Brush Up! 権利の変動篇

担保責任の過去問アーカイブス 平成15年・問10

隠れた瑕疵 (瑕疵担保責任)


●コメント
 近年では2年連続出題というのはなかったのに,平成14年・15年と連続出題でした。担保責任は売買契約では基本事項なのに,平成14年の自己採点集計の正答率では70%前後だったので,出題者は味をしめて裏をかいたものと思われます〔瑕疵担保責任は前年に出題されたから平成15年は出題されないと言明していた指導機関もあります。〕しかし,受験者もしっかり対策をしていたので,平成15年の正答率は80%を超えていました。さすがですね。

が,から所有の土地付中古建物を買い受けて引渡しを受けたが,建物の主要な構造部分に欠陥があった。この場合,民法の規定及び判例によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。なお,瑕疵担保責任(以下この問において「担保責任」という。 )については,特約はない。(平成15年・問10)

1.「が,この欠陥の存在を知って契約を締結した場合,の担保責任を追及して契約を解除することはできないが,この場合の建物の欠陥は重大な瑕疵なのでに対して担保責任に基づき損害賠償請求を行うことができる。」

2.「が,この欠陥の存在を知らないまま契約を締結した場合,の担保責任を追及して契約の解除を行うことができるのは,欠陥が存在するために契約を行った目的を達成することができない場合に限られる。」

3.「が,この欠陥の存在を知らないまま契約を締結した場合,契約締結から1年以内に担保責任の追及を行わなければ,に対して担保責任を追及することができなくなる。」

4.「AB間の売買契約が,宅地建物取引業者の媒介により契約締結に至ったものである場合,に対して担保責任が追及できるのであれば,に対しても担保責任を追及することができる。」

【正解】

× × ×

1.「が,この欠陥の存在を知って契約を締結した場合,の担保責任を追及して契約を解除することはできないが,この場合の建物の欠陥は重大な瑕疵なのでに対して担保責任に基づき損害賠償請求を行うことができる。」

【正解:×

◆隠れた瑕疵 : 買主が悪意のときは,追及できない。

 建物の欠陥が重大な瑕疵であっても〔つまり瑕疵の程度には関係なく〕,買主が悪意であれば,承知の上で売買契約を締結したのですから,買主は担保責任を追及することはできません。(判例,570条)

 したがって,解除権を行使できないことはもちろん,損害賠償も請求することはできません。本肢は「買主が悪意のとき,解除はできないにしても,損害賠償請求はできる」としているので×です。

瑕疵担保責任は,売買目的物の隠れた欠陥(瑕疵)を知らないで購入した買主を保護するための規定です。売主に過失がなくても,売主は瑕疵担保責任を負うという厳しいものなので,買主が悪意の場合にまで売主に担保責任を負わせるということは妥当ではありません。

    買主  損害賠償  解除  除斥期間
 隠れた瑕疵  善意無過失      知ったときから1年
 悪意  Φ  Φ   Φ

2.「が,この欠陥の存在を知らないまま契約を締結した場合,の担保責任を追及して契約の解除を行うことができるのは,欠陥が存在するために契約を行った目的を達成することができない場合に限られる。」

【正解:(最近の出題歴・平成14年問9肢4)

◆隠れた瑕疵 : 買主が善意無過失で,瑕疵のため契約の目的が達成できないときは買主は解除することができる

 売買の目的物に買主の知らなかった瑕疵があったときは,契約の目的を達成できないときに限り,解除することができます。このとき損害があれば,解除とともに買主は損害賠償も請求することができます(570条,566条1項)

 したがって,本肢は正しい記述です。

    買主  損害賠償  解除  除斥期間
 隠れた瑕疵  善意無過失      知ったときから1年
 悪意  Φ  Φ   Φ

3.「が,この欠陥の存在を知らないまま契約を締結した場合,契約締結から1年以内に担保責任の追及を行わなければ,に対して担保責任を追及することができなくなる。」

【正解:×(最近の出題歴・平成14年問9肢3)

◆隠れた瑕疵: 除斥期間は,知ったときから一年以内

 売買の目的物に『隠れた瑕疵』があったとき,買主が契約時にそのことについて善意無過失であり,発見したときから1年以内であれば,損害賠償請求や(契約の目的を達成できないならば)解除権を行使して担保責任を追及することができます。

 この行使方法について,判例では『解除や損害賠償請求は裁判外の意思表示でもよい』としています(最高裁・平成4.10.20)が,損害賠償請求については,債務不履行から生じた債権なので,意思表示の時を起算点とするのではなく,引渡しのときから10年の消滅時効にかかるとしています。(最高裁・平成13.11.27)

 本肢では,「契約締結から1年以内に」となっているので×です。

〔判例要旨〕 平成13.11.27

 買主の売主に対する『瑕疵担保による損害賠償請求権』は,売買契約に基づいて法律上生ずる金銭支払請求権であるから,消滅時効の規定の適用(167条1項)があり,この消滅時効は,買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行する。

 したがって,買主が引渡しより10年以上経過してから瑕疵に気がついても,損害賠償請求はできない〔ただし,住宅品確法などで当事者間に10年を超える担保責任の定めがある場合を除く。〕

●知ってから1年以内 → 除斥期間
 上の判例(最高裁・平成4.10.20)で,最高裁は次の判断を示しています。

・566条3項の「知ってから一年以内」という期間制限は,「消滅時効」ではなく「除斥期間
 ⇒消滅時効とすると時効の中断があることになり,短期に決済するという趣旨に反する。
  そのため,知ってから一年を経過すると,担保責任を追及することはできなくなる。

・瑕疵担保責任の追及は裁判上の権利行使までは要しないので,売主の担保責任を問う意思〔瑕疵の内容と損害賠償の請求等〕を裁判外で表明することでもよい。

4.「AB間の売買契約が,宅地建物取引業者の媒介により契約締結に至ったものである場合,に対して担保責任が追及できるのであれば,に対しても担保責任を追及することができる。」

【正解:×

◆隠れた瑕疵 : 媒介業者には,担保責任を追及できない

 『民法の規定及び判例によれば』という文言で迷ったかもしれません。売買の目的物に瑕疵があったときに,一般に,媒介した宅建業者に責任が及ぶかどうかについて考えるとドツボにはまってしまいます。しかし,問題文では「担保責任」という文言を使っているので,ここを突破口にしましょう。

 担保責任は,買主と売主の間の売買契約において売主が負わなければいけないものです。媒介業者は売主ではないので,瑕疵ある物件を媒介したからといって民法570条の瑕疵担保責任そのものを負うことはありません。したがって,このため本肢は×です。

しかしながら,「宅建業者が瑕疵ある物件を媒介したことでどんな場合でも法的な責任がない」ということではないのです。場合によっては,債務不履行責任不法行為責任を負うことがあるからです。

 瑕疵担保責任の裁判例では,売主の瑕疵担保責任とともに,媒介した宅建業者の債務不履行責任や不法行為責任が認められる場合があります。

 債務不履行責任・・・買主と宅建業者との間に媒介契約があれば,媒介契約は民法上の准委任契約(656条)と解されているので〔判例・通説〕,善良なる管理者の注意をもって准委任事務を処理する義務を負うことになっています。(656条,644条)また,重要事項で説明告知する義務を負うのは宅建業法35条等に規定されている事項には限られないとされていることから〔昭和42.9.23建設省計画局長通達,昭和59.12.20建設省不動産課長通達〕,買主が購入の意思決定をするに当たって過不足ない情報を提供する義務があると考えられています。

 宅建業者は不動産の専門家なので,(1)法令上の制限や権利関係については,普通の人に比べて高度の注意義務があると考えられています。(2)ただし,隠れた瑕疵があるかどうかや宅地造成・建築物の構造については専門家ではないので,媒介契約では一般的な業務上の注意義務にとどまるものと解されています。〔通説,地裁・高裁の裁判例〕

 (2)については,専門家ではないとはいえ,瑕疵を知っていた場合や瑕疵が疑われるのが相当な場合,書類の確認を怠った場合などで告知しなかったときは〔悪意または有過失のとき〕,債務不履行責任が媒介業者に認められることがあります。

 不法行為責任・・・瑕疵のある物件を媒介したことが,業務上の一般的注意義務に違反して故意または過失により買主の権利を侵害したとみなされる場合は,債務不履行責任ではなく不法行為責任(709条)を追及されることがあります。また,複数の宅建業者が媒介しているときには,売主側の媒介業者に不法行為責任が認められる場合があります。

関連する宅地建物取引業法

宅建業法31条 媒介契約およびその付随義務

宅建業法35条 重要事項

宅建業法47条1項1号 故意に事実を告げない場合

宅建業法65条 著しく不当な行為の場合〔当然知っていなければならないのに知らないため,告知しなかった〕


担保責任のトップに戻る

Brush Up! 権利の変動のトップに戻る