Brush Up! 権利の変動篇

代理の過去問アーカイブス 

表見代理(権限踰越・代理権消滅後の重畳適用) (昭和54年) 


に対し,から購入した土地の移転登記申請行為を依頼し,に白紙委任状を渡した。その後は後見開始の審判を受けた。ところが,は白紙委任状を悪用し,当該土地をの代理人と称してとの間に売買契約を結んでしまった。が,成年被後見人であることをまったく知らず,知らなかったことについて過失もなかった。このことについて次の記述のうち正しいのはどれか。(昭和54年)

1.「が成年被後見人となっても,代理人は能力者たることを要しないので,の代理権は消滅しておらずが白紙委任状を悪用したことによる代理権の権限ゆ越による表見代理が成立する。」

2.「に対して委任したのは,移転登記申請手続という公法上の行為であり,が行ったのは売買契約という私法上の行為であるので,権限ゆ越による表見代理は成立しない 。」

3.「が成年被後見人となったことによりの代理権は消滅しており,の表見代理行為は成立しない。」

4.「が成年被後見人となったことによりの代理権は消滅しているが,代理権消滅後の権限ゆ越行為の場合であっても表見代理は成立する。」

●メッセージ
 この問題は,慎重に考えていかないと,『落とし穴』にハマリます。権限踰越・代理権消滅後の表見代理の重畳適用が問題のベースなのですが,設問の一つ一つを冷静に見ていってください。

【正解】

× × ×
1.「が成年被後見人となっても,代理人は能力者たることを要しないので,の代理権は消滅しておらずが白紙委任状を悪用したことによる代理権の権限ゆ越による表見代理が成立する。」

【正解:×

◆代理権の消滅−代理人の『後見開始の審判』

 任意代理,法定代理とも,代理人が死亡・破産・後見開始の審判を受けたときは代理権は消滅します。(111条1項2号)

 したがって,『の代理権は消滅しておらず』という記述は誤りです。

 また,『代理人は能力者たることを要しない』というのは,<代理権授与の時に能力者であることを要しない>と捉えるべきで,授権の当時に能力者であった代理人が成年被後見人になったときには,代理権は消滅します。

 ×は,代理権は消滅しない。

 ●代理権の消滅原因
    死亡       破産手続開始の決定       後見開始の審判
 本 人    任意代理 
 法定代理 ×
 ×
 代理人      

2.「に対して委任したのは,移転登記申請手続という公法上の行為であり,が行ったのは売買契約という私法上の行為であるので,権限ゆ越による表見代理は成立しない 。」

【正解:×難問

◆表見代理(権限踰越)−基本代理権

 代理人が本人から授与された権限の範囲を超えて代理行為をした場合,相手方にそれが代理権の範囲内にあると信じるについて正当の理由があったときには(善意・無過失),相手方を保護するために,表見代理が成立し,本人に当該代理行為の効果が生じます。(110条)

 権限踰越の表見代理が成立するには,本人から何らかの代理権〔基本代理権〕が与えられていることが必要です。

 この基本代理権〔基本権限〕が私法上の行為である場合には,権限ゆ越による表見代理が成立するという点では,判例・学説とも一致していますが,公法上の行為である代理権については判例は基本代理権として認めるのは否定的とされています。〔多数説では,基本代理権は使者・事実行為・公法上の行為のいずれでもよいとして,基本代理権を幅広くとっていますが,判例では,公法上の行為の全てが基本代理権になるとはしていません。〕

 判例では,移転登記申請手続という公法上の行為を委任したときに,代理人がその権限を超えて第三者と取引行為をした場合には,権限ゆ越による表見代理が成立するとしている〔最高裁・昭和46.6.3〕ので,恐らく,この判例を知っているかどうか受験者をタメすために出題したと考えられます。

3.「が成年被後見人となったことによりの代理権は消滅しており,の表見代理行為は成立しない。」

【正解:×

表見代理の重畳適用(代理権消滅後+権限踰越)

 代理権が消滅しているにもかかわらず,なお代理人として行為をした場合,相手方が代理権の消滅について善意無過失であれば,表見代理が成立します。

 したがって,『の代理権は消滅しており,の表見代理行為は成立しない』という記述は誤りです。

権限ゆ越による表見代理の110条の規定は,代理権の消滅後(112条)元の代理権の範囲を超えて代理行為をした場合にも適用されます。(判例)

4.「が成年被後見人となったことによりの代理権は消滅しているが,代理権消滅後の権限ゆ越行為の場合であっても表見代理は成立する。」

【正解:

表見代理の重畳適用(代理権消滅後+権限踰越)

 代理人が本人から授与された権限の範囲を超えて代理行為をした場合,相手方にそれが代理権の範囲内にあると信じるについて正当の理由があったときには(善意・無過失),相手方を保護するために,表見代理が成立し,本人に当該代理行為の効果が生じます。(110条)

 権限ゆ越による表見代理の110条の規定は,代理権の消滅後に元の代理権の範囲を超えて代理行為をした場合にも適用されます。(判例,大審院・昭和19.12.22)

▼109条・110条の重畳適用 

 実際には代理権を与えていないのにもかかわらず,本人が相手方に対して,その者に代理権を授与した旨の表示をした場合(109条)にも,表示された範囲を超えては代理行為をした場合には,110条の重畳適用があります。


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