Brush Up! 権利の変動篇
取得時効の基本の過去問アーカイブス 昭和62年・問8
BはA所有の土地を占有している。この場合,民法の規定によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。(昭和62年・問8) |
1.「Bはこの土地がA所有のものであることは知っていたが,占有を続け,ついにこの土地の所有権を時効により取得した。この場合において,Bが所有権を取得した時点は,時効が完成したときである。」 |
2.「Bはこの土地を賃借権に基づき占有していたが,今までに一度もAより賃料を請求されたことがない。この場合において,Bはこの土地の占有を20年間継続しさえすれば,時効により所有権を取得することができる。」 |
3.「Bはこの土地を自己所有のものと過失なく信じて占有を開始したが,5年後にこの土地が実はA所有のものであることをA,Bとは無関係の第三者Cより教えられて知った。この場合において,Bは占有を開始した時より20年間占有を継続しなければ,この土地の所有権を時効取得することはできない。」 |
4.「Bはこの土地を自己所有のものと過失なく信じて占有を開始した。5年後にAはBに対し,この土地を明渡すよう裁判によらずして催告したが,その後5年間AはBに対し何もせずに放置した。この場合において,Bが当該催告を無視して占有を続けていたならば,Bのための取得時効はAの催告によって中断されたことにはならない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | × | ○ |
1.「Bはこの土地がA所有のものであることは知っていたが,占有を続け,ついにこの土地の所有権を時効により取得した。この場合において,Bが所有権を取得した時点は,時効が完成したときである。」 |
【正解:×】 ◆取得時効の効果 取得時効が完成し援用されると、占有者は、時効期間の開始時(起算日)に遡って所有権を取得します。 ▼このほかの取得時効の効果は次のようなものです。 ・本来の(真実の)権利者(とされてきた者)は、従来有していた所有権を失う。 ・当該物件上に設定されていた他人の権利(抵当権など)はすべて消滅。この結果、何の負担もまた制限もない所有権が占有者に帰属することになります。 |
●類題 | |||||
取得時効による権利の取得は,時効期間の満了により当然確定的に生ずる。 | |||||
【正解 : ×】
時効の効果は、時効完成によって当然に生じるものではありません。 時効の効果は,当事者が援用することによって確定的に生じます。(判例) したがって、時効期間が満了しただけでは,まだ確定的に時効の効果は生じません。
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2.「Bはこの土地を賃借権に基づき占有していたが,今までに一度もAより賃料を請求されたことがない。この場合において,Bはこの土地の占有を20年間継続しさえすれば,時効により所有権を取得することができる。」 |
【正解:×】 ◆賃借権による占有は時効取得の対象外 取得時効の要件として『自主占有』があります。自主占有とは、「自ら所有の意思をもってする占有」のことで、目的物を第三者に賃貸した場合でも自主占有は継続します。(代理占有,または間接占有) しかし、賃借権に基づいての占有はこの自主占有にはあたらず、『他主占有』と呼ばれています。 したがって、借りたままの状態で何年経過しようと取得時効は完成しません。 |
3.「Bはこの土地を自己所有のものと過失なく信じて占有を開始したが,5年後にこの土地が実はA所有のものであることをA,Bとは無関係の第三者Cより教えられて知った。この場合において,Bは占有を開始した時より20年間占有を継続しなければ,この土地の所有権を時効取得することはできない。」 |
【正解:×】 ◆途中から悪意・過失という事情があっても、開始時で判断する 平穏・公然と自主占有が10年間継続し、占有を開始したときに善意・無過失ならば、取得時効が完成します。開始したときに善意無過失で、その後に悪意あるいは過失になったような場合でも、取得時効の完成には影響を受けません。(162条2項) したがって、本肢の場合は、開始時点で善意無過失だったので、占有後10年で時効取得します。 ▼占有(判例・通説) ・取引や契約によらない場合−自己が所有者であると誤信 ・取引や契約による場合−無効な売買・贈与契約などに基づく占有 |
●類題 | |||||
AがB所有の土地を自己の所有と誤信して5年間占有した時点で,その土地がBの所有であることに気づいたが,これを自己の所有であると称してCに売却し,Cが5年間占有した場合,CがBの土地を時効取得する可能性はない。 | |||||
【正解:×】
平穏・公然と自主占有が10年間継続し、占有を開始したときに善意・無過失ならば、取得時効が完成します。開始したときに善意無過失でも、その後に悪意あるいは過失になったような場合でも、取得時効の完成には影響を受けません。 Cは、自身の占有と前主のAの占有も併せて主張できます。Aは途中から悪意になり、Cの善意・悪意は不明ですが、Aの占有開始時点では善意であったため、Cは併せて10年で時効取得しうることになります。(187条2項)
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●類題 |
AがBから土地を買い受け,占有開始後はじめてその契約の無効を知った場合は,その時点から取得時効は進行する。 |
【正解 : ×】
取得時効は占有開始の時点からです。 この場合、AがBから土地を買い受け,占有開始した時点では、Aは善意無過失であり、10年間占有し続ければ時効取得します。 |
4.「Bはこの土地を自己所有のものと過失なく信じて占有を開始した。5年後にAはBに対し,この土地を明渡すよう裁判によらずして催告したが,その後5年間AはBに対し何もせずに放置した。この場合において,Bが当該催告を無視して占有を続けていたならば,Bのための取得時効はAの催告によって中断されたことにはならない。」 |
【正解:○】 ◆『裁判外での催告』が時効中断となる場合 時効の中断事由となるのは、原則として、裁判上の請求またはそれに準じるものです。 裁判によらずに請求を行った場合は「催告」として扱われ、当面、その時点で時効中断が生じますが、6カ月以内にあらためて裁判上の請求等を行わないと、時効は中断されなかったことになります。(民法153条) 催告の後の確定判決や裁判上の和解・調停などによって確定したときは、訴訟提起時ではなく、催告時に時効中断します。
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●取得時効 | ||
・不動産・動産の所有権(126条2項では,不動産の占有を規定してますが,取引によらない動産の占有の場合でも適用されると通説では考えられています。⇔取引によって動産の占有を善意・無過失で始めたときは,民法192条により即時に所有権を取得します。)
・所有権以外の財産権−“物権”だけではなく,“債権”にもある。 真実の権利者ではなくても,特定の財産権を時効期間、平穏かつ公然と継続して行使した者は時効によって当該権利を取得することができます。(163条)
▼債権は原則として取得時効にはなじまないとされていますが,独占的なもの・排他性のあるものについては取得時効が認められる場合があります。 例えば,土地の賃借権は債権ですが、判例によって認められています。判例では,借地契約が成立して後にその契約が無効とされても,
この要件が二つとも具備されているときは,賃借権の取得時効がありうるとされています。(最高裁・昭和43.10.8,昭和45.12.15,昭和52.9.29など) 土地の所有者から土地を買い受けてその所有権を取得したと称する者Aから土地を賃借した賃借人Bが、賃貸借契約に基づいて平穏公然に目的土地の占有を継続し、Aに対し賃料を支払っているなどの事情がある場合では、その土地の賃借人Bは、民法163条の時効期間の経過により、所有者に対して土地の賃借権を時効取得することができる。 (最高裁・昭和62.6.5) |