Brush Up! 権利の変動篇

消滅時効の基本の過去問アーカイブス 平成元年・問2


は,に対し金銭債権を有しているが,支払い期日を過ぎてもが支払いをしないので,消滅時効が完成する前に,に対して,支払いを求める訴えを提起した。この場合,民法の規定によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。なお,この金銭債権の消滅時効期間は,5年とする。(平成元年・問2)

1.「に対する勝訴判決が確定した場合,時効は新たに進行を開始し,その時効期間は10年となる。」

2.「訴えの提起前6月以内に,に債務の履行の催告をしても,時効が中断されるのは,訴えを提起したときである。」

3.「が訴えを取り下げた場合,の金銭債権は,がその取下げをした日から5年間権利を行使しないとき,消滅する。」

4.「に対する債権を有する場合において,その債権が既に時効により消滅しているときは,その時効完成前にの金銭債権と相殺し得る状態にあったとしても,は,相殺することはできない。」

●なお,この金銭債権の消滅時効期間は,5年とする。
 この『5年』というさりげないノイズに、咽喉(のど)に魚骨が引っかかった思いをした方は立派です。民法で5年というのは「定期給付債権」(民法169条)、取消権の追認できる時から5年(126条)、相続権回復請求権の侵害事実を知ったときから5年(884条)などで、『ハテこのほかに5年という消滅時効があったのか?』という疑問をお持ちになって当然だからです。

 実は、この5年はどうやら、民法ではなく、商法の「商事債権」〔=商行為によって生じた債権の消滅時効は5年間〕(商法522条)のことを言っているようなのです。「民法の規定によれば」と言いながらも、商法に源を持つ、こういうサリゲナイ舞台装置があるところに宅建試験の“奥ゆかしさ”(?)がうかがわます。

●消滅時効
 債権  原則として10年(167条1項)
 短期消滅時効  5年,3年,2年,1年(168条〜174条)

 →確定判決等で確定したときは10年となる。(174条の2)

 債権でも所有権でも
 ない財産権
 20年(167条2項)

 用益物権 (地上権・地役権・永小作権)

 抵当権〔抵当不動産の第三取得者や後順位抵当権者との
 関係では,不行使によって消滅時効にかかる。判例。〕

所有権は消滅時効にかからない。

●消滅時効にかからないもの
 所有権 ; 留置権,占有権,先取特権,相隣関係,共有物分割請求,
 質権,抵当権

 抵当権は,債務者及び抵当権設定者(物上保証人を含む)は抵当権の時効消滅を主張できない。(396条)

【正解】

× × ×
1.「に対する勝訴判決が確定した場合,時効は新たに進行を開始し,その時効期間は10年となる。」

【正解:

元々の債務の消滅時効が10年に満たないものでも、確定判決後は10年になる

 消滅時効の中断があった場合は,中断の事由が終了した時から更に消滅時効の進行が始まります。(157条1項)また、裁判上の請求によって中断した場合は、裁判が確定した時より進行します。(157条2項)

 元々の債務の消滅時効が10年に満たないものであったとしても、確定判決や和解などで債務が確定するとその消滅時効は10年になり、再びゼロからのスタートになります。

●類題
10年より短い消滅時効期間の定めのある債権でも,その債権が裁判上の和解により確定している場合には,その消滅時効期間は10年に延長される。(司法書士・昭和61年)
【正解 :

2.「訴えの提起前6月以内に,に債務の履行の催告をしても,時効が中断されるのは,訴えを提起したときである。」

【正解:×要注意

◆時効中断は催告時

 裁判外で催告した場合は、時効が中断されるのは,訴えを提起したときではなく催告した時点です。(147条1号)

 しかし、催告によっていったん中断した時効も、催告後6ヵ月以内に訴えを提起しないと時効は中断しなかったことになります。(153条)

   催告               訴えの提起

 ――――――――――――――――――――――――――

  いったん時効中断      催告後6ヵ月以内に
                   訴えの提起がないと
                   時効は中断しなかったことになる。

3.「が訴えを取り下げた場合,の金銭債権は,がその取下げをした日から5年間権利を行使しないとき,消滅する。」

【正解:×

◆訴えを取り下げ、訴えが却下の場合は時効は中断しない

 訴えを提起しても、訴えを取り下げたり、訴えが却下の場合は時効は中断しなかったことになります。(149条)

      訴えの提起   訴えの取り下げ・却下

 ――――――――――――――――――――

 いったん時効中断    時効は中断しなかったことになる。

●類題
債権者が破産手続に参加すれば,その参加を取り消したり,その請求が却下された場合でも,時効は中断する。
【正解 : ×

 債権者が破産手続に参加しても,その参加を取り消したり,その請求が却下された場合は,時効中断の効力は生じません。(152条)

4.「に対する債権を有する場合において,その債権が既に時効により消滅しているときは,その時効完成前にの金銭債権と相殺し得る状態にあったとしても,は,相殺することはできない。」

【正解:×

◆時効により消滅した債権でも,時効完成する前に相殺適状のときは相殺できる

      の金銭債権と  に対する債権が
      相殺適状      時効により消滅      相殺の主張

 ――――――――――――――――――――――――

 時効により消滅した債権であっても、その債権が消滅する前に〔消滅時効が完成する前に〕相殺することができる状態であったとき相殺適状〕は、相殺することができます(508条)   

●法定代理人の欠缺による時効の停止
 未成年者に法定代理人がいない間は,これに対して消滅時効が完成することはない。
【正解 :

 時効期間満了の6ヵ月内未成年者・成年被後見人に法定代理人がいないときは、その者が能力者になり、または法定代理人が就職した時から6ヵ月以内は時効は完成しません。(158条)

      時効期間    能力者になった
      満了6ヵ月前  法定代理人就職      その6ヵ月後

 ――――――――――――――――――――――――
     法定代理人がいない
      ←――――――――――――――――→
                  時効の停止


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