Brush Up! 権利の変動篇

賃貸借の過去問アーカイブス 平成13年・問9 敷金


は,から所有の建物を賃借し,特段の定めをすることなく,敷金として50万円をに交付した。この場合のに対する敷金返還請求権に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成13年・問9)

1.「賃貸借契約期開中でも,の返済能力に客観的な不安が生じた場合は,は,賃料支払債務と敷金返還請求権とを対当額にて相殺することができる。」

2.「敷金返還請求権は,賃貸借契約と不可分であり,は,の承諾があったとしても,これをの債権者に対して担保提供することができない。」

3.「賃貸借契約が終了した場合,建物明渡債務と敷金返還債務とは常に同時履行の関係にあり,は,敷金の支払と引換えにのみ建物を明け渡すと主張できる。」

4.「は,の,賃貸借契約終了時までの未払賃料については,敷金から控除できるが,契約終了後明渡しまでの期間の賃料相当損害額についても,敷金から控除できる。」

【正解】

× × ×

1.「賃貸借契約期開中でも,の返済能力に客観的な不安が生じた場合は,は,賃料支払債務と敷金返還請求権とを対当額にて相殺することがてきる。」

【正解:×

◆賃貸借期間中は,賃料支払債務と敷金返還請求権とを相殺することはできない

 敷金は本来,賃料未払いや建物の明渡しまでの損害金などを担保するものですから,明渡し時点ではじめて敷金のうちで返還される金額が確定します。(最高裁・昭和48.2.2)

 敷金で担保される債権の範囲は賃貸借関係から生ずる明渡し時点までのすべての債務に及ぶため,賃借人の有する敷金返還請求権は,未払賃料や明渡し時点までの賃料相当額,賃借人の保管義務違反による損害賠償金〔原状回復の費用〕を控除した残額について発生するものと考えられます。もし残額がなければ当然のことながら敷金返還請求権も発生しないことになります。

 したがって,賃貸借契約期開中では敷金返還請求権が発生していない以上,賃料支払債務と相殺することはできません。つまり本肢は×です。

2.「敷金返還請求権は,賃貸借契約と不可分であり,は,の承諾があったとしても,これをの債権者に対して担保提供することができない。」

【正解:×出題歴・平成10年問3,平成14年問5,

◆敷金返還請求権〔停止条件付債権〕も担保として提供できる

  (賃貸人) 
 |            敷金返還請求権を担保に供する
  (賃借人) ――――――――――――――――――――→ Aの債権者 

 敷金の法的な性格は,明渡し時点で賃借人に賃貸借関係から生じ得る債務不履行がないこと〔賃料の延滞・明渡し義務不履行がないこと〕を停止条件として賃貸人が返還することを約して,賃貸人が金銭を受け取るものと解されています。(判例)

 敷金契約は賃貸借契約に従たる契約ではあっても別個の契約であり,賃借人の敷金返還請求権は賃貸借とは別の独立した権利なので,金額が未確定な停止条件付債権であっても賃借人の第三者への債務の担保として質権等を設定することができます。

 したがって,本肢は×です。

3.「賃貸借契約が終了した場合,建物明渡債務と敷金返還債務とは常に同時履行の関係にあり,は,敷金の支払と引換えにのみ建物を明け渡すと主張できる。」

【正解:×

建物明渡しと敷金返還は同時履行の関係になく,建物明渡しが先

 『建物の明渡しと敷金返還とは同時履行の関係にはなく,賃借人には留置権も発生しない』というのが判例です。(最高裁・昭和49.9.2)

 その理由としては以下のことが言われています。

・敷金契約は賃貸借契約に従たる契約ではあっても別個の契約であるため,建物明渡しと敷金返還は対価的な債務関係にはない。

・建物明渡し債務と敷金返還債務には著しい価値の差があること。

 また,敷金返還請求権が建物明渡し時点までに生じた債務を控除してなお差額がある場合に発生することからも,建物の明渡しが先履行になります。

 したがって,本肢は×です。

4.「は,の,賃貸借契約終了時までの未払賃料については,敷金から控除できるが,契約終了後明渡しまでの期間の賃料相当損害額についても,敷金から控除できる。」

【正解:

◆未払い賃料のほかに明渡しまでの損害金も敷金から控除できる

 肢1で見たように,敷金で担保される債権の範囲は賃貸借関係から生ずる明渡し時点までのすべての債務に及ぶため,未払い賃料だけではなく,契約終了後明渡しまでの期間の賃料相当損害額〔賃借人の不当利得とする見方もできます〕についても,賃貸人は敷金から控除することができます。(最高裁・昭和48.2.2)


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