれを他に売却する意思がなく,AがBにその所有権を移転することができない場合でも,AB間の契約は有効に成立する。」 |
【正解:○】 ◆所有者に当初から譲渡の意思がなくても無効にはならず,担保責任を負う 他人物売買では,目的物の所有者Cが当初から目的物を譲渡する意思がなくても,契約は無効にはならず,契約は有効に成立します。売主AはCから所有権を取得してBに移転する義務を負い,AがBにその所有権を移転することができないときは担保責任を負います。(最高裁・昭和25.10.26) |
2.「Aが,この建物がAの所有に属しないことを知らず,それを取得してBに移転できない場合は,BがAの所有に属しないことを知っていたときでも,Aは,Bの受けた損害を賠償しなければ,AB間の契約を解除することができない。」 |
【正解:×】 ◆売主からの解除=売主が他人物であることに善意の場合のみ 他人物売買では,売主が売買の目的物が他人の物であることを知らないで,買主に権利移転できなかった場合,善意の売主からも解除することができます。(562条) 本肢では,売主Aは自己の所有ではないことを知らず,買主Bが知っていた場合なので,損害賠償をしなくても,権利移転できなかったことを通知して解除することができます。
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買主 | 解除 | 損害賠償 | 除斥期間 | |
全部他人物売買 | 善意 | ○ | ○ | なし |
悪意 | ○ | × | なし |
⇒ 上記は,他人物の所有権移転ができないときに,売主に故意or過失がないときの原則です。売主に故意or過失があるときは,買主が悪意でも,買主は債務不履行責任の追及をすることができるので,債務不履行としての損害賠償請求をすることができます。(415条,543条,最高裁・昭和41.9.8) |
3.「AがDに設定していた抵当権の実行を免れるため,BがDに対しAの抵当債務を弁済した場合で,BがAB間の契約締結時に抵当権の存在を知っていたとき,Bは,Aに対し,損害の賠償請求はできないが,弁済額の償還請求はすることができる。」 |
【正解:×】 ◆抵当権の実行を免れるための出捐 D (抵当権者) 本肢は,『抵当権の存在を知っていたとき,Bは,Aに対し,損害の賠償請求はできないが,弁済額の償還請求はすることができる』とあるので×です。 売買の目的物に抵当権が設定されていて買主が抵当権の実行を免れるために出捐〔第三者弁済・代価弁済・抵当権消滅請求など〕したときは,買主は善意悪意にかかわらず,その償還を請求することができ,損害を受けたときは損害賠償を請求できます。(567条2項・3項) 本肢では『BがDに対しAの抵当債務を弁済した』となっていて,Bが第三者弁済したことを示しています。第三者弁済とは,債務者に代わって第三者が債務を弁済することをいい,抵当権の被担保債権が第三者によって弁済されると連動して抵当権も消滅します。 ★Bが第三者弁済した場合は,567条2項による償還請求をしないで,Bが債権者Dに代位することによって求償を確保することもできます。〔弁済による代位〕(500条)→代価弁済・抵当権消滅請求では被担保債権を弁済したことにはならないため代位することはできません。
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買主 | 出捐の償還請求 | 損害賠償 | 除斥期間 | |
抵当権による出捐 | 善意 | ○ | ○ | ない |
悪意 | ○ | ○ | ない |
買主が支払う金額 | イニシアティブ | 買主が有利なとき | |
第三者弁済 (474条) | 被担保債務全額 | − | 被担保債権<時価 |
代価弁済 (377条) | 抵当権者の請求額 | 抵当権者 | 時価<被担保債権 |
抵当権消滅請求 (378条) | 買主が相当とする価額 | 買主 | 時価<被担保債権 |
4.「Bが,この建物の引渡し後,建物の柱の数本に,しろありによる被害があることを発見した場合は,AがAB間の契約締結時にこのことを知っていたときでないと,Bは,Aに損害賠償の請求をすることはできない。」 |
【正解:×】 ◆担保責任は無過失責任 担保責任は売主の無過失責任です。売主Aは契約当時しろありについて知らなくても,担保責任を負います。〔判例・通説〕 したがって,Bは,Aに損害賠償の請求をすることができます。 |
買主 | 損害賠償 | 解除 | 除斥期間 | |
隠れた瑕疵 | 善意無過失 | ○ | ○ | 知ったときから1年 |
悪意 | Φ | Φ | Φ |