Brush Up! 権利の変動篇
代理の過去問アーカイブス
表見代理(権限踰越)と無権代理 (平成11年・問7)
Aが,A所有の1棟の賃貸マンションについてBに賃科の徴収と小修繕の契約の代理をさせていたところ,Bが,そのマンションの1戸をAに無断で,Aの代理人として賃借人Cに売却した。この場合,民法の規定及び判例によれば,次の記述のうち誤っているものはどれか。(平成11年・問7) |
1.「Aは,意外に高価に売れたのでCから代金を貰いたいという場合,直接Cに対して追認することができる。」 |
2.「Cは,直接Aに対して追認するかどうか相当の期間内に返事をくれるよう催告をすることができるが,Cがこの催告をするには,代金を用意しておく必要がある。」 |
3.「Aが追認しない場合でも,CがBに代理権があると信じ,そう信じることについて正当な理由があるとき,Cは,直接Aに対して所有権移転登記の請求をすることができる。」 |
4.「Cは,Bの行為が表見代理に該当する場合であっても,Aに対し所有権移転登記の請求をしないで,Bに対しCの受けた損害の賠償を請求できる場合がある。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | ○ | ○ |
1.「Aは,意外に高価に売れたのでCから代金を貰いたいという場合,直接Cに対して追認することができる。」 |
【正解:○】 ◆追認 A (本人)
無権代理人がした契約は効果を生じず,有効とも無効とも確定しない宙吊り状態になっています。(無権代理行為は本人にはその効果は帰属しない。)これを本人のほうで有効か無効か確定させるためには, 本人は追認するか,追認拒絶する必要があります。 追認・追認拒絶は,すでにその事実を相手方が知っていない限り,相手方に対してなされないと相手方には対抗できないとされています。(113条2項) (追認は,相手方が無権代理を理由に取り消す前にしなければいけません。) したがって,『A(本人)は直接C(相手方)に対して追認することができる』ので○になります。 |
2.「Cは,直接Aに対して追認するかどうか相当の期間内に返事をくれるよう催告をすることができるが,Cがこの催告をするには,代金を用意しておく必要がある。」 |
【正解:×】 ◆催告 A (本人) 無権代理人がした契約は効果を生じず,有効とも無効とも確定しない宙吊り状態です。(無権代理行為は本人にも無権代理人にもその効果は帰属しない。) この宙吊り状態を解消するため,無権代理の相手方は,相当の期間を定めて,その期間内に無権代理人の行為を追認するか否かを確答すべきことを催告することができます。(114条前段) この催告には,代金を用意しておく必要はありません。 ▼催告に確答なし → “追認拒絶” 当該期間内に本人から確答がなかったときは,追認拒絶されたものとみなされます。(114条後段) |
3.「Aが追認しない場合でも,CがBに代理権があると信じ,そう信じることについて正当な理由があるとき,Cは,直接Aに対して所有権移転登記の請求をすることができる。」 |
【正解:○】 ◆表見代理(権限踰越) A (本人) 代理人が本人から授与された権限の範囲を超えて代理行為をした場合,相手方にそれが代理権の範囲内にあると信じるについて正当の理由があったときには(善意・無過失),相手方を保護するために,表見代理が成立し,本人に当該代理行為の効果が生じます。 本肢では,Bが授権されたのは,『賃科の徴収と小修繕の契約』なのに,『マンションの1戸を賃借人Cに売却』しており,かつ,Bの権限踰越についてCが善意無過失であることから,表見代理が成立し,Bの行為はAに帰属します。 したがって,AC間に売買契約が成立することになります。この結果,Cは,直接Aに対して,表見代理の効果を主張して本人に債務の履行を求めることができ,所有権移転登記の請求をすることができます。 ▼表見代理となったときの本人の損害 表見代理となったため,本人に損害が生じた場合は,本人から表見代理人に対して,損害賠償を請求することができます。
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4.「Cは,Bの行為が表見代理に該当する場合であっても,Aに対し所有権移転登記の請求をしないで,Bに対しCの受けた損害の賠償を請求できる場合がある。」 |
【正解:○】 ◆無権代理人の責任追及 A (本人) 表見代理が成立する場合も,無権代理の一種と見ることができます。 C(相手方)は,A(本人)に履行の請求をしないで,無権代理人Bの責任を追及して,無権代理人Bに,債務の履行を請求する,または,損害賠償請求をすることができます。(117条1項)−もっとも,Bは履行しろと言われてもAから買い取ってCに引渡しするのは不可能なので,結局のところ,損害賠償義務をBは負うことになります。 ▼判例では,無権代理人の損害賠償責任は『履行利益の賠償』であるとしています。(最高裁・昭和32.12.5) 履行利益とは,転売することによって得られた利益などを意味しています。 ▼上の表に挙げたように,表見代理の要件が満たされているときは,基本的に三つの対処の仕方があり,肢3〜肢4はその対処の仕方を確認させています。この意味で本問題は非常に学習効果の高い問題です。基本書の該当個所をよく復習しておきましょう。 |
●参考問題 |
Aは,代理権がないにもかかわらず,Bのためにすることを示して,Cとの間でB所有の土地・甲を売却する旨の契約を締結した。CがAに対し,無権代理人としての責任を追求した。この場合,Aは,自己の代理行為につき表見代理が成立することを主張して無権代理人としての責任を免れることができる。(司法書士・平成14年・問2) |
【正解:×】
B (本人) 表見代理が成立していても,相手方Cは,無権代理を主張して無権代理人Aの責任を追及することができます。 判例では,この場合,無権代理人Aは,表見代理が成立していることを主張・立証しても,無権代理人としての責任を免れることはできないとしています。(最高裁・昭和62.7.7) |