Brush Up! 権利の変動篇

担保責任の過去問アーカイブス 

一部他人物・用益物権・抵当権・隠れた瑕疵 昭和60年・問5


土地について,を売主,を買主とする売買契約が成立した。この場合,民法の規定によれば,次の記述のうち誤っているものはどれか。(昭和60年・問5)

1.「その土地の一部がに属しているため,がこれをに移転することができないときは,が悪意であっても代金の減額を請求することができるが,善意でなければそれに加えて損害賠償を請求することはできない。」

2.「その土地が地上権の目的になっているときは,は,悪意であっても損害賠償を請求することができるが,善意であって,かつ,その土地が地上権の目的となっていることにより契約をなした目的を達することができない場合でなければ,契約を解除することはできない。」

3.「その土地に抵当権が設定されているときは,は,悪意であっても,自ら出捐をなしてその所有権を保存したときは,に対してその出捐の償還を請求することができる。」

4.「その土地に隠れた瑕疵があったときは,瑕疵担保責任を負わない旨の特約をしていた場合であっても,は,自ら知っていながらに告げなかった瑕疵については,瑕疵担保責任を免れることはできない。」

【正解】

×

1.「その土地の一部がに属しているため,がこれをに移転することができないときは,が悪意であっても代金の減額を請求することができるが,善意でなければそれに加えて損害賠償を請求することはできない。」

【正解:

◆一部他人物

 売買の目的の一部が他人に属しているため売主がこれを買主に移転することができないときは,買主は,善意・悪意にかかわらず,代金減額請求をすることができますが,善意であれば,損害賠償も合わせて請求することができます。

 また,残ったものでは買わなかったという事情があれば,善意の買主は,契約を解除し損害賠償を請求することができます。(563条)

    買主  代金減額  解除  損害賠償  除斥期間
 一部他人物売買  善意        知ったときから1年
 悪意    ×  ×  契約時から1年

2.「その土地が地上権の目的になっているときは,は,悪意であっても損害賠償を請求することができるが,善意であって,かつ,その土地が地上権の目的となっていることにより契約をなした目的を達することができない場合でなければ,契約を解除することはできない。」

【正解:×

◆用益権などが設定 : 損害賠償(+解除)

 売買の目的物の土地の上に第三者の用益権が設定されているときは,使用収益に制限を受けることになるので,善意の買主は,それだけで損害賠償の請求をすることができます。さらに,契約を締結した目的を達成することができない場合は解除することもできます。(566条)

 本肢は,後半部分の解除の記述は正しいのですが,前半部分の『悪意であっても損害賠償を請求することができる』という記述が誤っています。途中をよく見ないで後半部分だけ見て正誤を判断する人がいますが,そのような人をヒッカケるために作ったものと思われます。

    買主  損害賠償  解除  除斥期間
 用益権などの設定  善意      知ったときから1年
 悪意  Φ  Φ   Φ

3.「その土地に抵当権が設定されているときは,は,悪意であっても,自ら出捐をなしてその所有権を保存したときは,に対してその出捐の償還を請求することができる。」

【正解:

◆出捐して所有権を保存した場合の担保責任

 売買の目的物に抵当権が設定されていて買主が抵当権の実行を免れるために出捐〔第三者弁済・代価弁済・抵当権消滅請求など〕したときは,買主は善意悪意にかかわらず,その償還を請求することができ,損害を受けたときは損害賠償を請求できます。(567条2項・3項)

担保物権の実行を免れるため出捐したときの担保責任の考え方

 善意・悪意の買主・出捐の償還請求
              └  損害があれば,損害賠償請求することができる

     買主  出捐の償還請求  損害賠償  除斥期間
 抵当権による出捐  善意      ない
 悪意      ない

    買主が支払う金額 イニシアティブ  買主が有利なとき
 第三者弁済 (474条)  被担保債務全額  −  被担保債権<時価
 代価弁済 (377条)  抵当権者の請求額  抵当権者  時価<被担保債権
 抵当権消滅請求(378条)  買主が相当とする価額  買主  時価<被担保債権

4.「その土地に隠れた瑕疵があったときは,瑕疵担保責任を負わない旨の特約をしていた場合であっても,は,自ら知っていながらに告げなかった瑕疵については,瑕疵担保責任を免れることはできない。」

【正解:

◆担保責任免除の特約

 担保責任は任意規定なので,当事者の合意で免除したり加重する特約も有効です。〔無担保の特約とは,担保責任を免除する特約を意味します。〕(572条)

 しかし,いくら当事者に担保責任免除の特約があったとしても,売主が知っていながら告げなかった場合は信義則に反するため,売主は担保責任を免れることはできません。

    買主  損害賠償  解除  除斥期間
 隠れた瑕疵  善意無過失      知ったときから1年
 悪意  Φ  Φ   Φ

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