Brush Up! 権利の変動編

債務不履行の基礎知識3 解除

正解・解説


【正解】

× ×

判例によって、「履行の催告を要しないで直ちに契約を解除することができる」という当事者の合意をあらかじめしておくことも有効とされています。

債務不履行に関する次の記述は民法の規定および判例によれば、○か×か。なお、各問ともそれぞれ『催告なしに解除できる特約』はないものとする。

1.「当事者の一方がその債務の履行を遅滞したときは,相手方は直ちに契約を解除

することができる。」57-11-3、類59-6-4

【正解:×

◆履行の催告+解除の意思表示

 無催告解除の特約がなければ、当事者の一方が履行期を過ぎても債務を履行しない場合は、履行遅滞になり、債権者は相当の期間を定めて履行すべき旨を催告し、その期間内になお履行がなされないときは,債権者は契約を解除することができます。(541条)

 したがって、相手方が履行遅滞になっているからといって、履行の催告なしに直ちに解除することはできません

●類題
Aは,B所有の建物を購入した。Bが約定の期日に建物を引き渡さないときは,Aは直ちに契約を解除することができる。(昭和59年・問6・肢4)
【正解:×
●履行遅滞での解除権の発生

相当の期間を定めてその履行を催告し、その相当期間内に履行されなかったときに解除権が発生する。(541条)

1)債務者の責めに帰すべき事由による履行遅滞であること。

・履行期に履行が可能。→原始的不能との区別

・履行期を徒過すること。

・債務者の責めに帰すべき事由に基づくこと。→危険負担の債権者主義との区別

・履行しないことが違法であること。

 双方とも履行していない場合相手方が同時履行の抗弁権を有する場合には、一方の当事者は自分の債務の履行を提供しておかなければ解除をすることができない。

2)催告期間内に履行されなかったこと。

履行の催告は、一定の期間を明示していなくても有効とされています。(大審院・昭和2.2.2)

2.「宅地の売買契約における買主が,代金支払債務の弁済期の到来後も,その履行

の提供をしない場合,売主は,当該宅地の引渡しと登記を拒むことができる。」11-8-1

【正解:

◆同時履行の抗弁権

     代金債務の支払期    

 ――――――――――――――→

     買主は、代金支払いについての履行の提供をしていない。
                ↓
     売主は、同時履行の抗弁権により、宅地の引渡しと登記を拒むことができる。

 売買契約などの双務契約で,当事者の一方は,相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。(533条)

  → 自己の債務が履行期にあり、相手方の債務が履行期(弁済期に契達して
    いないときは、相手方の履行の請求を拒むことはできないへ(533条但書)

    同時履行の抗弁権を主張するには、双方の債務が履行期にあることが必要

 代金支払いと宅地の引渡し・登記は、同時履行の関係にあるので、買主から代金の提供がない以上、売主は宅地の引渡しと登記を拒むことができます。

3.「Aが,Bに建物を3,000万円で売却した。Aが定められた履行期に引渡しをしない

場合,Bは3,000万円の提供をしないで,Aに対して履行の催告をしたうえ契約を解除

することができる。」10-8-1, 類4-8-2

【正解:×

◆反対給付の提供のない催告では解除できない

     引渡し債務の履行期    

 ――――――――――――――→

 売主Aが引渡し債務の履行期に引渡しをしない
                ↓
 買主Bは、同時履行の抗弁権により、代金債務の履行を拒むことはできる。

 判例では、 債務者が同時履行の抗弁権を有する場合には、債権者は自分の債務の履行を提供しておかなければ解除をすることができません

 反対給付の提供のない催告に基づく解除は無効 (最高裁・昭和29.7.27)

 買主Bは、まず売主Aに対して代金債務の履行の提供をして、Aの同時履行の抗弁権を消滅させ、そのうえで相当の期間を定めて履行すべき旨を催告し、その期間内になお履行がなされないときは,債権者は契約を解除することができます。(541条)

4.「Aは,自己の所有する宅地をBに代金2,000万円で売り渡す契約を締結し,Bは

Aに手付として200万円を支払った。手付について他に別段の取り決めはない。Aが

契約を履行しない場合,Bは,相当の期間を定めて履行を催告し,その期間内にAが

履行しない場合には,Bは,債務不履行を理由に契約を解除し,200万円の返還を

求めることができる」56-8-1

【正解:

◆解除では、原状回復義務

     引渡し債務の履行期    

 ――――――――――――――→

 売主Aが引渡し債務の履行期に引渡しをしない
                ↓
 買主Bは、相当の期間を定めて履行を催告し,その期間内にAが
 履行しない場合には,Bは,Aの債務不履行を理由に契約を解除できる。

 Bが、Aの債務不履行を理由として解除した場合、ABとも原状回復義務を負い、Bは支払った手付金200万円の返還を請求できます。 

●参考問題
債権者は、相当な期間を定めずに催告した場合でも、催告の後、客観的に見て相当の期間を経過した時は、契約を解除することができる。(行政書士・平成元年・問36・肢2)
【正解:

 履行の催告は、一定の期間を明示していなくても有効とされています。(大審院・昭和2.2.2)

 期間を明示していない催告の場合は、客観的に見て相当の期間を経過した時は、契約を解除できると解されています。(最高裁・昭和29.12.21)

5.「Aは,B所有の建物を購入した。建物の引渡し前に,Bの失火により全焼させた

ときは,Aは直ちに契約を解除することができる。」59-6-3

【正解:56-7-2, 60-4-2, 61-9-4, -9-3, 10-8-3

◆債務不履行での履行不能の定義 

  契約締結  履行が不能

 ――――――――――→

 契約成立後に、目的物が滅失するなど履行が不能になったときの法的処理としては、基本的には、二つ考えられます。 

 □債務者に帰責事由あり → 債務不履行での履行不能

 □債務者に帰責事由なし → 危険負担の債権者主義

 本肢では、債務者に帰責事由があるので、"債務不履行での履行不能"の問題になります。

 民法では、"債務不履行での履行不能"について次のように規定しています。

履行の全部または一部債務者の責めに帰すべき事由によって不能となったときは,債権者は契約の解除をすることができる。(543条)

 → 履行の催告をせず、直ちに契約を解除できる (解除権が与えられる) 

6.「売買契約が解除された場合,両当事者は原状回復義務を負うが,売主が返還

すべき金銭には受領時からの利息を付さなければならない。」59-10-3

【正解:

◆債務不履行での履行不能の定義 

 当事者の一方が解除した場合は、両当事者は原状回復義務を負います。(545条1項)

このとき、相手方に返還しなければならない金銭があるときは、受領した時以降の利息をつけなければなりません。(545条2項)

●履行不能での解除権の発生

 履行遅滞での解除とは異なるのは、次の点です。

履行の催告は不要

・(履行期前でも)債務者の帰責事由による履行不能が生じた時点で、直ちに解除できる(出題:昭和60年・問4・肢2, 昭和59.問6.肢3)

・履行の全体ではなく一部が不能でも、それによって契約の意味をなさない場合は全体についても解除できる(出題:昭和61年・問9・肢4)

●解除の効果−一方の当事者を相手方の債務不履行などから救済
契約による法的な拘束から解放させる

 (解除の意思表示をする者は、自分自身の反対債務から解放される。)

原状回復

損害賠償


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