Brush Up! 権利の変動篇
代理の過去問アーカイブス
無権代理 (昭和57年・問2)
Aは,Bの代理人として,B所有の土地についてCと売買契約を締結した。CはAをBの代理人と信じていたが,Bはこの売買契約についてAに代理権を与える旨を表示した事実はなく,またAはBに対して何らの代理権も有していなかった。この場合,次の記述のうち正しいものはどれか(昭和57年・問2) |
1.「売買契約は有効となる余地はない。」 |
2.「売買契約は有効に成立しているが,Bは売買契約を取り消すことができる。」 |
3.「売買契約は有効に成立しているが,Cは善意であるからBは売買契約を取り消すことができない。」 |
4.「売買契約は,Bが追認すれば有効となる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | × | ○ |
1.「売買契約は有効となる余地はない。」 |
【正解:×】 ◆無権代理が有効になるとき‐追認 B (本人) 無権代理人がした契約は効果を生じず,有効とも無効とも確定しない宙吊り状態になっています。(無権代理行為は本人にも無権代理人にもその効果は帰属しない。)(113条) この宙吊り状態は,本人と相手方双方のアクションによって解消されます。そのアクションには以下のものがあります。
本人が相手方に追認することで契約は契約成立時に遡って有効であることが確定し,本人に効果が帰属します。〔相手方が取り消す前であることが必要〕
したがって,『この売買契約(無権代理行為)は有効となる余地はない』とする記述は×になります。 |
2.「売買契約は有効に成立しているが,Bは売買契約を取り消すことができる。」 |
3.「売買契約は有効に成立しているが,Cは善意であるからBは売買契約を取り消すことができない。」 |
【正解:共に×】 ◆無権代理行為の取消 B (本人) 無権代理人がした契約は効果を生じず,有効とも無効とも確定しない宙吊り状態になっています。(無権代理行為は本人にも無権代理人にもその効果は帰属しない。)(113条) また,『Bはこの売買契約についてAに代理権を与える旨を表示した事実はなく,またAはBに対して何らの代理権も有していなかった。』と問題文にあるので,表見代理〔代理権消滅後・権限踰越・代理権授与表示〕が成立する余地もありません。 したがって,『売買契約は有効に成立している』という記述は×になります。 なお,無権代理人の相手方は,過失の有無を問わず,無権代理について善意であれば,本人の追認のない間は取り消すことができます。(115条) この取り消しは,本人・無権代理人のどちらに意思表示しても構いません。 ▼ここでいう『取消』は,無権代理での有効か無効かわからない宙吊り状態を脱却するために,無権代理行為での契約を確定的に無効にするものです。 したがって,『詐欺・行為能力の制限での取消』とは違うことに留意しておいてください。この『無権代理を理由とする取消』は,本人の追認のない間にのみできますが,相手方は,『詐欺・行為能力の制限での取消』を,本人の追認があってからでも,することができます。 |
4.「売買契約は,Bが追認すれば有効となる。」 |
【正解:○】 ◆追認の効果 B (本人)
追認は,本人が相手方にその意思表示をしないと対抗力がありません。代理人に対して追認の意思表示をしただけでは,相手方が取消権を行使した場合に追認の効力を対抗できません。(113条2項) |
●参考問題 |
無権代理人の行為が表見代理とならない場合に,本人は,無権代理人に対して追認する旨の意思表示をしたときには,相手方が知らなくても,相手方に対して追認の効果を主張することができる。(司法書士・昭和57年・問5) |
【正解:×】
本人が追認するのは,相手方でも無権代理人のどちらでもいいのですが,無権代理人に対して追認の意思表示をしても,相手方がその事実を知らない場合は,追認の効果を相手方に主張することができません。(113条2項) ▼相手方が,『本人が無権代理人に追認したこと』を知らない場合,相手方は無権代理を理由として取り消すことができます。 (115条) |