Brush Up! 権利の変動編 正解・解説
取得時効の基本問題 平成4年・問4
AがBの所有地を長期間占有している場合の時効取得に関する次のそれぞれの記述は,民法の規定及び判例によれば○か,×か。(平成4年・問4) |
1.「Aが善意無過失で占有を開始し,所有の意思をもって,平穏かつ公然に7年間占有を続けた後,Cに3年間賃貸した場合,Aは,その土地の所有権を時効取得することはできない。」 |
2.「Aが善意無過失で占有を開始し,所有の意思をもって,平穏かつ公然に7年間占有を続けた後,その土地がB所有のものであることを知った場合,Aは,その後3年間占有を続ければ,その土地の所有権を時効取得することができる。」 |
3.「Aが善意無過失で占有を開始し,所有の意思をもって,平穏かつ公然に7年間占有を続けた後,BがDにその土地を売却し,所有権移転を完了しても,Aは,その後3年間占有を続ければ,その土地の所有権を時効取得し,Dに対抗することができる。」 |
4.「Aが20年間平穏かつ公然に占有を続けた場合においても,その占有が賃借権に基づくもので所有の意思がないときは,Bが賃料を請求せず,Aが支払っていないとしても,Aは,その土地の所有権を時効取得することができない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | ○ | ○ |
1.「Aが善意無過失で占有を開始し,所有の意思をもって,平穏かつ公然に7年間
占有を続けた後,Cに3年間賃貸した場合,Aは,その土地の所有権を時効取得す
ることはできない。」
【正解:×】 ◆代理占有 Aは善意無過失で占有を開始
所有の意思をもって、平穏かつ公然と他人の不動産を占有した者が、占有の開始の時に善意無過失であれば、10年で時効取得することができます。(民法第162条2項) この占有には、他人に賃貸したなど“代理占有”も含まれ(第181条)、したがってAがCに3年間賃貸しても、Aは所有の意思まで放棄したわけではなく、通算10年経過すれば時効取得できます。 |
2.「Aが善意無過失で占有を開始し,所有の意思をもって,平穏かつ公然に7年間
占有を続けた後,その土地がB所有のものであることを知った場合,Aは,その後
3年間占有を続ければ,その土地の所有権を時効取得することができる。」
【正解:○】 ◆善意・無過失は占有開始時点で判断する Aは善意無過失で占有を開始
「始め良ければすべて良し」・・・というわけではありませんが、占有開始時に“善意無過失”であれば、たとえ占有開始後に悪意者(他人物と気がついた)となっても、通算10年経過すれば時効取得することができます(第162条2項)。 例えば、自分の土地と信じて建物を建てたのに、1年後に他人の土地であると気がついても、その後9年間占有を継続すれば時効取得できます。 |
3.「Aが善意無過失で占有を開始し,所有の意思をもって,平穏かつ公然に7年間
占有を続けた後,BがDにその土地を売却し,所有権移転を完了しても,Aは,
その後3年間占有を続ければ,その土地の所有権を時効取得し,Dに対抗すること
ができる。」
【正解:○】 ◆時効完成前に土地が譲渡されたとき Aは善意無過失で占有を開始
判例によれば、時効取得した者は、その登記がなくても、時効により権利を失う者に対して所有権を主張することができます。 また、時効が完成する“前”にBからDその他に所有権が移転されても、それには関係なく、Aは、時効完成時点の登記名義人Dに対して、時効取得を主張できます。 つまり、B名義がD名義になっただけであり、AとDとの関係は、Aの占有につき当事者関係であって、登記がなければ対抗できない第三者の関係(第177条関連)ではありません。 【売買】 【時効】 B(権利者)────→D(第三者)─────→A 登記 (時効取得者) DがBから購入 時効完成 ―――――――――●――――――――――●―― <関連> なお、時効が完成した“後”にBがDにその土地を売却したときは、二重売買と同じ関係となり、Aはその登記(時効による原始取得の登記or時効取得による移転登記)がなければ、Dに対抗できません(先に登記をした方の勝ち)。→平成13年・問5・肢4に出題 時効完成 DがBから購入 ―――――――――●――――――――――●――― A(取得時効完成) |
4.「Aが20年間平穏かつ公然に占有を続けた場合においても,その占有が賃借権
に基づくもので所有の意思がないときは,Bが賃料を請求せず,Aが支払っていない
としても,Aは,その土地の所有権を時効取得することができない。」
【正解:○】 ◆他主占有は時効取得できない
Bが賃料の請求をしていないことやAが賃料の支払をしていないことなどとは関係なく、Aの占有の開始が所有の意思ではなく、賃借権に基づくものなのでAの占有は時効取得の要件である自主占有とは言えません。(他主占有) したがって、Aは、自主占有に変更しない限り〔以後その土地を自分の所有地として占有する旨をBに明示して占有を続けるか、新権原により所有の意思をもって占有を開始すること〕、今後、何年占有していても時効取得することはできません。(第162条) |
所有権の取得時効 |
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条文 | 対象 | |
162条1項 | 20年間所有の意思を以て平穏且公然に他人の物を占有し
たる者は其所有権を取得す。 |
他人の物 |
162条2項 | 10年間所有の意思を以て平穏且公然に他人の不動産を
占有したる者が其占有の始善意にして且過失なかりしときは 其不動産の所有権を取得す。 |
他人の不動産 |
※通説では、162条2項は、不動産だけでなく、動産にも類推適用すべきとしています。
所有権以外の財産権の取得時効 |
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163条 | 所有権以外の財産権を自己の為めにする意思を以て平穏且公然に行使する
者は前条の区別に従い20年又は10年の後其権利を取得す。 |
通説
判例 |
(1) 地上権・永小作権
(2) 地役権(283条) 地役権は継続且表現のものに限り時効に因りて之を取得することを得。 (3) 賃借権 |
●時効取得を主張するには・・・ |
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(1) 「所有の意思」「善意」「平穏」「公然」は推定されます(186条1項)。 つまり、「所有の意思がないこと」や「悪意」を真実の権利者が証明しなければならないわけです。(立証責任の転換) (2) また、占有の始期と終期を証明すれば、その間占有が継続したものと推定されます(186条2項)。 (3) 結局、162条1項の時効取得を主張する者は、「占有を開始した時期」と「現在も占有している」事実だけを証明すれば足ります。 (4) 162条2項の時効取得を主張する者は、この他「無過失」を証明すればいいわけです。
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