Brush Up! 権利の変動篇
取得時効の基本の過去問アーカイブス 平成10年・問2
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
所有の意思をもって,平穏かつ公然にA所有の甲土地を占有しているBの取得時効に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成10年・問2) |
1.「Bの父が15年間所有の意思をもって平穏かつ公然に甲土地を占有し,Bが相続によりその占有を承継した場合でも,B自身がその後5年間占有しただけでは,Bは,時効によって甲土地の所有権を取得することができない。」 |
2.「Bが2年間自己占有し,引き続き18年間Cに賃貸していた場合には,Bに所有の意思があっても,Bは,時効によって甲土地の所有権を取得することができない。」 |
3.「DがBの取得時効完成前にAから甲土地を買い受けた場合には,Dの登記がBの取得時効完成の前であると後であるとを問わず,Bは,登記がなくても,時効による甲土地の所有権の取得をDに対抗することができる。」 |
4.「取得時効による所有権の取得は,原始取得であるが,甲土地が農地である場合には,Bは,農地法に基づく許可を受けたときに限り,時効によって甲土地の所有権を取得することができる。」 |
1.「Bの父が15年間所有の意思をもって平穏かつ公然に甲土地を占有し,Bが相続によりその占有を承継した場合でも,B自身がその後5年間占有しただけでは,Bは,時効によって甲土地の所有権を取得することができない。」 |
【正解:×】 ◆占有の承継による取得時効
Bは、前主であるBの父の15年間の占有と自己の5年間の占有を併せて20年間になるので、たとえBの父親が悪意・有過失であったとしても時効取得を主張できます。 ▼現在の占有者は、承継したその前主(以前の占有者。直前の前主に限らず、それに先立つ全ての前主の誰からでも選択できる。)の占有期間も併せて時効による取得を主張することができます。ただし、前主の占有を併せて主張する場合は、その『瑕疵』(=悪意・過失)も承継します。 |
2.「Bが2年間自己占有し,引き続き18年間Cに賃貸していた場合には,Bに所有の意思があっても,Bは,時効によって甲土地の所有権を取得することができない。」 |
【正解:×】 ◆代理占有
取得時効の要件は自主占有ですが、賃借人による代理占有も自主占有に含まれます。(181条) Bは、所有の意思をもって占有しており、B自身による占有2年間と賃借人Cによる代理占有18年間の合わせて20年間自主占有していることになるので、たとえBが悪意であったとしても、時効取得を主張できます。 |
●類題 |
所有権の取得時効の要件たる占有は自己占有に限り,代理占有を含まない。 |
【正解 : ×】
取得時効の要件は自主占有ですが、賃借人による代理占有も自主占有に含まれます。(181条) |
3.「DがBの取得時効完成前にAから甲土地を買い受けた場合には,Dの登記がBの取得時効完成の前であると後であるとを問わず,Bは,登記がなくても,時効による甲土地の所有権の取得をDに対抗することができる。」 |
【正解:○】 ◆取得時効完成前の第三者には登記がなくても対抗できる
Dが購入 Dが所有権移転登記 時効完成
――●―――●―――――――――●――――→
Dが購入 時効完成 Dが所有権移転登記
――●――――●――――――――●――――→ Bの取得時効完成前に第三者DがAから甲土地を買い受けた場合は、Bは登記がなくても、時効による甲土地の所有権の取得をDに対抗することができます。(最高裁・昭和41.11.22) この場合は、Bの取得時効完成の後にDが移転登記したとしても、Bは、時効による取得をDに主張することができます。(最高裁・昭和42.7.21) → Dの移転登記が、Bの取得時効完成の前か後かには、関係ない。 |
●時効完成後の第三者 |
◆取得時効完成後の第三者には登記がないと対抗できない
時効完成 Dが購入
――●―――――●――――→ Bの取得時効完成後に、第三者DがAから甲土地を買い受けた場合は、Aによって二重譲渡があったのと同じように考えて、Bは登記(時効による原始取得or時効取得による移転登記)がないと、時効による取得をDに対抗することができません。先にDが移転登記してしまうともはやBは時効取得を主張できなくなります。(大審院・大正14.7.8) B(取得時効完成) ただし、Dが移転登記した後も占有し続けて取得時効に必要な期間が経過すれば、再び時効をDに主張することができます。(最高裁・昭和36.7.20) |
4.「取得時効による所有権の取得は,原始取得であるが,甲土地が農地である場合には,Bは,農地法に基づく許可を受けたときに限り,時効によって甲土地の所有権を取得することができる。」 |
【正解:×】 ◆農地法は関係ない 確かに、農地の権利移動には農地法第3条または第5条の許可が必要ですが、時効取得とは無関係です。農地法の許可がなくても、自主占有して取得時効に必要な期間が経過すれば、取得時効は完成します。 ▼原始取得 物権の取得原因の一つで、『相続・売買・設定契約などの承継取得』と対比されます。 ・新しいモノができたことによって取得したこと。 ・前主の権利を前提にしないで、前主やその権利とは無関係に物権を取得したこと。 → 原始取得は、時効取得のほかには、無主物先占(239条)、遺失物の拾得(240条)、埋蔵物の発見(241条)、不動産の附合(242条)、即時取得、土地の収用による取得など。 |
●取得時効が援用される場面の例 |
取得時効を初めて学習したときには、「自分の土地がギャングみたいな奴に占拠されていることを10年間・20年間も真実の権利者が気がつかないなんて、そんなバカなことがあり得るのか?時効取得なんて本当にあるのか?」と思うはずです。しかし、取得時効の活躍する、下記の代表的な三つの例をご覧になればその疑問は氷解します。
・二重譲渡のタイプ A(買主)・・・・・時効取得を主張 Aは,Bから不動産を買って引渡しを受け占有をし続けていたが移転登記をしていなかった。このことに目をつけた元の売主Bが第三者Cに二重譲渡してCに移転登記した。 → 通常の二重譲渡ならば、すでに移転登記を終えているCに対してAは対抗できませんが、Cへの譲渡が、Aの取得時効完成前ならば、Aは登記なくしてCに対抗することができます。このため、Aは売買契約による移転よりも、時効による取得を主張したほうが有利だということになります。 ・契約無効or非認定 B(売主,登記名義人)――――A(買主) 贈与・売買契約が無効であった,または,贈与・売買契約の存在を立証できないにもかかわらず,登記名義人Bがその後明渡し請求など有効な措置をしてこなかったのでAは占有をし続けてきた。 ・境界線が不明 DはD所有の土地・甲をCに売却したが,その後Cが占有した土地の一部には,DがCに売却していない土地・乙が含まれていた。Cはこのことに気がつかないまま,Cはずっと占有をし続けた。 |