Brush Up! 権利の変動篇
賃貸借の過去問アーカイブス 昭和62年・問7 修繕と賃借権の譲渡・転貸
Aは自己所有の建物をBに賃貸した。この場合,民法の規定によれば,次の記述のうち誤っているものはどれか。(昭和62年・問7) |
1.「建物が老朽化してきたため,BはAの負担すべき必要費を支出して建物の修繕をした。この場合において,Bは当該賃貸借契約の終了後でなければ,修繕に要した費用の償還を請求することはできない。」 |
2.「建物が老朽化してきたため,Aは建物の保存のために必要な修繕をしたいと考えている。この場合において,BはAの修繕行為を拒むことはできない。」 |
3.「Bは建物の賃借権をAの承諾を得て第三者Cに譲渡した。この場合において,Aは賃借権の譲渡後に発生した家賃についてはBに対し請求することはできない。」 |
4.「AB間で約定された賃料は,月8万円であったが,Bは当該建物を第三者Dに月10万円で転貸し,転貸につきAの承諾も得た。この場合において,Aが直接Dに対し8万円を賃料として支払うよう請求したときは,Dはこれを拒むことはできない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | ○ | ○ |
1.「建物が老朽化してきたため,BはAの負担すべき必要費を支出して建物の修繕をした。この場合において,Bは当該賃貸借契約の終了後でなければ,修繕に要した費用の償還を請求することはできない」 |
【正解:×】 ◆必要費の償還 賃借人が賃貸人の負担すべき必要費を支出したときは直ちに賃貸人Aに対して償還を請求することができます。(民法608条1項) 本設問では「当該賃貸借契約の終了後でなければ、償還を請求することはできない」となっているため×になります。 賃貸借契約の終了後に償還請求するのは『有益費』です。
▼費用償還請求権の除斥期間〔必要費・有益費〕 賃借人が必要費を支出して直ちに償還請求をせずに賃貸借契約が終了したときはどうなるか? 賃借人の賃貸人に対する費用償還請求権〔必要費・有益費〕は,賃貸人が目的物の返還を受けたときから1年以内に請求しなければいけません。この間に行使しないと費用償還請求権は消滅します。(民法622条、600条) この行使は裁判外であってもよく,目的物の返還後一年以内にこの行使があれば,賃借人の費用償還請求権は保存され,以後10年間存続します。(大審院・昭和8.2.8) ※必要費の場合は,支出後直ちに償還請求することができるため,返還後の1年以内という除斥期間とは別に,支出の時点から消滅時効〔10年〕が進行することに注意してください。つまり,目的物の返還から1年を経過していなくても,支出時点から10年が経過していれば消滅時効が成立して必要費の償還請求ができなくなります。 |
2.「建物が老朽化してきたため,Aは建物の保存のために必要な修繕をしたいと考えている。この場合において,BはAの修繕行為を拒むことはできない」 |
【正解:○】 ◆賃借人 : 修繕での受忍義務 賃貸人には,建物を修繕する義務と権利があり(606条1項),賃貸人が建物の保存のために必要な修繕をしようとするときには,賃借人Bはこれを拒むことはできません。(606条2項) その代わり,民法は受忍義務を負う賃借人の不利益を考慮して,賃借人には,賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとして,これにより賃借した目的が達成できない場合には,賃借人に解除権を与えて,当事者のバランスを保っています。(607条) |
3.「Bは建物の賃借権をAの承諾を得て第三者Cに譲渡した。この場合において,Aは賃借権の譲渡後に発生した家賃についてはBに対し請求することはできない。」 |
【正解:○】 ◆賃借権の譲渡 A (賃貸人) 賃借権を譲渡した場合は,『賃貸人A−賃借人C』 という関係になり,Bは賃借人ではないため,譲渡した後の賃料を支払う義務はありません。したがって,AはBに対して賃借権の譲渡後に発生した家賃について請求することはできなくなります。〔賃借権の譲渡前に発生していた延滞賃料があればBは当然Aに対して延滞賃料の支払義務があります。〕 ここで注意しておきたいのは,新たに賃借人になったC(賃借権の譲受人)は,前の賃借人B(賃借権の譲渡人)が賃貸人Aとの契約中に生じたすべての法律関係を引き継ぐわけではないということです。 延滞賃料・損害賠償〔目的物の保管義務違反など〕・敷金などは,それらを承継する特約や特段の事情がなければ,BからCへの賃借人の地位の移転後も,依然として前の賃借人B(賃借権の譲渡人)と賃貸人Aとの法律関係として処理すると解されています。 |
4.「AB間で約定された賃料は、月8万円であったが,Bは当該建物を第三者Dに月10万円で転貸し,転貸につきAの承諾も得た。この場合において,Aが直接Dに対し8万円を賃料として支払うよう請求したときは,Dはこれを拒むことはできない。」 |
【正解:○】 ◆転借人 : 賃貸人から賃料を請求されたとき A (賃貸人) 賃借人Bが賃貸人Aの承諾を得てDに転貸した場合,転借人Dは賃貸人Aに対して直接義務を負うことになり(613条1項),賃貸人Aは賃借人B,転借人Dのどちらにも賃料を請求することができます。 賃貸人Aから賃料を請求されたときは,転借人Dは賃借人Bに支払う転貸の賃料の限度内で支払わなければいけません。〔転借料・賃借料のうち少ないほうを支払えばよい〕 賃貸借の賃料 > 転貸借の賃料 のとき・・・ 転貸借の賃料 転貸借の賃料 > 賃貸借の賃料 のとき・・・ 賃貸借の賃料 ▼例えば,転借人が転貸借契約の成立時に,転貸借の賃料を一括して前払いしていたとしても,その支払いを賃貸人には対抗できず,民法613条1項により,転借人は賃貸人に賃料を支払わなければいけません。(大審院・昭和7.10.8) |