Brush Up! 権利の変動編
債務不履行 履行遅滞と解除の問題2
正解・解説
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | ○ | × |
●どんなときに解除できるか-債務不履行による解除を見る視点 |
契約から生じる様々な債務のうち,中心的なものの不履行だけが,解除権を発生させるという考え方を判例はとっている。〔大村敦志・基本民法2/有斐閣,2003〕
●履行遅滞による解除→判例では債務者による帰責事由が必要だとしている。 当事者の一方がその債務を履行しないときは相手方は相当の期間を定めてその履行を催告し,もしその期間内に履行がないときは契約の解除をすることができる。(541条) ●履行不能による解除 履行の全部または一部が債務者の責に帰すべき事由によって不能となったときは債権者は契約の解除をすることができる。(543条) (註) 履行不能,または債務不履行になった債権に着目して「債権者」,「債務者」という言葉を用いている。 |
Aは,A所有の土地を,Bに対し,1億円で売却する契約を締結し,手付金として1,000万円を受領した。Aは,決済日において,登記及び引渡し等の自己の債務の履行を提供したが,Bが,土地の値下がりを理由に残代金を支払わなかったので,登記及び引渡しはしなかった。この場合,民法の規定及び判例によれば,次の記述のうち誤っているものはどれか。(平成14年・問8) |
1.「Aは,この売買契約を解除せず,Bに対し,残代金の支払を請求し続けることが
できる。」
【正解:○】 ◆解除は選択肢のひとつ A=決済日において,登記及び引渡し等の自己の債務の履行を提供 B=残代金を支払わなかった Aは履行の提供をしているので、Bに同時履行の抗弁権はなく、Bは残代金を支払わなかったことで債務の本旨に従った履行をしていない。Bは債務不履行(履行遅滞)になっています。 Aは、Bに対して、
どちらもできます。(どちらでも損害賠償請求をすることも可能) つまり、契約解除とするか、履行の請求をし続けるかは、Aの意思によるので、Aは、解除を選択しないで、履行を請求しつづけることができます。 |
●参考問題 |
「損害賠償額の予定がある場合,債務者が履行遅滞に陥っているときにも契約の履行の請求をしてもよい。」(司法試験・昭和49年・問44) |
【正解:○】 |
2.「Aは,この売買契約を解除するとともに,Bに対し,売買契約締結後解除される
までの土地の値下がりによる損害を理由として,賠償請求できる。」
【正解:○】 ◆損害賠償の範囲−解除権の行使と損害賠償請求 債務不履行による解除では、契約を解除しても損害賠償の請求をすることができます。(545条3項)解除の遡及効により当事者間には原状回復義務がありますが、この原状回復だけでは債務不履行によって債権者が受けた損害を償うには足りないことがあるからです。 本肢では、Aは、解除するとともに,Bに対し,売買契約締結後解除されるまでの土地の値下がりによる損害を理由として,賠償請求できると考えられます。(契約解除による填補賠償は原則として解除時の価格を規準とする。判例) 土地の値下がりによって、AにB以外の買い手Xが見つかっても、Bに売るときよりも価格が低くなるのは明らかで、Bとの契約での価格との差額が損失と考えられるからです。判例でも、契約での代金価格−時価=賠償額としています。(大審院・大正5.10.27 た ▼本肢の債務不履行の解除は、手付による解除とは別であることに注意。 |
●損害賠償の範囲 - 損害の公平な分担 |
民法416条では、損害賠償の範囲は、債務不履行によって通常生じる損害の範囲内に限定されることを原則(相当因果関係)とし、例外的に、通常生じる損害以外のもので特別の事情がある場合には、履行期または債務不履行時に債務者が予見しまたは予見することができたときのみ(予見可能性)、損害賠償の対象になるとしています。(前半は1項、後半は2項、判例) → 上述の判例大審院・大正5.10.27では、価格の値下がり分は通常損失とみなしています。 |
3.「Bが,AB間の売買契約締結後,この土地をCに転売する契約を締結していた
場合で,Cがやはり土地の値下がりを理由としてBに代金の支払をしないとき,Bは
これを理由として,AB間の売買契約を解除することはできない。」
【正解:○】 ◆別契約 A(売主) AB間の契約とBC間の契約は別個の契約です。 Cが土地の値下がりを理由に代金を支払わないといっても、BはAから登記・引渡を受けていないので、BはCに対して登記・引渡しもできない以上、Cには同時履行の抗弁権があり、BはCに対して債務不履行による解除をすることはできません。 また、Aには債務不履行になる帰責事由がないので、BはAに対してAB間の契約をAの債務不履行により解除することはできません。 したがって、Bは、CがBに代金の支払をしないことを理由として、AB間の売買契約を解除することはできません。 ▼補足 問題設定では、決済日にAは履行の提供をしているので債務不履行責任を問われることはなく(492条)、またBは手附金を交付していますが、Aが履行に着手している以上、Bは手付を放棄して解除することもできません。(557条、判例) |
4.「Bが,AB間の売買契約締結後,この土地をCに転売する契約を締結していた
場合,Aは,AB間の売買契約を解除しても,Cのこの土地を取得する権利を害す
ることはできない。」(頻出問題)
【正解:×】 ◆解除前の第三者−物権変動 A(売主) 確かに、契約の解除によって、第三者の権利を害することはできませんが(545条1項但書)、この規定により解除前の第三者Cが保護されるには〔Cが土地の取得をAに主張するには〕、Cの善意・悪意に関係なく、Aが解除する時点までにCは所有権移転登記を得ていなければなりません。(判例) 問題設定ではAのもとに登記があるので、Cは登記を得ておらず、Aが解除しても第三者Cの権利を害するとはいえません。 |
●解除前の第三者 |
当事者の一方が解除権を行使したときは契約はさかのぼってはじめから存在しなかったことになります。〔解除の遡及効〕両当事者はその相手方を契約締結前の状態−原状に戻す義務を負います。(民法546条1項)
しかし,解除の前に第三者が出現している場合〔その不動産の転得者,抵当権の設定による抵当権者,賃借人など〕は,解除によってその第三者の権利を害することはできません。〔第三者が保護されるには善意・悪意は関係なく,登記(建物の賃貸借では引渡し)が必要です。(最高裁・昭和33.6.14)〕 このことを解除される前に転売された場合で見ていきましょう。 A(売主) Bが,AB間の売買契約締結後,この土地をCに転売する契約を締結し,Cに移転登記をしていた場合,Aは,AB間の売買契約を解除しても,Cのこの土地を取得する権利を害することはできません。(これはCが解除について悪意であっても,Cが登記を得ていれば同じくCは保護される。) なぜ悪意でも保護されるか→債務不履行などによる解除原因があったとしても必ずしも解除されるとは限らない。通常の取引の範囲内にとどまるものであれば悪意であっても第三者を保護する必要がある。 なぜ登記が必要なのか→もともとの売主が解除しても第三者に権利を主張できないという民法の規定で保護されるには,第三者も登記〔建物の賃貸借では引渡し〕などの保護要件を必要とする。 |