Brush Up! 権利の変動篇

賃貸借の過去問アーカイブス 昭和59年・問8


賃貸借に関する次の記述のうち,民法の規定によれば,誤っているものはどれか。(昭和59年・問8)

1.「賃貸人は,賃貸借契約の存続中,目的物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。」

2.「賃借人が自ら目的物の使用及び収益に必要な修繕をした場合,賃貸人は,請求されればその費用を直ちに償還する義務を負う。」

3.「賃貸人が目的物の保存に必要な修繕を行おうとする場合,賃借人はこれを拒むことができない。」

4.「賃借人が適法に目的物を転貸した場合,転借人は,賃借人(転貸人)に対しては賃料支払義務を負うが,賃貸人に対しては直接その義務を負うことはない。」

【正解】

×

1.「賃貸人は,賃貸借契約の存続中,目的物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。」

【正解:

◆賃貸人の修繕義務

 賃貸人は,賃借人に対して目的物を引き渡してその契約に応じた使用収益をさせる義務があります。(601条)そのため,賃貸人は目的物の使用収益に必要な修繕をする義務を負います。(606条1項)〔この規定は任意規定なので,修繕義務を減免するなどの特約がある場合は適用されません。〕

 賃借人は賃借人の帰責事由によらずに修繕が必要になった場合には,賃貸人に対して修繕を請求することができ,賃借人は自ら修繕して費用償還を請求することもできます。(608条1項)〔費用償還を賃料と相殺することも可能〕

 賃貸人の修繕義務の不履行が継続している間,使用収益がほとんどできないときは賃借人は賃料の全額の支払を拒絶することができ,使用収益が一部できないだけにとどまるときは支障に相当する一部について支払いを拒絶することができます。

 もし賃貸人が修繕義務を全く果たさないときには,債務不履行によって,賃借人は損害賠償を請求することができますし,目的が達成できないときには解除することもできます。

2.「賃借人が自ら目的物の使用及び収益に必要な修繕をした場合,賃貸人は,請求されればその費用を直ちに償還する義務を負う。」

【正解:

◆必要費の償還義務

 賃貸人の負担に属する必要費 (目的物の使用及び収益に必要な修繕) を賃借人が支出した場合は,不当利得に基づき,賃借人は必要費の償還請求ができます。(民法608条1項)〔この規定は任意規定なので,修繕義務を減免するなどの特約がある場合は適用されません。〕

特約で賃貸人の修繕義務が免除されていない場合で、賃貸人が償還に応じてくれないときには、必要費償還請求権と賃料債権とを相殺することができます。償還されるまで留置権を行使して建物の明渡しを拒むこともできます。(ただし、留置権を行使した場合は、契約終了時から明け渡しまでの賃料債務などを免れることはできません。)

 必要費  直ちに償還。(608条1項)
 有益費  契約終了時に償還。(608条2項)
 造作買取請求権  期間の満了及び解約の申入れによって終了するとき
 (借地借家法33条1項) 

3.「賃貸人が目的物の保存に必要な修繕を行おうとする場合,賃借人はこれを拒むことができない。」

【正解:

◆修繕での賃借人の受忍義務

 目的物の保存に必要な修繕は,賃貸人の義務であると同時に,賃貸人の権利でもあり,賃借人は修繕を拒むことはできません。(民法606条2項)

 賃借人の当面の使用収益を損なわなくても,目的物の財産的な価値を保持したり,賃借人の使用収益が将来できなくなる恐れがあるものについて必要な措置をとることは賃貸人の権利として認められています。

賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとして、これによって賃借の目的が達成できないときには、賃借人は契約の解除をすることができます。(民法607条)

4.「賃借人が適法に目的物を転貸した場合,転借人は,賃借人(転貸人)に対しては賃料支払義務を負うが,賃貸人に対しては直接その義務を負うことはない。」

【正解:×

◆転借人の義務

 転貸借では,賃貸人と賃借人の賃貸借関係はそのまま存続し,それを基礎として転貸借関係が存在するという構造になります。つまり,転借人と賃貸人との間に直接契約関係が生じるわけではありません。

 しかし,民法では,賃借人が適法に転貸したときは,転借人は賃貸人に対して直接義務を負う(613条)とし,賃料の支払・目的物の保管義務・返還義務などの請求には応じなければいけません。→転借人は賃貸人への義務を負うだけで権利は持たない∴転借人は修繕の要求や費用償還の請求はできない。

 したがって,本肢は<賃貸人に対しては直接その義務を負うことはない>としているので×です。


賃貸借のトップに戻る

Brush Up! 権利の変動のトップに戻る