Brush Up! 権利の変動篇
物権変動の過去問アーカイブス 昭和61年・問7
次のうち,登記がなければAが自己の土地の所有権を対抗できない第三者に該当するものはどれか。(昭和61年・問7) |
1.「Aの印章を盗取してAになりすましたBから善意・無過失でこの土地を譲り受けたC。」 |
2.「この土地を不法に占拠しているD。」 |
3.「Eからこの土地を譲り受けたAからその移転登記の手続きの委任を受けていながら,Eから二重にこの土地を譲り受けて自己に移転登記をしたF。」 |
4.「AがGからこの土地を譲り受け,Aが未登記のうちに,その事情につき悪意でGから二重にこの土地を譲り受けて自己に移転登記をしたH。」 |
【正解】4
1 | 2 | 3 | 4 |
対抗できる | 対抗できる | 対抗できる | 対抗できない |
1.「Aの印章を盗取してAになりすましたBから善意・無過失でこの土地を譲り受けたC。」 |
【正解:対抗できる】 ◆無権利者からの譲受人−登記がなくても権利を主張できる A 無権利者Bから土地を譲り受けたCは、善意・無過失であっても、その土地の所有権を取得することはできません。(10年間占有し続けた後の取得時効は別とします。) したがって,真実の所有者Aは、無権利者に対して自らの所有権を主張するのに登記は必要ではなく「登記がなければAは自己の土地の所有権を対抗できない」とは言えません。 ▼厳密には、本肢は、「物権変動の対抗問題」ではありません。 |
2.「この土地を不法に占拠しているD。」 |
【正解:対抗できる】 ◆不法占拠している無権利者−登記がなくても明渡し請求はできる A(所有者) Aは、登記がなくても、不法占拠者Dに自らの所有権に基づく返還請求権を有します。Aは、Dに対して、明渡しを求め、また損害賠償を請求できます。(Aが買主の事例では、最高裁・昭和25.12.19) したがって,真実の所有者Aは、自らの所有権を主張するのに登記は必要ではなく「登記がなければAは自己の土地の所有権を対抗できない」とは言えません。 ▼厳密には、本肢は、「物権変動の対抗問題」ではありません。 |
●177条の『対抗関係に立つ第三者』 |
『不動産に関する物権の得喪及び変更は,登記法の定めるところに従い,その登記をしていなければ,第三者に対抗できない。』 (民法177条)
判例は,この第三者の範囲を『物権変動の当事者及びその包括承継人以外の者』すべてを言うのではなく,『登記の欠缺を主張するのに正当な利益を有する第三者』〔相手方に登記がないことを主張することに正当な利益のある第三者〕に限られるとしました。(大審院・明治41.12.15) この第三者の規定は、取引の安全保護を図ることを趣旨としたものです。したがって、この設問の不法占拠者のように、取引とは全く関係のない者に対して「登記がないと権利を主張できない(対抗できない)」としたものではありません。 不法占拠者に対しては、民法177条によって処理するのではなく、所有権の行使が権原なく妨げられた場合の、『返還請求権』(物権的請求権)で処理します。 |
3.「Eからこの土地を譲り受けたAからその移転登記の手続きの委任を受けていながら,Eから二重にこの土地を譲り受けて自己に移転登記をしたF。」 |
【正解:対抗できる】類題・平成7年 ◆他人のため登記申請する義務のある者−登記なくして対抗できる A(買主) 未登記
したがって、Aは登記がなくても、Fに対抗できます。 ▼他人のため登記を申請する義務のある者 権利者の親権者・後見人などの法定代理人、司法書士などの任意代理人、法人の代表権者、(不在者の)財産管理人など。 |
4.「AがGからこの土地を譲り受け,Aが未登記のうちに,その事情につき悪意でGから二重にこの土地を譲り受けて自己に移転登記をしたH。」 |
【正解:対抗できない】 ◆二重譲渡−登記なくして対抗できない A(買主) 未登記 二重譲渡では,背信的悪意者などを除いて、善意・悪意は関係なく、登記の先後によってその所有権を決します。(判例、177条) |