Brush Up! 権利の変動篇

賃貸借の過去問アーカイブス 昭和46年 転貸借


賃借物の転貸に関する次の記述のうち,誤っているものはどれか。(昭和46年)

1.「賃借物の目的物になっている不動産が転貸された場合には,賃貸人の有する不動産賃貸の先取特権は,転借人の動産に及ぶ。」

2.「賃借人が適法に賃借物を転貸したときでも,転借人は賃貸人に対して直接に義務を負うことはない。」

3.「賃借人が適法に賃借物を転貸したときは,転借人は借賃の前払いをもって賃貸人に対抗することができない。」

4.「賃借人が適法に賃借物を転貸したときでも,賃貸人は賃借人に対しその権利を行使することができる。」

【正解】

×

1.「賃借物の目的物になっている不動産が転貸された場合には,賃貸人の有する不動産賃貸の先取特権は,転借人の動産に及ぶ。」

【正解:

◆不動産賃貸の先取特権

 不動産賃貸の先取特権は,その不動産の借賃その他,賃貸借関係より生じた賃借人の債務について,賃借人の動産に上に存在します。(312条)

 転貸借の場合は,さらに転借人自身が持ち込んだ動産や転貸人の受け取る金額〔転借料など〕にも,不動産賃貸の先取特権が及びます。(314条)→出題・平成12年・問3・肢2

賃借権の譲渡のとき

 賃借権の譲渡以前に発生した元の賃借人の債務についても,新たな賃借人が自ら備えた動産譲渡人(元の賃借人)が受け取る金額にも及びます。(314条)

敷金のある場合の先取特権の特例

 賃貸人が敷金を受け取った場合は,その敷金を持って弁済を受けていない債権の部分についてのみ先取特権を有します。(316条)

借地権設定者の先取特権(借地借家法12条1項・2項)

 借地権設定者は,弁済期の到来した最後の2年分の地代等について,借地権者がその土地に所有する建物の上に先取特権を有します。〔地上権または土地の賃借権の登記によって効力を保存する。対抗要件として考えられている。〕→出題・平成3年・問12・肢4

2.「賃借人が適法に賃借物を転貸したときでも,転借人は賃貸人に対して直接に義務を負うことはない。」

【正解:×

◆転借人の義務

 適法に転貸したというのは,大雑把に言えばその転貸が賃借人の承諾を得ていることを意味します。(612条1項)→承諾は,明示・黙示を問わず,賃借人・転借人のどちらでもよく,一度承諾がなされれば撤回することができない。(最高裁・昭和31.10.5,昭和30.5.13)

 賃貸人の承諾を得て転貸借がなされたとき,転借人は,賃貸人に対して直接に義務を負います。転借人は,賃借人が払うべき賃料等の支払や明渡し義務,目的物保管義務などを負うことになります。(613条1項)

 この結果,賃貸人は,賃借人・転借人どちらにも賃料を請求することができます

 →転借人は賃借人の負担する以上の義務を負わない。転借人は転貸借契約で定められた賃料の額の範囲で賃借人の支払義務を負うだけで,次のようになります。(金額の低いほうを賃貸人に支払えばよい。)→出題・昭和62・問7・肢4

  賃貸借の賃料 > 転貸借の賃料 ・・・ 転貸借の賃料
  転貸借の賃料 > 賃貸借の賃料 ・・・ 賃貸借の賃料

3.「賃借人が適法に賃借物を転貸したときは,転借人は借賃の前払いをもって賃貸人に対抗することができない。」

【正解:

◆借賃の前払

 転借人は,転借料の支払期以降は,賃借人・転貸人のどちらか一方に賃料を支払義務を履行すればよいのですが,転借料の支払い期前に,転借料を前払いしたことをもって,賃貸人に対抗することはできません(613条1項後段,大審院・昭和7.10.8)

4.「賃借人が適法に賃借物を転貸したときでも,賃貸人は賃借人に対しその権利を行使することができる。」

【正解:

◆賃借人への権利行使

 転貸では,賃借人が賃貸借契約の法律関係から離脱したのではないため,賃借人は契約上の義務を免れることはできません。賃貸人は賃借人に対しその権利を行使することができます。


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