Brush Up! 権利の変動篇
消滅時効の基本の過去問アーカイブス 平成9年・問4
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
AがBに対して有する100万円の貸金債権の消滅時効に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成9年・問4) |
1.「Aが弁済期を定めないで貸し付けた場合,Aの債権は,いつまでも時効によって消滅することはない。」 |
2.「AB間に裁判上の和解が成立し,Bが1年後に100万円を支払うことになった場合,Aの債権の消滅時効期間は,和解成立の時から10年となる。」 |
3.「Cが自己所有の不動産にAの債権の担保として抵当権を設定〔物上保証〕している場合,Cは,Aの債権の消滅時効を援用してAに抵当権の抹消を求めることができる。」 |
4.「AがBの不動産に抵当権を有している場合に,Dがこの不動産に対して強制執行の手続を行ったときは,Aがその手続に債権の届出をしただけで,Aの債権の時効は中断する。」 |
1.「Aが弁済期を定めないで貸し付けた場合,Aの債権は,いつまでも時効によって消滅することはない。」 |
【正解:×】 ◆弁済期の定めのない貸金債務の消滅時効の起算日はいつか? 「Aの債権は,いつまでも時効によって消滅することはない」というのもオカシな話です。 弁済期(返済の時期)を定めない貸金債権は、その返済を求めることができる日、つまりAがお金を貸した日が消滅時効のスタート地点です。〔→履行期を定めなかった債権は貸した日からいつでも請求することができる。〕 したがって、時効中断や時効の停止がなければ、貸した日から10年間で時効によってこの債権は消滅します。本肢は、このため×になります。 |
●類題 |
売買代金の債務の履行につき期限の定めのないときは,債権の消滅時効は履行の請求がある時から進行を開始する。(司法書士・昭和53年) |
【正解 : ×】
期限の定めのない債権は、債権者はいつでも権利行使が可能なので、債権成立の時から消滅時効が進行を開始します。 |
2.「AB間に裁判上の和解が成立し,Bが1年後に100万円を支払うことになった場合,Aの債権の消滅時効期間は,和解成立の時から10年となる。」 |
【正解:×】 ◆和解後の消滅時効の起算日−返済期日が1年先の場合 引っ掛け問題。『和解成立のときから』ではなく、返済期日が1年後なので『和解成立の1年後から』〔つまり、和解で定められた返済期日から〕10年です。 確定判決や和解成立によって確定した債権の消滅時効の期間は,弁済期がすでに到来していた場合(確定後すぐ弁済しなければならないとき)は、確定判決時または和解成立時を起点として10年であることは言うまでもありません。 本肢は、本来どうということもなく、常識で×だと分かるはずの問題ですが、単なるマル暗記で武装したつもりになっていると足元をスクワレル問題です。 ▼補足 元々の債務の消滅時効が10年に満たないものであったとしても、確定判決や和解などで債務が確定するとその消滅時効は10年になります。 |
3.「Cが自己所有の不動産にAの債権の担保として抵当権を設定〔物上保証〕している場合,Cは,Aの債権の消滅時効を援用してAに抵当権の抹消を求めることができる。」 |
【正解:○】 ◆被担保債権の消滅時効の援用(判例) 判例では、時効の援用権をもつ「145条の当事者」とは、『時効により直接に利益を受ける者』としています。 被担保債権の消滅時効が完成した場合,それを援用できるのは債務者のほかに、保証人・物上保証人・担保不動産の第三取得者が援用できるとされています。 したがって、物上保証人Cは,Bが時効の利益を放棄しても、Aの債権の消滅時効を援用してAに抵当権の抹消を求めることができます。 |
●重要な類題 |
時効は当事者が援用しなければ,これによって裁判をすることはできない。 |
【正解 : ○】
裁判所は、当事者が時効を援用〔時効の効果を主張〕しない限り、時効を理由とした裁判をすることができません。(145条) |
●重要な類題 |
時効の援用権者が複数いる場合,それぞれの時効の援用権の行使の結果や喪失の効果は,相対的なものである。 |
【正解 : ○】
時効完成により当然に時効の効果が生じるのではなく、援用がされて初めて時効の効果が認められます。 時効の利益に浴するか否かは当事者の意思に委ねられており、当事者によっては、時効完成を潔しとせずに、時効を援用しない場合も考えられます。 したがって、時効の援用権者が複数いる場合は、援用権者のうちの1人が援用しなかったからといって他の援用権者も援用できないということにはならず、1人の援用権者の時効の援用や喪失の結果は他の援用権者には影響を与えない相対的なものだと考えられています。 |
●被担保債権の消滅時効の援用 |
判例は、「時効援用権をもつ当事者」とは、『時効により直接に利益を受ける者』としていますが、直接に利益を受ける者の範囲を広くとるようになっています。 ●物上保証人は、被担保債権の消滅時効が完成した場合,それを援用できる。(最高裁・昭和42.10.27) B(債務者) ●担保不動産の第三取得者は、被担保債権の消滅時効が完成した場合,それを援用できる。(最高裁・昭和48.12.14) B(債務者) A(債権者、抵当権者) | B(債務者、抵当権設定者) ― D(Bから担保不動産を譲渡された第三取得者) ●保証人・連帯保証人は、主たる債務の消滅時効が完成した場合,それを援用できる。(大審院・昭和8.10.13など) B(主たる債務者) ●債権者の代位行使 債務者Bが負っている債務のうち、Aに対する債務が消滅時効にかかつている場合、Bの債権者Xは、Bが援用権を行使しないことでXを害するときは、Bに代位して、Aに対する消滅時効を援用できる。(最高裁・昭和43.9.26) X(Bの債権者) |
●チェック | ||||||
次の記述は、○か×か。(頻出問題)
1.「主たる債務について消滅時効が完成した場合には,主たる債務者が時効の援用をしないときでも,その連帯保証人は,主たる債務につき時効を援用することができる。」 2.「主たる債務者がなした時効利益の放棄は,保証人に対しても効力を生じるので,保証人は,時効を援用することができない。」 3.「抵当不動産の第三取得者は,主債務の消滅時効を援用できないが,物上保証人は援用できる。」 |
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【正解】
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4.「AがBの不動産に抵当権を有している場合に,Dがこの不動産に対して強制執行の手続を行ったときは,Aがその手続に債権の届出をしただけで,Aの債権の時効は中断する。」 |
【正解:×】難問 ◆時効の中断事由 イキナリ『強制執行の手続』という言葉が出てきて驚きますが、このような場合、基本に立ち返ってそこから判断していくしかありません。 A(債権者、抵当権者)―― B(債務者、抵当権設定者) Aが消滅時効の中断をするには、裁判所で権利行使をする(裁判上の請求、差押・仮差押・仮処分、破産手続参加)、または、Bから債務の承認をとる必要があります。 他の債権者が行った強制執行の手続に対して、単に債権の届出をすることはこの中のどれにあたるのか、と考えてみると、どうも該当しないようだと判断できます。 判例でも、単に債権の届出をしただけでは時効中断事由にはならない、としています。(最高裁・平成元.10.13) ▼強制執行とは、債務者が債務を履行しないときに、国家の強制力によって債権者の権利を実現するための制度で、担保権の実行としての競売とは別です。(民事執行法) |
●被保佐人と消滅時効 |
被保佐人が保佐人の同意なしになした債務の承認は,時効中断の効果を生じない。 |
【正解 : ×】
被保佐人が、保佐人の同意なしに承認した場合は,時効中断の効果を生じます。 ⇔ 未成年者・成年被後見人は単独で承認することはできない。 |