Brush Up! 権利の変動篇
代理の過去問アーカイブス
無権代理の法的効果・取消・追認 (平成4年・問3)
Aの所有する不動産について,Bが無断でAの委任状を作成して,Aの代理人と称して、善意無過失の第三者Cに売却し,所有権移転登記を終えた。この場合,民法の規定によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。(平成4年・問3) |
1.「Cが善意無過失であるから,AC間の契約は,有効である。」 |
2.「AC間の契約は有効であるが,Bが無断で行った契約であるから,Aは,取り消すことができる。」 |
3.「Cは,AC間の契約を,Aが追認するまでは,取り消すことができる。」 |
4.「AC間の契約は無効であるが,Aが追認をすれば,新たにAC間の契約がなされたものとみなされる。」 |
●メッセージ |
この問題は,非常に学習効果の高い問題で,無権代理の法的な効果を知っているかどうか,ディテールをきちんと正確に押さえているか,問う問題です。アヤフヤな知識では対処できません。 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
1.「Cが善意無過失であるから,AC間の契約は,有効である。」 |
【正解:×】 ◆無権代理の法的効果 A (本人) ◎重要 本問題の設定では,相手方が善意無過失でも表見代理の要件を満たしていないので,ふつうの無権代理の問題です。〔代理権の授与表示・権限ゆ越・代理権消滅の要件がないため〕←相手方Cは,善意無過失ですが,問題を解く上では単なるノイズになっています。
無権代理人がした契約は効果を生じず,有効とも無効とも確定しない宙吊り状態になっています。(無権代理行為は本人にも無権代理人にもその効果は帰属しない。)(113条1項) したがって,追認も取消(or追認拒絶)もなされない間は,AC間の契約は,有効ともまた無効とも確定していません。それが113条1項での『その効力を生ぜず』の意味です。 したがって,『Cが善意無過失であるから,AC間の契約は,有効』とする本肢の記述は×になります。 ▼この宙吊り状態は,本人と相手方双方のアクションによって解消されます。そのアクションには以下のものがあります。
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2.「AC間の契約は有効であるが,Bが無断で行った契約であるから,Aは,取り消すことができる。」 |
【正解:×】 ◆効果不帰属の状態で本人による取消はありえない A (本人) まず,『AC間の契約は有効』というのは,追認も追認拒絶もなされない間は,この契約は本人には効果不帰属なので誤りです。 ▼また,『Bが無断で行った契約であるから,Aは,取り消すことができる』というのもアヤシイ表現です。無権代理を理由とする取消は,契約の効力を無効にするために相手方が行います。 いったん有効に成立した契約を詐欺・強迫,制限能力などで取り消すことはできますが,『本人が無権代理を理由に取り消す』ということはありえません。(取り消すためにはその契約がもともと有効に成立していなければなりません。) |
3.「Cは,AC間の契約を,Aが追認するまでは,取り消すことができる。」 |
【正解:○】 ◆相手方の取消 A (本人) 取消は,催告とともに,無権代理の相手方から,宙吊り状態の決着をつけるアクションの一つです。 無権代理人の相手方は,過失の有無を問わず,無権代理について善意であれば,本人の追認のない間は取り消すことができます。(115条) この取り消しは,本人・無権代理人のどちらに意思表示しても構いません。 ▼ここでいう『取消』は,無権代理での有効か無効かわからない宙吊り状態を脱却するために,無権代理行為での契約を確定的に無効にするものです。 したがって,もともと有効に成立していた契約についてなされる『詐欺・制限能力での取消』により契約成立時点に遡って無効になるのとは違うことに留意しておいてください。 〔補足〕 無権代理行為 本人の追認 ――●―――――――――――――――●―――――――――――― |←『無権代理を理由とする取消』→| |←『詐欺・行為能力の制限での取消』は本人の追認の先後を問わずできる。 (i) 制限能力による取消 A (本人) Cが制限行為能力者の場合 (ii) 詐欺による取消 A (本人) Bの詐欺を理由に取消す場合。 |
4.「AC間の契約は無効であるが,Aが追認をすれば,新たにAC間の契約がなされたものとみなされる。」 |
【正解:×】 ◆追認の効果 A (本人) 追認や追認拒否は,本人から,宙吊り状態の決着をつけるアクションです。 本人が相手方に追認することで契約は契約成立時に遡って有効であることが確定し,本人に効果が帰属します。〔相手方が取り消す前であることが必要〕 本肢では,『新たにAC間の契約がなされたものとみなされる』とあるので×になります
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●参考問題 |
Aから代理権を授与されたことがないにもかかわらず,BがAの代理人としてCとの間で不動産を買い受ける旨の契約を締結した。AがCに対してその契約の目的物の引渡しを請求したときでも,その契約を追認したことにはならない。(司法書士・昭和58年・問1) |
【正解:×】
A (本人)---------Aが目的物の引渡しの請求 判例では,本人が無権代理人の締結した契約の履行を相手方に請求する行為は,『黙示の追認』にあたる,としています。(大審院・大正3.10.3) したがって,本肢のAは,黙示であれ,追認したことになるので,もはや追認拒絶することはできなくなります。 → つまり,判例では,無権代理には,『法定追認』(125条)はないが,『黙示の追認』は認められるとしています。 |