Brush Up! 権利の変動篇

契約総合の過去問アーカイブス 第三者のためにする契約 昭和57年・問9


●メッセージ
 『第三者のためにする契約』は,昭和57年・58年に連続して出題されました。『例外のそのまた例外』ともいうべき問題です。

が自己の土地をに譲渡し,がその代金をに支払う旨の契約がAB間でなされた。この場合,次の記述のうち誤っているものはどれか。(昭和57年・問9)

1.「が通謀して虚偽の意思表示による契約をした場合には,は,たとえが善意であっても代金を支払う必要がない。」

2.「が代金の支払を受ける旨の意思表示をした後は,AB間の契約が無効又は取り消し得べきものであるとしても,が善意ならば,は,それを主張することができない。」

3.「が代金の支払を受ける旨の意思表示をした後は,原則としては契約の内容を変更し又は消滅させることができない。」

4.「は,AB間の契約に不満であってもその契約を解除することはできない。」

【正解】

×

◆第三者のためにする契約

 『第三者のためにする契約』とは,契約の当事者の一方が第三者に直接に債務を負担することを相手方に約する契約です。

 (要約者)――→(諾約者)
            
            (受益者)

 に何らかの債務を負い,はその対価としてに何らかのものを給付する債務を負担,は契約の当事者ではありませんが,直接に対して給付請求の権利を持つ。

 「何もそんなマダルッコシイことをしなくても」と思われるかもしれませんが,このような契約形態は,実は,私たちの日常にもあります。に代金を払ってに分譲マンションを給付させるなどの場合は,登記費用の節約などの実利があります。〕

 【例1】 生命保険の受取

 被保険者(要約者)―――保険会社(諾約者)
                   |
                 保険の受取人(受益者)

 【例2】 お中元やお歳暮の配送 (⇔異論あり)

 百貨店(要約者)―――運送会社(諾約者)
                   |
               中元・歳暮の届先(受益者)

受益者の権利は,諾約者に対して契約の利益を享受する意思表示をしたときに発生する。(537条2項)

受益者の権利内容はABの契約によって定まり,が受益の意思表示をした後は,の権利内容を変更したり,消滅させることができなくなる。(538条)

は,AB間の契約に無効・取消・解除・同時履行の抗弁権などが生じた場合は,それをに対抗することができる。(539条)

 このため,以下の規定の第三者が受益者の場合は適用除外になります。

 → 通謀虚偽表示での無効を善意の第三者には対抗できない。(94条2項)

 → 詐欺による取消は,取消前の善意の第三者には対抗できない。(96条3項)

 → 契約の解除は第三者の権利を害することはできない。(545条1項但書)

 恐らく,この適用除外が出題者の狙いとする論点だったと思います。

●昭和58年・問6・肢3

3.「当事者の一方が第三者に対して一定の給付をする旨の契約が締結された場合

において、その第三者の権利は、債務者に対してその第三者が契約の利益を享受

する意思を表示したときに発生する。」

【正解:

◆第三者に給付をする旨の契約

 (要約者)――→(諾約者)
            
            (受益者)

 第三者のためにする契約とは,要約者が契約によって取得する権利を第三者である受益者に帰属させる契約です。

  第三者の権利は、第三者が債務者に対して契約の利益を享受する意思を表示したとき(黙示でもよい)に成立します。(民法537条2項)
 第三者(受益者)の意思を無視することはできないからです。

 その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求することができます。

間違いやすいのですが、第三者の受益の意思表示は第三者の権利発生要件であって、契約の効力発生要件ではありません。

1.「が通謀して虚偽の意思表示による契約をした場合には,は,たとえが善意であっても代金を支払う必要がない。」

【正解:

◆無効・取消・解除になったら,受益者は対抗できない

        虚偽表示
 (要約者)――――→(諾約者)
               
               (受益者)

 諾約者は,AB間の契約に無効・取消・解除・同時履行の抗弁権などが生じた場合は,受益者の善意・悪意には関係なく,受益者に対抗することができます。(539条)

 このため,『通謀虚偽表示では,当事者間では無効だが,その無効を善意の第三者には対抗できない。』という94条2項の規定は受益者には適用除外されています。

 したがって,AB間の契約が通謀虚偽表示の場合は,は,その無効をに対して主張できるため,たとえが善意であっても,に代金を支払う必要はありません

2.「が代金の支払を受ける旨の意思表示をした後は,AB間の契約が無効又は取り消し得べきものであるとしても,が善意ならば,は,それを主張することができない。」

【正解:×

◆無効・取消・解除になったら,受益者は対抗できない

 (要約者)――→(諾約者)
            
            (受益者)

 諾約者は,AB間の契約に無効・取消・解除・同時履行の抗弁権などが生じた場合は,受益者の善意・悪意には関係なく,受益者に対抗することができます。(539条)

3.「が代金の支払を受ける旨の意思表示をした後は,原則としては契約の内容を変更し又は消滅させることができない。」

【正解:

◆受益の意思表示後は,契約内容の変更や消滅は不可

 (要約者)――→(諾約者)
            
            (受益者)

 が受益の意思表示をすることによって第三者の権利が発生した後は、当事者ABがこれを変更したり、消滅させることはできません(民法538条)

4.「は,AB間の契約に不満であってもその契約を解除することはできない。」

【正解:

◆解除権者 : 要約者と諾約者

 (要約者)――→(諾約者)
            
            (受益者)

 第三者のためにする契約を解除することができるのは要約者と諾約者で、諾約者が債務を履行しない場合でも、受益者である第三者には解除権はありません。

 契約を締結したのは、要約者と諾約者の二者だからです。


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