Brush Up! 権利の変動篇

正解・解説

無権代理の複合問題 (無権代理と相続)


【正解】

× × ×

の子が代理人と偽って,の所有地についてと売買契約を締結した。この場合,次のそれぞれの記述は民法の規定及び判例によれば,○か×か。(平成5年・問2)

1.「が売買契約を追認するまでの間は,は,の無権代理について悪意であっても,当該契約を取消すことができる。」

【正解:×

◆相手方が善意なら取消すことができる

  (本人)
 |       
 (無権代理人)―――――――(相手方)悪意

  代理権がないのに代理行為をするは、無権代理人といい、その相手方は、本人の追認があるまでは不安定な状態にあり、相手方が善意のときには、その不安定な状態から保護する必要があり、本人の追認または拒絶権に対し、善意の相手方には取消権が与えられています(民法第115条本文)。

 しかし、相手方が悪意つまり無権代理と知っているときは、その不安定な状態は承知の上であるため、法律で保護する必要などなく、悪意のにつき、取消権は認められません(民法115条但し書き)。

 相手方ができること  相手方が無権代理について
善意無過失 善意有過失 悪意
 本人に対して 、相当の期間を定めて

 催告

 ・期限までに確答がないときは追認拒絶とみなす。

 ・期間内に確答があれば、無権代理契約は、有効

 または無効なものとして効果が確定。

     
 無権代理人または本人に対して

 取消

 本人がまだ追認していないことが要件。

 (本人が追認した場合はその事実を了知するまでの間)

 ・取消権の行使があると本人は追認できなくなる。

 ・遡及効により契約は最初からなかったことになる

 ので無権代理人の責任追及は、不法行為に基づく

 損害賠償請求ができることになる。(民法709条)

      ×
 無権代理人(能力者)に対して

 履行請求 (可能な場合) or

 損害賠償請求

 (本人が追認をしないこと代理人が代理権を証明でき

 ないこと相手方が無権代理につき善意無過失・無権

 代理人が制限能力者でないこと・取消権を行使してい

 ないことの5つが要件。)

 なお、無権代理人の責任は無過失責任です。

    ×  ×

 

2.「が売買契約を追認しないときは,は,の無権代理について善意であれば,過失の有無に関係なく,に履行の請求をすることができる。」

【正解:×】設問1の図表参照。

◆相手方は善意無過失でなければ無権代理人の責任を追及できない

  (本人)
 |       
 (無権代理人)―――――――(相手方)善意

 無権代理について善意であってもそのことについて、に過失(普通の注意を払えば無権代理と気づくのに)があれば、そのような者は法律によって保護する必要もなく、ウッカリ者のが、に対して履行の請求をすることができません(第117条2項)

3.「は,の無権代理について善意無過失であれば,が売買契約を追認しても,当該契約を取消すことができる。」

【正解:×】設問1の図表参照。

◆本人が追認した後は相手方は取り消すことができない

  (本人)が売買契約を追認
 |       
 (無権代理人)―――――――(相手方)善意無過失

 本人が追認すると、の当初の意思表示が合致したことになり、契約は有効に成立します。(第116条)

 たとえが無権代理行為につき善意無過失であっても、が追認した以降は信義則(道義的)にも反するため(1条2項)、は取消できません。

≪参考≫追認について

追認した相手  効果
 相手方 ・代理権があったのと同じ効果を生じさせ、遡及効により契約の効果

は本人に帰属される。(これによって相手の取消権は消滅)

追認は黙示でもよい。本人が無権代理人の締結した契約の履行を

相手方に請求すると、黙示に追認したことになる。

・相手方が取消すと追認はできない。

無権代理人 ・無権代理人に対して追認した場合、相手方がそのことを知ったとき

でなければ相手方に対抗することはできない。

 注意 ・本人が追認した後であっても、無権代理人の行為が不法行為の一

般的要件を満たせば、本人が無権代理人に対して損害賠償請求は

可能。

(民法709条)

・116条但し書では、「第三者の権利を害するを得ず」となっているが、

相手方の権利と第三者の権利の優劣は対抗要件の有無によって決

まることが多いので、この但し書が適用されることはあまりない。

4.「が死亡してを単独で相続した場合,は,が売買契約を追認していなくても,に対して当該土地を引き渡さなければならない。」

【正解:

◆無権代理と相続

          (本人,死亡)
          |
(無権代理人) ――――(相手方)
         (相続)

【経過】  1 無権代理行為

      2 無権代理人が本人を単独相続

 本人が死亡して無権代理人が本人の地位を相続したとき、本人自ら法律行為をしたと同様に扱うべき(判例)であり、この場合相続人である無権代理人が追認を拒絶することは道義的にも許されず、相続人は、に対して当該土地を引き渡さなければなりません。(最高裁・昭和40.6.18)→追認拒絶不可


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