Brush Up! 権利の変動編

債務不履行  履行不能2

正解・解説


【正解】

× × ×

履行不能に関する次の記述は,民法の規定及び判例によれば,○か×か。

1.「A所有の建物につき、Aを売主、Bを買主とする売買契約が成立した。AはBとの

契約締結後、そのA所有の建物をCに売却して所有権移転登記をしたとしても、Aは、

Bに対して損害賠償義務を負うことはない。」(関連H11-6-3)

【正解:×

◆二重譲渡 

          二重譲渡
 (売主)-----------------------------(第二譲受人) 所有権移転登記
 |二重譲渡                                 ↓
 ↓                                   Cへの登記により
 (第一譲受人)                           Bへの譲渡は履行不能

 Aが建物を第三者Cに譲渡して二重譲渡になったとき、先に登記を備えた譲受人が所有権を取得しました。本肢では登記はCにあるので、CはBへの対抗要件を具備していることになります。

 判例では、第二譲受人Cへの譲渡が買戻し特約・仮登記などいつでも取り返せるものでなければ、第二譲受人Cへの所有権移転登記が移転した時点で履行不能になる、としています。(最高裁・昭和35.4.21、昭和46.12.16など)

 本肢の設定では、Cが所有権移転登記を得た時点で履行不能になり、Aは、自己の責めに帰すべき事由での履行不能によって、債務不履行責任を問われることになります。

 Bは、履行期前であってもCが所有権移転登記を得た時点で直ちに契約を解除して、Aに損害賠償を請求することができます。

債務不履行での履行不能とは、契約締結時には可能であっても、債務者の責めに帰すべき理由により社会通念上、履行が不能となることを意味し、必ずしも物理的に不能(目的物の滅失など)とは限らず、法律的な不能(法律で禁止されたなど)社会的な不能(物理的には可能でも天変地異の結果、費用が莫大にかかってしまうなど)も履行不能と考えられます。

●参考問題
1.「履行不能は,物理的不能に限らず,法律的不能・社会的不能であってもよく,不動産の二重譲渡の場合でも,容易に買戻しができるようなときを除き,第三者への売買契約が成立した時に履行不能になる。」(国家公務員1種・平成8年)
【正解:×

 × 第三者への売買契約が成立した時に履行不能になる
           ↓
  第三者への登記が移転した時に履行不能となる

2.「Aの所有する土地について,AB間で,代金全額が支払われたときに所有権が移転する旨を約定して売買契約が締結された。AがBとの売買契約締結前に,Dとの間で本件土地を売却する契約を締結してDから代金全額を受領していた場合,AからDへの所有権移転登記が完了していなくても,Bは,Aから所有権を取得することはできない。」
(平成8年・問3・肢3)
【正解:×

          二重譲渡
 (売主)-----------------------------(第一譲受人) 代金全額をAに支払済
 |二重譲渡                                 ↓
 ↓                                  Dは,未登記なので
 (第二譲受人)                          Bへの対抗要件を有しない。

 二重譲渡になったときは、代金をどちらが先に支払ったかで決まるのではなく先に登記を備えた譲受人が所有権を取得しました。本肢では登記はDにはなく、Aにあるので、BCどちらも対抗要件を具備していないことになります。

 この後の展開としては、判例の「所有権が移転した時点で履行不能になる」を考え合わせると、

・Dへの所有権移転登記が完了した時点で、Aは、Bへの履行不能になる。

・Bへの所有権移転登記が完了した時点で、Aは、Dへの履行不能になる。

 このどちらか二つが考えられ、BDのどちらが本件土地を取得するのかまだ確定していません。BDどちらも、本件土地を取得する可能性があります。つまり、BはAから所有権を取得できないとは、必ずしも言えません。

 したがって、「Dから代金全額を受領していた場合,AからDへの所有権移転登記が完了していなくても,Bは,Aから所有権を取得することはできない。」という本肢は×になります。

2.「AがBに対し,A所有の建物を売り渡し,所有権移転登記を行ったが,まだ引渡し

はしていない。Bが代金の支払いを終え,建物の引渡しを求めたのにAが応じないで

いた場合でも,建物が地震で全壊したときは,Bは,契約を解除して代金の返還を

請求することができない。」(H8年-11-4)

【正解:×

◆履行遅滞→履行不能 地震により全壊

  (売主)-----------------------------(買主) 代金を支払い済み
  引渡し未了 →履行遅滞
    ↓
  地震により建物が全壊 →履行不能

 所有権移転登記は行ったが、引渡しそのものはまだ終わっていない
      (建物の引渡しを求めたのにAが応じないでいた)

 Aの履行遅滞後に、不可抗力により引渡し債務の目的物が滅失したことになります。この場合、Aはその履行不能について債務不履行の責任を負いBは契約を解除して、原状回復義務により、Aに代金の返還を要求できます。(このほかに損害賠償の請求ができるのは言うまでもありません。)

 Aは、引渡し債務の履行を遅滞しており、債務者の責に帰せない不可抗力による
 履行不能とはいえ、適時に履行していればこのような損害は生じなかったと考え
 られ、履行遅滞をした者は履行不能の賠償責任についても免れない
 (大審院・明治39.10.29)

3.「A所有の家屋につき,Aを売主,Bを買主とする売買契約が成立した。家屋の所有

権移転登記が完了し,引渡し期日が過ぎたのに,Aがその引渡しをしないでいたところ,

その家屋が類焼によって焼失した場合,Bは,契約を解除することができる。」(H元年-9-4)

【正解:

◆履行遅滞→履行不能 類焼により焼失

  (売主)-----------------------------(買主) 
  引渡し未了 →履行遅滞
    ↓
  類焼により建物が焼失 →履行不能

 所有権移転登記は行ったが、引渡しそのものはまだ終わっていない

 Aの履行遅滞後に、不可抗力により引渡し債務の目的物が滅失し、履行不能になったので、Bは、契約を解除できる。

4.「Aが,Bに対して,A所有の建物を売却したが,自己の責めに帰すべき事由により

約定の日に所有権移転登記と引渡しをしなかったところ、地震により建物が倒壊して

しまった。この場合,Bの売買代金の支払い義務は,当然に消滅する。」(司法試験H6-28)

【正解:×

◆履行遅滞→履行不能 地震により建物が倒壊

 履行遅滞中に不可抗力によって履行不能になったときは、債務者はその履行不能について債務不履行の責任を負います。(損害賠償)

 しかし、履行不能だからといって代金支払い義務が自動的に消滅するというのではありません。Bが代金払い義務を免れる手続きは、基本的に二つ考えられます。

 ・契約を解除することにより代金債務を免れる

 ・契約を解除しないで契約を存続させ、損害賠償請求をして代金債務を損害賠償と相殺することによって代金債務を免れる

 したがって、本肢の「Bの売買代金の支払い義務は,当然に消滅する」は×になります。

この問題も、宅建試験特有のヒッカケ問題に極似しているため、掲載しました。


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