Brush Up! 権利の変動篇
代理の過去問アーカイブス
顕名・代理の瑕疵・代理人の権限・復代理人の選任 (平成13年・問8)
Aが,B所有の建物の売却(それに伴う保存行為を含む。 )についてBから代理権を授与されている場合に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成13年・問8) |
1.「Aが,Bの名を示さずCと売買契約を締結した場合には,Cが,売主はBであることを知っていても,売買契約はAC間で成立する。」 |
2.「Aが,買主Dから虚偽の事実を告げられて売買契約をした場合でも,Bがその事情を知りつつAに対してDとの契約を指図したものであるときには,BからDに対する詐欺による取消はできない。」 |
3.「Aが,買主を探索中,台風によって破損した建物の一部を,Bに無断で第三者に修繕させた場合,Bには,修繕代金を負担する義務はない。」 |
4.「Aは,急病のためやむを得ない事情があってもBの承諾がなければ,さらにEを代理人として選任しBの代理をさせることはできない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | × | × |
1.「Aが,Bの名を示さずCと売買契約を締結した場合には,Cが,売主はBであることを知っていても,売買契約はAC間で成立する。」 |
【正解:×】 ◆顕名の明示がないとき B (本人) Cは『売主はBであること』を知っていた。 代理人が行った法律行為の効果を本人に帰属させるには,『本人による代理権の授与』と『代理人が本人の名を示して法律行為をしたこと』が必要です。(99条1項) 代理人が本人のためにすることを示さずに行うと,原則として,代理人自身にその法律行為の効果が帰属します。〔顕名主義〕(100条本文) しかし,この顕名は杓子定規に捉えるものではなく,相手方が『代理人が本人のためにすることを知っていた場合』や,『注意すれば知り得た場合』には,法律行為の効果は本人に帰属します。(100条但書) → 複代理人の場合も同じです。 本肢では,Cは,売主はBであることを知っていたので,売買契約はBC間に成立することになります。したがって、×になります。 |
●類題 |
代理人が本人のためにすることを示さないで意思表示をなした場合であっても,相手方がその本人のためにすることを知っていたときには,その意思表示は直接本人に対して効力を生じる。(司法書士・平成5年・問4) |
【正解:○】 |
●参考問題 |
複代理人が本人のためにすることを示さないで行った行為については,その相手方は復代理人が本人のために行っていることを知っていたとしても,当該行為の効果は本人には帰属しない。 |
【正解:×】
復代理人は本人および第三者に対して代理人と同一の権利義務を負うので,復代理人利行為にも,上述の100条但書が適用されます。(107条2項) |
2.「Aが,買主Dから虚偽の事実を告げられて売買契約をした場合でも,Bがその事情を知りつつAに対してDとの契約を指図したものであるときには,BからDに対する詐欺による取消はできない。」(類・平3) |
【正解:○】 ◆代理の瑕疵−相手方が虚偽の事実を告げたことを本人が知っている場合 B (本人) 本人はDが虚偽の事実を告げたことを知っていた。 代理人の意思表示に瑕疵があった場合−心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫の存否,特定事情についての善意悪意,過失の有無は,代理人を基準に判断されます。(101条1項) たとえば,代理人が詐欺・強迫を受ければ,本人が詐欺・強迫を受けていなくても,本人は取り消すことができます。 しかし,代理人が特定の法律行為の委託を受け本人の指図に従って行為し,本人がその事情について知っていたり,過失で知らなかった場合には(悪意有過失),代理人が知らなかったことや代理人の無過失等を相手方に主張することができません。(101条2項) したがって,本肢は,Bがその事情を知りつつAに対してDとの契約を指図したものであることから,BはDに対して詐欺による取消はできません。 |
3.「Aが,買主を探索中,台風によって破損した建物の一部を,Bに無断で第三者に修繕させた場合,Bには,修繕代金を負担する義務はない。」 |
【正解:×】 ◆保存行為 Aは,B所有の建物の売却に伴う保存行為についてもBから代理権を授与されています。建物は,Aが買主を探索中に台風により破損したので,その保存のための修繕については,Bに無断で修繕させたとしても,Aの代理権の範囲内にあります。 したがって,第三者との修繕契約の効果は本人に直接に帰属し,Bは,修繕代金を負担する義務があると考えられます。(99条1項) ≪参考≫ 任意代理の場合の代理権の範囲として,『売買契約を締結する代理権』では,以下のものも含まれるとした判例があります。 ・登記をする権限(大審院・大正14.10.2) ・売買不成立の場合に内金や手附などの返還を受ける権限(大審院・昭和16.3.15) ・相手方から取消の意思表示を受ける権限(最高裁・昭和34.2.13) |
4.「Aは,急病のためやむを得ない事情があってもBの承諾がなければ,さらにEを代理人として選任しBの代理をさせることはできない。」(類・昭55,56,平12) |
【正解:×】 ◆複代理人の選任−任意代理人 Aは,Bから代理権を授与された『任意代理人』なので,原則として,復代理人を選任することはできませんが,本人の許諾がある場合 or やむを得ない事由がある場合は復代理人を選任することができます。(104条) 本肢では,「急病のためやむを得ない事情」と「Bの承諾」の二つとも必要だとしているので、×になります。
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