Brush Up! 権利の変動篇

契約総合の過去問アーカイブス 金銭消費貸借契約 平成3年・問9


に対する貸金に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,誤っているものはどれか。(平成3年・問9)

1.「AB間で利息について定めをしても,利率について別段の定めがないときは,は,利息を請求することができない。」

2.「AB間で返済時期について別段の定めがないときは,は,相当の期間を定めて,返済を催告することができる。」

3.「AB間で返済場所について別段の定めがないときは,は,の住所で返済しなければならない。」

4.「が返済をしようとしても,が受取証書を交付しないときは,は,その交付がなされるまで,返済を拒むことができる。」

【正解】

×

▼消費貸借とは何か−成立要件は,消費物の引渡し

 当事者の一方(借主)が,同種・同品質・同量のものを返還することを約束して,相手方(貸主)から金銭その他の代替物〔味噌・醤油・米なども含む〕を受け取ることによって成立する契約。(587条)〔借りて消費した同種・同質・同量のものを返すというのが借主の債務となる。消費貸借とは,要物契約(ものの引渡しがあってはじめて成立)のひとつで,貸主が貸すことを約束しただけではダメで,借主が消費物を受け取って初めて契約が成立します。これに対して売買契約は諾成契約で,当事者の合意だけで成立します。

 借主が目的物の所有権を取得し,同価値のものを返還する点で他の貸借型の契約とは異なります。ほかの貸借〔賃貸借・使用貸借〕では,借りたものの所有権を取得できないし,借りたものと同一物を返還するからです。

 簡単に言えば,借主は『借りた物を費消してそれと同じ物を返す』という約束で物を借りるのが消費貸借です。元々は,当事者間の信頼関係を基礎に,相互扶助によって成り立つために,原則として無利息です。〔集合住宅などで,料理しているときに味噌や調味料がなくなったときに,知り合いのお隣さんから借りて,使った分を補充して返すことがありますが,これが消費貸借です。〕

 この消費貸借の中で借りるものが金銭の場合が金銭消費貸借です。もともとは個人間の相互扶助から発生したものであるため,無利息が原則ですが,特約で利息をつけることができるため,実際には,ほとんどが利息付金銭消費貸借になっています

 判例では,金銭消費貸借では,『経済上現実の授受と同一の利益』を得させればよいとし,キャッシュ(現金)で渡すほかに,預金通帳と印鑑、小切手,手形,国債などの交付や銀行口座への入金をすることでも,金銭消費貸借は成立するとしています。(大審院・明治40.5.17)

消費貸借とは,『その目的物の処分権を取得しそれと同価値のものを返すもの』なので,特定の金貨を装飾用に陳列するために貸借するようなケースは金銭消費貸借には当たらず(我妻榮・有泉亨『民法2』一粒社),『有賃貸借』(有償)や『使用貸借』(無償)になります。

なお,銀行に預金をするのは消費寄託であり,消費貸借ではありません。(666条)

1.「AB間で利息について定めをしても,利率について別段の定めがないときは,は,利息を請求することができない。」

【正解:×

◆金銭消費貸借は,特約がなければ,無利息

 消費貸借では原則として無利息ですが,当事者間の合意で利息をつけることができます。(利息付金銭消費貸借)

 利息を支払うことになっていても,貸金の利率について別段の定めがない場合は,民法の規定により,法定利率・年5%になります。(404条,419条)

商法ではこれと違う数字になっていますが,商法は試験範囲になっていないため,法定利率・年5%で覚えてください。

2.「AB間で返済時期について別段の定めがないときは,は,相当の期間を定めて,返済を催告することができる。」

【正解:

◆返済時期の定めのないときの催告−「今すぐ返せ」とは言えない

 消費貸借では,返済時期を定めなかったときは,貸主は,相当の期間を定めて返済の催告をすることができます(591条1項)この『相当期間』は,その経緯,借りた金額や借主の経済事情などによって変わります。

 また,返済時期を定めない消費貸借では,借主はいつでも返還できますが,利息付の場合ではそれまでの利息を付けて返済しなければいけません。(591条2項)

3.「AB間で返済場所について別段の定めがないときは,は,の住所で返済しなければならない。」

【正解:

◆弁済の場所

 弁済の場所は,特約または慣習で定めるのが原則です。しかし,当事者で弁済の場所について定めがない場合は,

1) 特定物の引渡し(例・不動産) を目的とする債務では,債権が発生した当時に,その物が存在した場所で

2) 上記以外の場合は、弁済をするときの債権者の住所で弁済します。(民法484条)

 本肢ではこの2) で,代金や貸金の債務は、債権者の現時の住所が弁済する場所になります。

4.「が返済をしようとしても,が受取証書を交付しないときは,は,その交付がなされるまで,返済を拒むことができる。」

【正解:

◆受取証書を交付しないとき

 弁済する者は,弁済の受領者に対して,受取証書を交付するように請求することができます。(486条)

 弁済と受取証書の交付は同時履行の関係にあるので,もし,弁済の受領者が受取証書を交付しないならば,受取証書を交付するまで弁済を拒んだとしても履行遅滞の責めを負うことにはなりません。(533条,大審院・昭和16.3.1)

●債権証書請求権(487条)

 債権全部の弁済を終えたときは,その債権証書〔借用書など〕の返還を請求できます。〔一部弁済でも,不足額が僅かの場合は信義則により債権者は証書の返還を拒否できない。(判例・昭和9.2.26)

 ⇒通説では,債権証書の返還と弁済とは同時履行の関係には立たないとされます。

受取証書請求権 判例  弁済と受取証書→同時履行の関係に立つ
債権証書請求権 通説  弁済と債権証書→同時履行の関係には立たない

弁済の費用

 弁済について費用がかかるときは原則として〔別段の意思表示がないとき〕債務者の負担とし,債権者が住所を移転したなどの理由で弁済の費用が増加したときは債権者が負担します。(485条)


契約総合のトップに戻る

Brush Up! 権利の変動に戻る