Brush Up! 権利の変動編

債務不履行  履行不能1

正解・解説


【正解】

× ×

履行不能に関する次の記述は,民法の規定及び判例によれば,○か×か。

1.「債務の履行が債務者の責めに帰すべき事由によって不能となったときは,債権者

は,直ちに契約を解除することができる。」(昭和60-4-2)

【正解:

◆債務不履行での履行不能の定義 

  契約締結  履行が不能

 ――――――――――→

 契約成立後に、目的物が滅失するなど履行が不能になったときの法的処理としては、基本的には、二つ考えられます。 

 □債務者に帰責事由あり → 債務不履行での履行不能

 □債務者に帰責事由なし → 危険負担の債権者主義

 本肢では、債務者に帰責事由があるので、"債務不履行での履行不能"の問題になります。

 民法では、"債務不履行での履行不能"について次のように規定しています。

履行の全部または一部債務者の責めに帰すべき事由によって不能となったときは,債権者は契約の解除をすることができる。(543条)

 → 履行の催告をせず、直ちに契約を解除できる (解除権が与えられる)

 履行遅滞での解除とは異なるのは、次の点です

履行の催告は不要

・(履行期前でも)債務者の帰責事由による履行不能が生じた時点で、直ちに解除できる。(出題:昭和60年・問4・肢2, 昭和59.問6.肢3)

履行の全体ではなく一部が不能でも、それによって契約の意味をなさない場合は全体についても解除できる。(出題:昭和61年・問9・肢4)

◆引渡し債務での(履行の)不能のまとめ
 不能の分類  内容  法的処理
■原始的不能

 目的物の滅失  契約締結  

 ――――――――――――→

契約は成立したが、

契約成立時点で給付の実現が不可能。

 契約は無効

■原始的瑕疵 契約は成立したが、契約成立時点で、

売買の目的物に瑕疵(欠陥)がある。

 担保責任(売主の無過失責任)
■後発的不能

  契約締結  目的物の滅失

 ――――――――――→

 契約成立後に、

引渡し債務が実現できない

 債務者に、

 帰責事由があるか、ないかで

 法的処理は異なる

(1)債務者に帰責事由があるもの

 → 債務不履行(履行不能)
(2) 債務者に帰責事由がないもの   → 危険負担
●参考問題

「債権の目的が特定物の引渡しであるときは,債務者は,履行期まで善良なる管理者の注意をもって目的物を保存しなければならない。」*

【正解:×

 これはヒッカケ問題です。債務者は、目的物の引渡しの時まで、善管注意義務を負います。(400条)履行期を経過しても引き渡すまで善管注意義務があるので×です。

債権の目的が特定物の引渡しのときは,債務者はその引渡しをなすまで,善良なる管理者の注意をもってその目的物を保存することを要する。(400条)

2.「家屋の売買契約において,売主の過失で家屋が焼失してしまった場合,買主は

売買契約を解除することができる。」(昭和56-7-2)

【正解:

◆履行不能による解除での選択肢 

 債務者の責めに帰すべき事由によって履行不能となった場合、債権者の対応としては以下が考えられます。

 ○解除しないで損害賠償 (最高裁・昭和30.4.19)

 履行不能となった債務は、履行に代わる損害賠償請求に転化して存続するため、
 代金で未払いがあれば、代金債務は残ります。

 (→代金債務はあとで損害賠償との相殺によって清算することもできる)

 ○解除して損害賠償

 解除して損害賠償する場合、代金債務は残らず、
 目的物の滅失による損害を填補する賠償請求になります。

 解除も選択肢のうちのひとつということです。

3.「A所有の家屋につき,Aを売主,Bを買主とする売買契約が成立した。家屋の所有

権移転登記後,引渡し前に,その家屋がAの失火によって焼失した場合,その契約は

失効する。」(平成元年-9-3)

【正解:×

◆失効と解除は違う 

 これも宅建特有のヒッカケ問題。債務者の過失によって家屋が焼失しているので、債務者Aは債務不履行の責任を負い、債権者Bは契約を解除することができるのであって、「契約が失効する」のとは違います。宅建試験では、用語の意味を正確に把握しているか問う問題が時たま見られ、過度にアバウトな知識は禁物

4.「A所有の建物につき,Aを売主,Bを買主とする売買契約が成立した。移転登記

後,Aが自己の失火により建物を半焼させた場合は,Aの債務不履行となり,Bは

売買契約を解除できる。」(昭和61-9-4)

【正解:

◆一部の不能でも契約の意味をなさなければ解除できる 

 これも宅建特有のヒッカケ問題。債務者の過失によって建物が半焼している場合はどうか?と変化球で訊ねています。

 債務者の過失によって履行の一部が不能でも、それによって契約の意味をなさなければ解除できる (通説)

 半焼ですから、建物の滅失ではなく、建物の毀損になりますが、半焼では、もはや契約の意味をなすとは言えず、履行不能になったと考えられます。

 したがって、債務者Aは債務不履行の責任を負い、債権者Bは契約を解除することができます。

5.「Aが,Bに建物を3,000万円で売却した。Bが代金を支払った後,Aが引渡しを

しないうちに,Aの過失で建物が焼失した場合,Bは,Aに対し契約を解除して,

代金の返還,その利息の支払い,引渡し不能による損害賠償の各請求をすることが

できる。」(平成10-8-3)

【正解:

◆履行不能による契約の解除と損害賠償 

 (売主)----------(買主) 代金を支払い済み
 引渡し未了
 ↓
 Aの過失により建物が焼失 →履行不能

 引渡しをしないうちに、Aの過失により建物が焼失しているので、債務者の過失による履行不能になります。

 この場合、Bは契約を解除して(543条)、原状回復により代金の返還とその利息の支払いを請求することができ、(545条2項)また損害賠償の請求をすることができます。(545条3項)

6.「債務者の責めに帰すべき事由に基づく履行不能の場合は,解除しなければ

損害賠償の請求をすることができない。」(司法試験・昭和48-49)

【正解:×

◆解除しなくても損害賠償請求はできる 

 履行不能となった場合、契約を解除しないで存続させ、「履行に代わる損害賠償」(填補賠償)を請求することができます。

債務者の責めに帰すべき事由によって履行不能となった場合、債権者の対応としては以下が考えられます。→設問2の解説参照

 ○解除しないで損害賠償 (最高裁・昭和30.4.19)

 ○解除して損害賠償

この問題は、宅建試験特有のヒッカケ問題に極似しているため、掲載しました。これまでも宅建試験では、司法試験択一の過去問の一部をソノママもしくは編集(?)して出題していることがあるので、要注意。


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