Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
賃貸借に関する問題 BASE-3 修繕と有益費−費用負担
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
○ | ○ | ○ | × | × |
民法の賃貸借に関する次の記述は、民法の規定によれば○か、×か。 |
1.「賃貸人は、賃貸借契約の存続中、目的物の使用及び収益に必要な修繕をする
義務を負う。」(昭和59-8-1)
【正解:○】 賃貸人は、特約のない限り、賃借人に賃貸借の目的物を使用収益可能な状態にさせる義務を負います。そのため、賃貸人は、目的物の使用収益に必要でかつ経済的に可能である修繕義務があります。(民法606条1項) ▼両当事者の帰責事由によらずに、目的物の全部が滅失した場合は、賃貸借契約は終了し、修繕義務は生じない。 ▼一定の範囲で修繕を賃借人の義務とすることは特約としても差し支えない。(判例) ▼賃料額からみて不相当に多額の費用がかかる場合は経済的に修理不能であり、このような場合は、賃貸人は修理する義務はないとする判例もあります。(東京高裁・昭和56.2.12) |
●関連判例 |
賃貸人の修繕義務の不履行のために、目的物が使用収益できる状態に回復されない間は、賃借人は、民法533条の同時履行の抗弁権に基づき、賃料の支払いを全部または一部拒絶できる。(大審院・大正10.9.26) 使用収益が妨げられただけの場合はその割合に応じた賃料の支払いのみを拒むことができるのであって、全部の支払いを拒んだ場合は、賃借人の債務不履行として解除が認められることもある。(最高裁・昭和43.11.21) |
●参考問題 |
1.「特約のない限り、賃貸借の使用・収益に必要な修繕は、賃貸人が行う義務がある。」 |
【正解:○】昭和62-13-1 |
2.「賃貸人が目的物の保存に必要な修繕を行おうとする場合、賃借人はこれを拒む
ことができない。」(昭和59-8-3)
【正解:○】修繕での受忍義務 目的物の保存に必要な修繕は、賃貸人の義務であると同時に、賃貸人の権利でもあり、賃借人は修繕を拒むことはできません。(民法606条2項) 賃借人の当面の使用収益を損なわなくても、目的物の財産的な価値を保持したり、賃借人の使用収益が将来できなくなる恐れがあるものについて必要な措置をとることは賃貸人の権利として認められています。 ▼賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとして、これによって賃借の目的が達成できないときには、賃借人は契約の解除をすることができます。(民法607条) |
3.「賃借人が自ら目的物の使用及び収益に必要な修繕をした場合、賃貸人は、請求
されればその費用を直ちに償還する義務を負う。」(昭和59-8-2)、(類・昭和58-9-2)
【正解:○】 賃貸人の負担に属する必要費 (目的物の使用及び収益に必要な修繕) を賃借人が支出した場合は、不当利得に基づき、賃借人は必要費の償還請求ができます。(民法608条1項) ≪必要費とは?≫ 賃貸人が負担すべき、目的物の使用に必要な修繕などの費用。特約で、賃貸人の一定の修繕義務を免除して、賃借人の償還請求権を特約で排除することができる。 例・屋根の雨漏り部分を賃借人が修繕したなど。 ▼特約で、賃貸人の修繕義務が免除されている場合には、この必要費の償還請求はできません。 ▼特約で賃貸人の修繕義務が免除されていない場合で、賃貸人が償還に応じてくれないときには、必要費償還請求権と賃料債権とを相殺することができます。償還されるまで留置権を行使して建物の明渡しを拒むこともできます。(ただし、留置権を行使した場合は、契約終了時から明け渡しまでの賃料債務などを免れることはできません。)
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●関連判例 |
必要費とは、単に目的物自体の原状を維持・回復する費用に限定されず、通常の用法に適する状態に目的物を保存するために支出した費用を含む。(大審院・昭和12.11.16) |
4.「賃借人は、有益費を支出したときは、賃貸借終了の際、その価格の増加が現存する
場合に限り、自らの選択によりその費した金額又は増加額の償還を請求できる。」
【正解:×】 ≪有益費とは?≫ 賃借の目的物を改良して価値を増加させる費用。賃借人の償還請求権を特約で排除することができる。 例・汚れた壁を塗り替える、壁紙を張り替える、床のカーペットを張り替える、 賃借人が有益費を支出したときは、賃貸借終了時に、その価格の増加が現存する場合に限り、有益費全額または増加額の償還を請求できます(民法608条2項本文)が、全額もしくは現存増加額のどちらかを選択するのは賃貸人であり、賃借人ではありません。(民法196条2項での占有者とは賃借人で、回復者とは賃貸人を意味します。) この場合、裁判所は、賃貸人の請求により、相当の期限を許与することができます。(民法608条2項但書) 賃借人は、償還されるまで留置権を行使して建物の明渡しを拒むこともできます。(ただし、留置権を行使した場合は、契約終了時から明け渡しまでの賃料債務などを免れることはできません。) また、裁判所により、期限を許与されたときは、賃借人は費用償還請求権に基づく留置権は行使できません。
▼費用償還請求権の除斥期間 賃借人の賃貸人に対する費用償還請求権は、賃貸人が目的物の返還を受けたときから1年以内に請求しなければいけません。この間に行使しないと費用償還請求権は消滅します。(民法622条、600条) この行使は裁判外であってもよく,目的物の返還後一年以内にこの行使があれば,賃借人の費用償還請求権は保存され,以後10年間存続します。(大審院・昭和8.2.8) ※必要費の場合は,支出後直ちに償還請求することができるため,返還後の1年以内という除斥期間とは別に,支出の時点から消滅時効〔10年〕が進行することに注意してください。つまり,目的物の返還から1年を経過していなくても,支出時点から10年が経過していれば消滅時効が成立して必要費の償還請求ができなくなります。 |
●参考問題 |
1.「賃借人の償還請求権を特約で排除していなければ、賃貸借における賃借人の支出した有益費については目的物の返還後1年以内であれば、現存する増加額について返還請求をすることができる。」 |
【正解:○】
賃借人の必要費・有益費の償還請求権、賃貸人の賃借人に対する用法違反などによる損害賠償請求権は、賃貸人が目的物の返還を受けたときから1年以内に請求しなければいけません。(民法622条、600条) |
●関連判例 |
賃借人が有益費を支出した後に、賃貸人が交替したときは、特段の事情がない限り、新しい賃貸人が償還義務者としての地位を承継するため、賃借人は旧・賃貸人に対して有益費の償還請求はできない。(最高裁・昭和46.2.19) 当事者双方(賃借人や賃貸人)の帰責事由によらずに賃貸借の目的物が滅失したときは,有益費の償還請求の対象にはならない。(最高裁・昭和48.7.17) |
⇔ 借地借家法の「造作買取請求権」 |
「造作」とは、畳・ふすま・障子などの建具、建物に取り付けるエアコン・照明器具など取り外し可能なものをいい、賃貸借の期間満了や解約の申入れによる終了時に、時価で買取請求することができるとされています。(買取請求権を排除する特約がない場合。) ただし,買取対象になるものは,賃貸人の同意を得て建物に付加したもの,賃貸人から買い受けたものに限られます。 |
この「造作」の代金と「有益費」は別のものです。 もともと,賃貸借契約が終了したときには,賃借人には建物に付加したものを収去して原状に回復させる義務があります。〔取り外しができないもので建物の現存価格を高めるものは有益費として費用償還の対象になる。〕 しかし,取り外したところで,そのものの価値は建物と結びついてのものですから意味はなく,取り外すにしても費用や手間がかかることから賃借人が収去を望まないことのほうが多いでしょう。 借地借家法は,このように費用償還請求権の対象にならないものを,賃貸人に時価で買い取らせることによって,賃借人の投下資本の回収をさせ,かつ収去の負担を免じることにしました。〔しかし,実際のところは,特約で買取請求権を排除する場合が多い。〕 |
5.「AはBの所有する建物を賃借している。当該建物が一部毀損し修繕が必要になった
場合、AがBに対し修繕を請求できるのは、毀損した時から一年以内に限られる。」
(昭和58-9-1)
【正解:×】修繕の請求権 賃貸借の目的物の修繕義務は、特約がなければ、賃貸人にあり(民法606条1項)、賃借人は賃貸人に対して修繕を請求することができます。修繕の請求の期限については、民法では特に定められてはいません。 したがって、本設問では、「AがBに対し修繕を請求できるのは、毀損した時から一年以内に限られる」となっているため、×になります。 |