Brush Up! 権利の変動篇

物権変動の過去問アーカイブス 昭和45年 動産と不動産の差異


不動産と動産の差異について次の記述のうち,誤っているものはどれか。(昭和45年)

1.「物権変動の対抗要件は,不動産については登記,動産については引渡しである。」

2.「不動産の登記には公信力は認められていないが,動産の占有については公信力が認められている。」

3.「不動産とは土地及びその定著物のことであり,動産とは不動産以外の有体物のことであるが,無記名債権も動産とみなされている。」

4.「債権以外の財産権のうち,動産に関するものは20年間行使しなければ消滅するが,不動産に関するものは時効により消滅することはない。」

【正解】

×

1.「物権変動の対抗要件は,不動産については登記,動産については引渡しである。」

【正解:

◆対抗要件−不動産は登記,動産は引渡し

 物権変動の対抗要件は,不動産については登記(177条)動産については引渡し(178条)です。つまり,原則として,登記や引渡しがなければ第三者に対してその物権変動を対抗できません。

 不動産に関する物権の得喪及び変更は登記法の定むるところに従いその登記を為すにあらざればこれをもって第三者に対抗することを得ず(177条)

 動産に関する物権の譲渡はその動産の引渡あるにあらざればこれをもって第三者に対抗することを得ず(178条)

178条の『引渡し』は「占有の移転」を意味し,「現実の引渡し」とは限らない。(182条〜184条)

178条で動産に関する物権変動で引渡しを対抗要件とするのは一般的な原則を示したもの。動産であっても,船舶・航空機などのように,特別法で登記や登録制度が設けられ,引渡しではなく登記や登録が対抗要件になっているものもある。

2.「不動産の登記には公信力は認められていないが,動産の占有については公信力が認められている。」

【正解:

◆公信力−不動産の登記に公信力はないが,動産の占有には公信力がある。

 不動産登記には,公示力,対抗力はありますが,公信力はありません。
 それに対して,動産の占有には公信力が認められています。(192条)

 平穏かつ公然に動産の占有を始めたる者が善意にしてかつ過失なきときは即時にその動産の上に行使する権利を取得す(192条)

 → 動産では占有されていることを信頼して取引関係に入った者〔善意かつ無過失〕は保護されますが,
 不動産では登記が実体と合致していないときに登記があることを信頼して取引関係に入った者は保護されません。

 無権利者から買い受けた者の権利取得を,動産と不動産で比べてみましょう。

不動産  ―――――――――(無権利者)(から買い受けた)
          は無権利だが登記   移転登記 
                          の登記を信頼→無権利

                     は登記があってもに対抗できない。

動 産  ―――――――――(無権利者) (から買い受けた)
          は無権利だが占有   引渡し+善意無過失
                          の占有を信頼→権利取得 

           善意無過失のは引渡しを受けていればに対抗できる。

3.「不動産とは土地及びその定著物のことであり,動産とは不動産以外の有体物のことであるが,無記名債権も動産とみなされている。」

【正解:

◆『物』−不動産と動産の定義

 民法85条

 本法において物〔もの〕とは有体物を謂う。 

 → 有体物であっても民法上の物にならないものもあります。なぜならば『民法上の物とは物権の客体となるもの』であり,太陽や月のような天体は「物」ではありません。

 民法では,『物』を「不動産」と「動産」に分けます。本肢は,以下の民法86条を現代口語訳にしたものです。

 民法86条 (不動産と動産)

 土地及びその定著物〔ていちゃくぶつ〕はこれを不動産とす(1項)

 このほかの物はすべてこれを動産とす(2項)

 無記名債権はこれを動産とみなす(3項)

建物」は土地の定着物ですが,土地とは別個の取引の対象になり,常に「土地とは独立の不動産」として扱われます。cf.370条

樹木〔立木〕」は土地の定着物ですが,立木法での登記や明認方法等による一定の条件のもとで,土地とは独立の不動産になります。

土地・建物に付着する物でも「定着物」以外のものは動産です。ex.未分離果実,伐採された木

無主の不動産」…所有者がいなくなったときは国庫の所有になる。(239条2項)

 「無主の動産」…所有者がいても放棄されると,無主物先占の対象になる。(239条1項)

無記名債権」…証券に債権者〔権利者〕を特定・表示せずに債権の成立・存続・行使がすべて証券によってなされる債権。所持している人が権利者とみなされる。商品券・乗車券・入場券など。

●物の分類方法
 民法では,物を見る視点として次のようなものがあります。〔以下は代表的なものでこのほかにもあります。〕

 ・不動産と動産 (86条)

  ― 不動産か動産かで,物権変動の対抗要件〔公示方法〕が異なる。

 ・主物と従物の関係 (87条) 物の帰属に着目したもの 

  ― 複数の物の間の関係。従物は主物の処分に随〔したが〕う。

 ・元物と果実 (88条〜89条) 物の帰属に着目したもの

  ― 果実を生み出すものを「元物」とし,
     物の用方に従い収取する産出物を「天然果実」,
     物の使用対価として受けるべき金銭その他を「法定果実」とする。

 天然果実  果実・牛乳・鶏卵・羊毛・鉱物
 法定果実  家賃・地代・利息

 ・特定物と不特定物 (400条,483条,534条など) 民法の債権編でよく出てきます。

●添附について
 所有権の取得について,民法第2節の242条〜248条に『添附』と総称される箇所があります。宅建では直接の出題例はありませんが,242条不動産の附合については,賃貸借・抵当権・請負などで実務上問題になることが多いため,注意する必要があります。本問題集では,過去問に即した編集のため,指摘するのみにとどめます。

4.「債権以外の財産権のうち,動産に関するものは20年間行使しなければ消滅するが,不動産に関するものは時効により消滅することはない。」

【正解:×

◆消滅時効

 もっともらしく書いてありますが,このような規定はありません。

 民法では,動産と不動産で区別して消滅時効を規定しているわけではないので,×。 

 例) 所有権は財産権の一つですが,動産でも不動産でも所有権に消滅時効はありません。

 民法167条 (債権・財産権の消滅時効)

 債権は10年間これを行わざるによりて消滅す(1項)

 「債権または所有権」にあらざる財産権は20年間これを行わざるによりて消滅す(2項)

民法167条で言う『債権または所有権にあらざる財産権』は,具体的には,用益物権〔地上権・永小作権・地役権〕などが典型的。cf.396条


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