Brush Up! 権利の変動篇
物権の基本問題 正解・解説
次のそれぞれの記述は,民法の規定によれば○か,×か。 |
1.「物権は,民法その他の法律に定められたものに限られる。」 |
2.「物権の設定及び移転は,当事者の意思表示によって効力を生じるが,不動産については,その登記がなければその効力を生じない。」 |
3.「動産の譲り渡しの第三者対抗要件は,その引渡しである。」 |
4.「占有者の承継人は,自己の占有のみを主張できるが,前主の占有を併せて主張することはできない。」 |
5.「土地の所有権は,その土地の上下に無限に及び,土地の所有者は,その土地を法令の制限内において,自由に使用・収益及び処分をすることができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
○ | × | ○ | × | × |
1.「物権は,民法その他の法律に定められたものに限られる。」
【正解:○】 物権とは、物を直接支配し、他を寄せ付けない(排他的)強い性質を持つので、物権 の移転等について、第三者にも分かるようにする必要があり、無数に物権があると整理 がつかなくなるため、物権を法定化し、取引の安全性と迅速性に寄与させています。 当事者が任意に創設することはできません。(物権法定主義) 「物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない」(民法175条) 【注意】「この法律その他の法律」とは、憲法の規定する法律を指し、政令・省令・条例は 含みません。 ◇民法以外の法律で認められている物権には、魚をとる権利の漁業権、登録を受けた鉱区で登録を受けた鉱物(金・銀・銅等の金属類、石油、石炭、天然ガス、石灰石、けい石・長石等の非金属類、耐火粘土等)を掘採・取得する権利である鉱業権、他人の土地で岩石・砂利を採取する権利である採石権(「地下・空間の区分地上権」を除く地上権が準用)などがあり、商法や特別法で規定されています。 商法〔商事留置権,商事質権など〕,特別法〔採石権・鉱業権・漁業権・工場財団抵当権・企業担保権・自動車抵当権・航空機抵当権・建設機械抵当権など〕 ◇民法上の物権としては、現在10種類規定されています。(根抵当権を抵当権と分離すると11種類。) 占有権、所有権のほかに、 用益物権として、地上権・永小作権・地役権・入会権、 法定担保物権として、留置権・先取り特権、 約定担保物権として、質権・抵当権(根抵当権を含む) ◇債権との違い 債権は「契約自由の原則」から、どんな契約も強行規定や公序良俗に反しない限り、 締結可能です。 物権と債権の基本的な相違点を基本書で整理しておくことをお勧めします。 ◇物権法定主義の例外として、慣習法によって物権的効力をもつと判例によって認められているものもあります。水利権・湯口権(温泉専用権)・譲渡担保権など。 |
●参考問題 |
1.「物権は,民法その他の法律によって定められるもののほか,当事者間の契約によっても創設することができる。」(昭和51) |
【正解:×】 |
2.「物権の設定及び移転は,当事者の意思表示によって効力を生じるが,不動産につい
ては,その登記がなければその効力を生じない。」
【正解:×】 不動産の登記は、第三者に対抗する(第三者に私のものと主張できる)要件であって、 当事者間では、たとえ不動産であっても「売った」「買った」の意思表示のみでその効力 が生じます。(意思主義) 「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。」(民法176条) ※民法上の権利で登記され、物権以外で重要なものとしては、賃借権・不動産買戻権 などの債権があります。(ヒッカケ問題に注意) |
3.「動産の譲り渡しの第三者対抗要件は,その引渡しである。」
【正解:○】公示の必要性 物権の移転は、意思表示のみにより効力が発生しますが、当事者でない第三者に対抗 する(物権が移転したということを第三者に主張するためには)要件は、 不動産の場合は「所有権移転登記」、 動産の場合は「引渡し」になり、 これを「公示方法」といいます。 ◇物権ではどれも公示手段が必要ですが、債権では原則としてはそのようなことはあり ません。 |
4.「占有者の承継人は,自己の占有のみを主張できるが,前主の占有を併せて主張する
ことはできない。」
【正解:×】 ◆占有の承継 承継人(売買・相続等によって前主の権利を受継いだ者)は、選択によって、自己の 占有のみを主張でき、また前主の占有を併せて主張することもできます。 ただし、前主の占有を併せて主張するときは、前主の瑕疵(悪意・過失などのキズ) も受継ぐことになりますので注意してください。(民法187条) ▼前主 「前主」とは、現在の占有者に先立つ全ての前主をいい、前主が複数いた場合は、選択により特定の前主以下からの占有を主張することもできます。 ▼取得時効との関連に注意してください。 |
●参考問題 | |
1.「不動産の占有権は,占有代理人によってこれを取得することができる。」(昭和51) | |
【正解:○】 ◆代理占有 民法181条 占有権は、代理人によって取得することができる。 例 : 不動産の賃貸人 賃貸人は賃借人に目的物を引き渡した後も、賃借人を介して代理占有をしています。(大審院・大正11.11.27) |
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2.「占有権は,自己のためにする意思をもって物を所持する場合のほか,他人のためにする意思をもって物を所持する場合にも,取得することができる。」(昭和49) | |
【正解:×】 ◆占有権の取得 民法180条 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
占有権取得のこの二つの要件を考えると、『他人のためにする意思をもって物を所持する場合』は含まれないことがわかります。 |
5.「土地の所有権は,その土地の上下に無限に及び,土地の所有者は,その土地を
法令の制限内において,自由に使用・収益及び処分をすることができる。」
【正解:×】 土地の所有者は、その土地の上下に無制限に及ぶのではなく、法令(都市計画法・ 建築基準法等による高さ制限その他あり)の制限内において、その上下に及ぶとされ、 前半がマチガイです。 |