Brush Up! 権利の変動篇

消滅時効の基本の過去問アーカイブス 平成12年・問2


は,に対する金銭債務を担保するため,所有の土地に抵当権を設定し,物上保証人となった。この場合,民法の規定及び判例によれば,次の記述のうち誤っているものはどれか。(平成12年・問2)

1.「は,この金銭債務の消滅時効を援用することができる。」

2.「が,に対し,この金銭債務が存在することを時効期間の経過前に承認した場合,当該債務の消滅時効の中断の効力が生じる。」

3.「が,に対し,この金銭債務が存在することを時効期間の経過前に承認した場合,は,当該債務の消滅時効の中断の効力を否定することができない。」

4.「からに対する不動産競売の申立てがされた場合,競売開始決定の正本がに送達された時に,この金銭債務の消滅時効の中断の効力が生じる。」

【正解】

×
1.「は,この金銭債務の消滅時効を援用することができる。」

【正解:

◆時効の援用権者(判例)

 時効は当事者以外の者が援用してもその効果は生じない。(145条)

 判例では、145条の当事者として時効を援用することができる者に、物上保証人、保証人、抵当不動産の第三取得者を挙げています。

物上保証人は、被担保債権の消滅時効が完成した場合,それを援用できる。(最高裁・昭和43.9.26)

          (債務者)
        /          
 (債権者)
 (抵当権者)\
          (物上保証人)

●類題
当事者が時効を援用しなくても,時効完成が明らかであれば,裁判所は,これを前提として裁判をすることができる。
【正解 : ×

 当事者が時効を援用しなければ、裁判所は、それを前提にして裁判をすることはできません。(145条)

2.「が,に対し,この金銭債務が存在することを時効期間の経過前に承認した場合,当該債務の消滅時効の中断の効力が生じる。」

【正解:×

◆物上保証人や保証人が債務の承認をしても、
主たる債務者には時効中断の効力は生じない(判例)

          (債務者)
        /          
 (債権者)
 (抵当権者)\
          (物上保証人)

 物上保証人が債権者に対して債務の承認をしたとしても、「債務の承認」にはならず、の債務について時効中断の効力は生じない。また当該物上保証人との関係でも時効中断の効力を生じない。(最高裁・昭和62.9.3)

保証人 が主たる債務者の債権者に対する債務を承認しても,主たる債務の消滅時効は中断しない(最高裁・昭和34.6.27)

3.「が,に対し,この金銭債務が存在することを時効期間の経過前に承認した場合,は,当該債務の消滅時効の中断の効力を否定することができない。」

【正解:

◆時効完成前に債務者が承認した場合、物上保証人は時効中断を否定できない(判例)

 判例は、時効完成前に債務者が債務を承認した場合は、その債務の消滅時効は中断し、物上保証人は、その時効中断の効力を否定することは許されないとしました。
 (最高裁・平成7.3.10)

4.「からに対する不動産競売の申立てがされた場合,競売開始決定の正本がに送達された時に,この金銭債務の消滅時効の中断の効力が生じる。」

【正解:

◆時効中断−抵当不動産に競売開始決定の正本が物上保証人に到達(判例)

          (債務者)
        /          
 (債権者)
 (抵当権者)\
          (物上保証人) 競売開始決定の正本がBに送達
                             ↓
                 被担保債権である、金銭債務の消滅時効中断の効力

 本肢は出題当時、受験者を唖然とさせました。六法などには注として書いてあっても(つまり特別に入手困難という知識ではない)宅建の基本書にないものは敬遠しがちなためでした。肢2が×であることがわからないと困惑させる肢でした。

 判例では、に対する債務の承認がないまま、に対して抵当権の実行(競売)をしたときには、に対する競売開始決定の正本がに送達されてに到達したときに、消滅時効の中断が生ずるとされています。(最高裁・昭和50.11.21,平成7.9.5;147条2号、155条)

●時効完成後の承認
1.「債務者は,時効完成後に債務を承認した場合には,その当時時効が完成していたことを知らなかったときでも,時効を援用することはできない。」
【正解 :

◆時効援用権の喪失

 債務者が時効完成を知らないで承認などをしたとしても、その後、(すでに経過した)その時効期間について援用をすることは許されない。(最高裁・昭和41.4.20)

2.「時効が完成していたことを知らなかったときに,債務者が債務を承認した場合,その承認以後再び時効期間が進行し、再度時効が完成すれば,債務者は,時効を援用することができる。」
【正解 :

◆時効援用権の喪失後の時効期間の進行

 債務者が時効完成を知らないで承認などをしたとしても、それはすでに経過した時効期間について消滅時効を援用できないということに止まり、その承認以後再び時効期間が進行することを否定したものではない。(最高裁・昭和45.5.21)

 したがって,再度時効が完成すれば,債務者は,時効を援用することができます。


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