Brush Up! 権利の変動篇
賃貸借の過去問アーカイブス 昭和58年・問9
AはBの所有する建物を賃借した場合,民法の規定によれば,次の記述のうち誤っているものはどれか。(昭和58年・問9) |
1.「当該建物が一部毀損し修繕が必要になった場合,AがBに対し修繕を請求できるのは,毀損した時から一年以内に限られる。」 |
2.「Aが当該建物につきBの負担に属する必要費を支出したときは,Bに対し直ちにその償還を請求することができる。」 |
3.「当該建物の一部が,隣家の火事により類焼して滅失したときは,Aは,滅失した部分の割合に応じて借賃の減額を請求できる。」 |
4.「AはBの所有する建物を賃借した場合,証書作成費用,印紙代等の賃貸借契約に要する費用はAとBが平分して負担する。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | ○ | ○ |
1.「当該建物が一部毀損し修繕が必要になった場合,AがBに対し修繕を請求できるのは,毀損した時から一年以内に限られる。」 |
【正解:×】 ◆賃貸人の修繕義務 賃貸人は,賃借人に対して目的物を引き渡してその契約に応じた使用収益をさせる義務があります。(601条)そのため,賃貸人は目的物の使用収益に必要な修繕をする義務を負います。(606条1項) 賃借人は賃借人の帰責事由によらずに修繕が必要になった場合には,賃貸人に対して修繕を請求することができ,賃借人は自ら修繕して費用償還を請求することもできます。〔費用償還を賃料と相殺することも可能〕 本肢では,<毀損した時から一年以内に限られる>としていますが,修繕を請求する時期についての制限は特に定められてはいないので,×です。 |
2.「Aが当該建物につきBの負担に属する必要費を支出したときは,Bに対し直ちにその償還を請求することができる。」 |
【正解:○】 ◆必要費の償還義務 賃貸人の負担に属する必要費 (目的物の使用及び収益に必要な修繕) を賃借人が支出した場合は,不当利得に基づき,賃借人は直ちに必要費の償還請求ができます。(民法608条1項)〔この規定は任意規定なので,修繕義務を減免するなどの特約がある場合は適用されません。〕 ▼特約で賃貸人の修繕義務が免除されていない場合で,賃貸人が償還に応じてくれないときには,必要費償還請求権と賃料債権とを相殺することができます。償還されるまで留置権を行使して建物の明渡しを拒むこともできます。(ただし,留置権を行使した場合は,契約終了時から明け渡しまでの賃料債務などを免れることはできません。)
▼費用償還請求権の除斥期間〔必要費・有益費〕 賃借人が必要費を支出して直ちに償還請求をせずに賃貸借契約が終了したときはどうなるか? 賃借人の賃貸人に対する費用償還請求権〔必要費・有益費〕は,賃貸人が目的物の返還を受けたときから1年以内に請求しなければいけません。この間に行使しないと費用償還請求権は消滅します。(民法622条、600条) この行使は裁判外であってもよく,目的物の返還後一年以内にこの行使があれば,賃借人の費用償還請求権は保存され,以後10年間存続します。(大審院・昭和8.2.8) ※必要費の場合は,支出後直ちに償還請求することができるため,返還後の1年以内という除斥期間とは別に,支出の時点から消滅時効〔10年〕が進行することに注意してください。つまり,目的物の返還から1年を経過していなくても,支出時点から10年が経過していれば消滅時効が成立して必要費の償還請求ができなくなります。 |
3.「当該建物の一部が,隣家の火事により類焼して滅失したときは,Aは,滅失した部分の割合に応じて借賃の減額を請求できる。」 |
【正解:○】 ◆一部滅失による減額請求権
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4.「AはBの所有する建物を賃借した場合,証書作成費用,印紙代等の賃貸借契約に要する費用はAとBが平分して負担する。」 |
【正解:○】 ◆契約費用は双方平分して負担 特約がなければ,賃貸借契約に関する費用は当事者双方が平等に負担することになっています。(559条)これは、売買契約でその売買に関する費用(通説では、不動産売買での登記費用は含みませんが)は当事者双方が平等に負担することになっているのを準用したものです。(民法558条) |