Brush Up! 権利の変動篇

不動産登記法の過去問アーカイブス 登記申請 平成14年・問15 改正対応


●メッセージ
 近年では珍しく判例や先例がなく,条文のみからの出題です。登記規則や準則も出ないというのは助かりますが,民法の代理権の消滅との混同を狙ってシッカリ落とし穴を用意しているのは相変わらずで,サスガ。

 同じテーマを扱った過去問としては,昭和57年・問16があります。

不動産登記の申請に関する次の記述のうち,誤っているものはどれか。(平成14年・問15)

1.「権利に関する登記の申請をするときは,申請人又はその代理人は必ずしも登記所に出頭しなくてもよいので,郵送により登記申請をすることができる。」

2.「委任による登記申請の代理権は,本人の死亡によって消滅する。」

3.「登記の申請は,登記権利者及び登記義務者が共同してするのが原則であるが,相続による登記は,登記権利者のみで申請することができる。」

4.「登記権利者及び登記義務者が共同して申請することを要する登記について,登記義務者が申請に協力しない場合には,登記権利者が登記義務者に対し登記手続を求める旨の判決を得れば,その登記義務者の申請は要しない。」

【正解】

×

1.「権利に関する登記の申請をするときは,申請人又はその代理人は必ずしも登記所に出頭しなくてもよいので,郵送により登記申請をすることができる。」

【正解:

◆当事者の出頭主義は廃止

 権利に関する登記の申請をするときは,申請人(登記権利者及び登記義務者)又はその代理人は,その不動産を管轄する登記所に出頭する必要はなく,指定庁での電子申請(オンラインによる申請),(指定庁・未指定庁を問わず書面申請での)郵送や使者による書面の提出での登記申請が認められています(不動産登記法・18条)

●申請の方法 
 (申請の方法)
第18条
 登記の申請は、次に掲げる方法のいずれかにより、不動産を識別するために必要な事項、申請人の氏名又は名称、登記の目的その他の登記の申請に必要な事項として政令で定める情報(以下「申請情報」という。)を登記所に提供してしなければならない。

一  法務省令で定めるところにより電子情報処理組織(登記所の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下この号において同じ。)と申請人又はその代理人の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。)を使用する方法

二  申請情報を記載した書面(法務省令で定めるところにより申請情報の全部又は一部を記録した磁気ディスクを含む。)を提出する方法

●登記した権利の順位 
 同区〔甲区と甲区,乙区と乙区〕の登記間 ⇒ 順位の番号による

 別区〔甲区と乙区〕の登記間 ⇒ 受付番号による 

電子申請については,申請情報等が登記所に到達した時(開庁日の午前8時30分から午後5時まで)に自動的に受付番号が付され,不動産所在事項の記録がされる(先例・法務省民二第457号・第2の1(1)・平成17.2.25)

●原題
1.「権利に関する登記の申請をするときは,申請人又はその代理人が登記所に出頭しなければならないので,郵送により登記申請をすることはできない。」
【正解:×】原題の出題当時は,として設定。しかし,平成16年の登記法改正により×になった。

2.「委任による登記申請の代理権は,本人の死亡によって消滅する。」

【正解:×

◆本人死後も登記申請の代理権は消滅しない

 民法では,任意代理,法定代理とも,本人死亡したときは,代理権は消滅します(111条1項1号,委任者の死亡による委任の終了は653条1号)が,登記申請の代理権では本人の死亡によっては消滅しません。

 本人が死亡したことにより登記申請の代理ができないとすると,死亡した本人の遺族や相続人によっては登記申請に協力してくれないという事態も考えられます。

 不動産登記法では,このようなことを未然に防ぐために,本人(登記の申請をする者)死亡したときでも委任による代理人の権限は消滅しないことにしています(不動産登記法・17条1号)

●代理権の不消滅 
 (代理権の不消滅)
第17条
 登記の申請をする者の委任による代理人の権限は、次に掲げる事由によっては、消滅しない。

一  本人の死亡

二  本人である法人の合併による消滅

三  本人である受託者の信託の任務終了

四  法定代理人の死亡又はその代理権の消滅若しくは変更

登記申請の代理人は,双方代理できることも,確認しておきましょう。

代理権の消滅

 任意代理,法定代理とも,代理人死亡・破産手続開始の決定・後見開始の審判を受けたとき,または本人死亡したときは,代理権は消滅します。(111条1項2号)

 ×は,代理権は消滅しない。

 ●代理権の消滅原因
    死亡       破産手続開始の決定      後見開始の審判
 本 人    任意代理 
 法定代理 ×
 ×
 代理人      

民法との混同という落とし穴には落ちたくありません。ヒマを見てある程度は不動産登記法の重要な条文を確認しておくべきでしょう。(確かに本肢の知識を書いてなかった基本書は出題当時は多かったのですが,いつまでも人のせいにはできません。)

●参考問題
1.「登記権利者たる買主は,登記義務者たる売主の代理人となって売買の対象となった不動産の所有権移転の登記を申請することができない。」(昭和54年・問13)

【正解:×

 ■買主は売主の代理人として移転登記の申請ができるか

 自己契約・双方代理は民法では禁じられていますが,例外がいくつかあります。

1 債務の単なる履行のように本人の利益を害するおそれがないもの(民法108条但書)

2 本人の許諾事前にあったとき(108条),または,事後本人の追認があったとき(判例)

登記申請双方代理を認めた判例(大審院・昭和19.2.4,最高裁・昭和43.3.8)

 本肢も,これに準じて考えると,買主が売主の代理で登記申請しても問題はないと考えられます。

3.「登記の申請は,登記権利者及び登記義務者が共同してするのが原則であるが,相続による登記は,登記権利者のみで申請することができる。」

【正解:

◆共同申請の例外・相続 (63条2項)

 登記の申請は,登記権利者及び登記義務者が共同してするのが原則です。登記法上登記官には,権利の登記では形式的な審査権しかなく,例えば所有権移転の登記申請で本当にその移転があったのか審査することはできません。そのため登記権利者だけではなく,登記義務者も申請人にすることで登記の真正を担保しようとしています。

 この共同申請の規定にはいくつか例外がありますが,本肢の相続の登記もその例外で,相続を証する情報を提供して,単独申請できます。

 相続の登記とは,被相続人の死亡で開始した相続によって,被相続人の所有に属していた不動産が相続人に承継される場合の登記のことで,この場合,登記義務者である被相続人は死んでいるため,天国から登記申請するためにこの世に一時的に戻ってもらうこともできません。そのため登記権利者である相続人の単独申請になっています(登記法・63条2項)

 判決による登記又は相続・法人の合併による権利の移転登記登記権利者のみで申請することができる。

添付情報

 添付情報   登記原因証明情報
 (相続を証する市町村長,登記官その他の公務員が職務上作成した情報
 ,または,これに代わるべき情報)

 住所証明情報 (相続人−登記名義人となる者の住所を証する情報)

4.「登記権利者及び登記義務者が共同して申請することを要する登記について,登記義務者が申請に協力しない場合には,登記権利者が登記義務者に対し登記手続を求める旨の判決を得れば,その登記義務者の申請は要しない。」

【正解:

◆共同申請の例外・判決による (63条1項)

 一定の登記をするべきことを命じる判決による登記の申請も登記権利者が単独でできます。登記を命じる判決は,『登記義務者の登記申請意思』に代わるものだからです。

 例えば,売主(登記義務者)が所有権移転登記に協力してくれないときに,買主(登記権利者)が訴えを起こして,『売主に所有権移転登記を命じる』給付判決を得れば,買主(登記権利者)は単独で所有権移転登記を申請できます。(確定判決の判決書正本を添付情報として提供する。)

 共同申請しなければならない者の一方に登記手続きをすべきことを命ずる確定判決

による登記は,当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請する

ことができる。

 しかし ,この判決は,「登記すべきことを命じた給付判決(明治33.9.24民刑1390号回答),または,裁判上の和解調書・調停調書などの,「登記すべきことを命じた給付判決に代わるもの」でなければいけないとされています。(明治33.1.17民刑1390号回答昭和29.1.6民甲2560号回答)

仮執行宣言付き判決
 仮執行宣言を付した判決により登記申請がなされても却下されます。

確認●所有権保存の登記
 所有権が自己にあることを確定判決によって証明できる者は,所有権保存の登記を単独で申請することができる。 (不動産登記法・74条1項2号)

 ここでいう確定判決とは,所有権を認めているものならば,給付判決・確認判決・形成判決のどれでもよいとされており(大審院・大正15.6.23),判決の主文だけではなく判決理由で所有権を認めているものでもよく,裁判上の和解調書・調停調書などの,「所有権を認めているものでもよいとされています。

●単独申請
 ・表示の登記

 ・所有権の保存登記

 ・登記名義人の表示の変更登記

 ・一定の要件を満たしている場合の仮登記


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