Brush Up! 権利の変動篇
委任の過去問アーカイブス 昭和42年 委任の解除
Aは,その所有する宅地の売買をBに委任した。この場合における次の記述のうち,正しいものはどれか。(昭和42年,1967) |
1.「Aは,Bとの委任契約をいつでも解除することができる。」 |
2.「契約の一般原則により,Aは,Bに債務不履行がなければBとの委任契約を解除することはできない。」 |
3.「Aは,Bとの委任契約をいつでも解除することができるが,委任は継続的契約関係であるので一定の予告期間を置く必要がある。」 |
4.「AがBとの委任契約を任意解除した場合には,当該委任契約は初めからなかったことになる。」改 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | × | × |
1.「Aは,Bとの委任契約をいつでも解除することができる。」
【正解:○】 ◆委任での解除 委任契約は,解除権放棄の特約がなければ,原則として,当事者のどちらからでも,またいつでも,何ら特別の理由がなくても,解除できます。(民法651条) しかし,当事者の一方が相手方にとって不利な時期に委任契約を解除したときは,原則としてその損害を賠償しなければなりません。(651条2項本文) ▼相手に不利な時期の解除権の行使には,原則として損害賠償することが必要ですが,やむを得ない事由があるときには損害賠償する必要はないとされています。(651条2項但書) ●注意 受任者は,解除前に為した委任事務処理についての必要費の償還や報酬金などの債権を失なわない。(大審院・昭和6.12.8) |
2.「契約の一般原則により,Aは,Bに債務不履行がなければBとの委任契約を
解除することはできない。」
【正解:×】 ◆委任での解除 (i) 651条による解除 (ii)債務不履行による解除 委任契約では,肢1で見た651条による解除のほかに,債務不履行による解除(540条以降)もできます。この2つを分ける理由は,損害賠償請求にあります。651条による解除では原則として損害賠償請求はできませんが〔相手側が不利なときに解除する場合には損害賠償しなければならない。〕,債務不履行による解除では損害賠償請求することができるからです。 判例によれば,債務不履行による解除が相手方に帰責事由がないために無効であるにしても,651条での解除ではいつでも解除できるので,その解除の意思表示は有効としなければならないとしています。(大審院・大正3.6.4) したがって,本肢は×です。 |
3.「Aは,Bとの委任契約をいつでも解除することができるが,委任は継続的契約関係
であるので一定の予告期間を置く必要がある。」
【正解:×】 ◆委任での任意解除−催告は要らない 本肢での解除は,問題文の前半からわかるように,肢1で見た委任契約特有の解除〔任意解除,無理由解除とも言われる〕です。催告などは不要なので,予告期間を置く必要はありません。 |
4.「AがBとの委任契約を任意解除した場合には,当該委任契約は初めからなかった
ことになる。」改
【正解:×】 ◆継続的契約での解除の特性 問題文 初めからなかったことになる=解除の遡及効がある 通常の解除では,契約に基づく債権・債務は契約時点に遡って消滅〔判例〕しますが,委任では異なっているので注意が必要です。 委任・賃貸借・ 委任での解除には,肢2で見たように2種類ありますが,どちらの解除も将来に向かってのみ契約は消滅します。(652条,最高裁・昭和57.3.4) したがって,本肢は×です。 ▼委任契約が無効や取消によって消滅した場合は,当然遡及的に委任契約は消滅します。(大審院・大正7.5.16) ●委任契約での解除・無効・取消の効果
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●原題 |
「AがBの債務不履行を理由に委任契約を解除した場合には,当該委任契約は初めからなかったことになる。」 |
【正解:×】
委任契約の債務不履行による解除も遡及効を有しない。(最高裁・昭和57.3.4) ▼出題当時,判例としては,同趣旨の大審院・大正3.5.21などが知られていました。問題としてはよく構成されていた出題だったと思います。 |