Brush Up! 権利の変動篇
物権変動の過去問アーカイブス 平成10年・問1
Aの所有する土地をBが取得したが,Bはまだ所有権移転登記を受けていない。この場合,民法の規定及び判例によれば,Bが当該土地の所有権を主張できない相手は,次の記述のうちどれか。(平成10年・問1) |
1.「Aから当該土地を賃借し,その上に自己名義で保存登記をした建物を所有している者。」 |
2.「Bが移転登記を受けていないことに乗じ,Bに高値で売りつけ不当な利益を得る目的でAをそそのかし,Aから当該土地を購入して移転登記を受けた者。」 |
3.「当該土地の不法占拠者。」 |
4.「Bが当該土地を取得した後で,移転登記を受ける前に,Aが死亡した場合におけるAの相続人。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
主張できない | 主張できる | 主張できる | 主張できる |
1.「Aから当該土地を賃借し,その上に自己名義で保存登記をした建物を所有している者。」 |
【正解:主張できない】 ◆借地権を有している者‐登記なしに対抗できない B(買主,新しい賃貸人) 未登記 Aから当該土地を賃借し、その上に自己名義で保存登記をした建物を所有している者は借地借家法での対抗力を有しており(借地借家法10条)、この借地人に対して、BがAから賃貸人の地位を取得したことを対抗するには、その土地の所有権移転登記が必要です。(最高裁・昭和49.3.19) つまり、Bは、登記がないと、この借地人には対抗して賃料を請求することはできません。 |
2.「Bが移転登記を受けていないことに乗じ,Bに高値で売りつけ不当な利益を得る目的でAをそそのかし,Aから当該土地を購入して移転登記を受けた者。」 |
【正解:主張できる】 ◆背信的悪意者−登記なしに対抗できる B(買主) 未登記 二重譲渡では、第二譲受人の善意・悪意には関係なく、登記の先後によって、その優劣を決しますが、背信的悪意者は別で、判例では、背信的悪意者は、Bに対して登記の欠缺を主張できないとしています。(最高裁・昭和43.8.2) したがって、Bはこの背信的悪意者には登記なくして対抗できます。 ▼背信的悪意者 → 単なる悪意(知っていること)だけでなく信義則に反する場合 ・第二の買主が第一の買主に害意をもって、売主を教唆し、自分に売らせた場合。 ・第二の買主が第一の買主に高値で売りつけようとして、売主を教唆し、自分に売らせた場合。 |
●参考問題 | |
1.「Aは,その所有する土地・甲をBに譲渡したが,その所有権移転登記が未了の間に土地・甲をCに二重に譲渡した。その後,土地・甲は,CからDに譲渡され,AからC,CからDへの所有権移転登記がなされたが,Cは,背信的悪意者であった。Dがこの事情につき善意・無過失であったとしても,Bは登記なくしてDに対抗できる。 | |
【正解:×】
◆背信的悪意者からの転得者−登記なしに対抗できない B(買主) 未登記 近時の判例によると、背信的悪意者からの転得者D自身に信義則違反がない限り(Bとの関係で背信的悪意者でなければ)、DはBと対抗関係に立つとされており(最高裁・平成8.10.29)、Dに登記があることから土地・甲の所有権を取得できると考えられます。 したがって、Bは登記がないとDに対抗できません。 ▼この理由として、以下のものが考えられます。
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3.「当該土地の不法占拠者。」 |
【正解:主張できる】 ◆不法占拠者−登記なくして対抗できる B(買主) 未登記 Bは、登記がなくても、不法占拠者に自らの所有権を主張できます。(最高裁・昭和25.12.19) → Bは、登記がなくても、無権原の不法占拠者に自らの所有権に基づく返還請求権を有します。 ▼厳密には、本肢は、「物権変動の対抗問題」ではありません。 |
4.「Bが当該土地を取得した後で,移転登記を受ける前に,Aが死亡した場合におけるAの相続人。」 |
【正解:主張できる】 ◆譲渡人の相続者−登記なくして対抗できる B(買主) 未登記 Aの相続人は、被相続人Aの一切の権利義務を承継しており、本肢では、Aの売主としての地位も承継しています。つまり、Aの相続人はAと同じく、売買の当事者と同一です。 したがって、Bは登記なくしてAの相続人に対抗できます。 ▼所有権移転登記がされないまま、売主Aが死亡したとしても、この土地はAの相続人には相続されず、すでに契約が締結された時点で、土地の所有権は買主Bに移転しています。(176条、判例) |