Brush Up! 権利の変動篇

債務不履行の過去問アーカイブス 昭和46年 損害賠償額の予定


建物の売買の契約にあたり損害賠償額の予定がなされている場合に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。(昭和46年)

1.「債務の不履行について損害賠償の額を予定することはできないから,契約の当該部分は無効である。」

2.「裁判所は,この損害賠償の予定額を増減することはできない。 」

3.「損害賠償額の予定がなされているときは,債務の履行の請求はできない。」

4.「予定された額の損害賠償を請求するためには,必ず契約を解除しなければならない。」

【正解】

× × ×

1.「債務の不履行について損害賠償の額を予定することはできないから,契約の当該部分は無効である。」

【正解:×
◆損害賠償額の予定

 債務不履行の場合に発生することが見込まれる損害の賠償額をあらかじめ当事者の特約で定めておくことを『損害賠償額の予定』といいます。〔契約と同時でなくてもよい。〕(420条1項前段)

 一般に,債務不履行での損害賠償請求では損害の発生とその金額を立証しなければなりませんが,この立証は困難な場合が多く,紛争を引き起こすこともあります。『損害賠償額の予定』の特約は,この立証の困難さを救済して紛争を予防するために認められたものです。

債権者は,債務不履行の事実を立証すれば,損害額を立証しなくても損害賠償の予定額を請求できる。(大審院・大正11.7.26)

債務不履行について債務者に帰責事由がなければ,損害賠償は免責されます。〔金銭債務は除く。〕(415条)

2.「裁判所は,この損害賠償の予定額を増減することはできない。 」

【正解:
◆損害賠償予定額の増減

 民法では当事者の合意を尊重し,『損害賠償額の予定』がある場合には,裁判所は,その金額を増減することはできないとしています。(420条1項後段)

 ただし,これには次のように実質的に増減が認められる例外があります。(平成14年出題)

1) 過失相殺

 『損害賠償額の予定』の特約があっても,当事者の公平の見地から過失相殺の規定が適用され,裁判所は,損害賠償の責任及びその金額を定めることについて,その過失を斟酌することができます。(418条,最高裁・平成6.4.21)

2) 一部無効または全部無効

 当事者間で損害賠償額の予定の契約を締結していても,法律の規定や公序良俗に反することはできないので,余りに高額な〔または低額な〕損害賠償額の予定は,裁判所によって,全部または一部が無効とされることがあります。(90条など,判例)

3.「損害賠償額の予定がなされているときは,債務の履行の請求はできない。」

【正解:×
◆損害賠償の請求と履行請求

 債務不履行の効果として,債権者は損害賠償請求権と解除権を取得します。(415条,541条)

 損害賠償の請求には,契約を解除して行う場合と契約の履行を請求しながら,同時に損害の補填などを請求する場合があり,契約内容やどのような債務不履行なのか〔履行遅滞・履行不能・不完全履行〕にもよるので一概には言えません。

4.「予定された額の損害賠償を請求するためには,必ず契約を解除しなければならない。」

【正解:×
◆損害賠償の請求と解除

 肢3で見たように,解除しても損害賠償請求はできるので,×です。


債務不履行のトップに戻る

Brush Up! 権利の変動に戻る