Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
建物の賃貸借に関する問題2
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
× | × | ○ | × | × |
Aは、A所有の建物を、Bから敷金を受領して、Bに賃貸したが、Bは賃料の支払いを遅滞している。なお、Bの未払賃料の額は、敷金の範囲内である。この場合、次のそれぞれの記述は、民法の規定及び判例によれば○か、×か。(1-4 : 平成6年・問10) |
1.「Bは、Aに対し、未払賃料について敷金からの充当を主張することができる。」
【正解:×】 敷金(敷金の性格を有する保証金も同じ)は、別段の合意がない限り、賃貸借が完了し、賃借人が建物の明渡しを完了したときに賃貸人の敷金返還義務が生じます。 判例によれば、賃借人(B)が賃料の支払いを怠ったとき、賃貸人(A)からは敷金を賃料の支払いに充当できますが、充当するかどうかは賃貸人が決めることで、敷金を差し入れた側の賃借人からは、敷金を賃料に充当することを主張することはできません。 つまり敷金とは、賃貸借契約が終了し、建物を明渡したときにおいて、未払賃料、原状回復費用(通常の損耗によるものを除く)、その他賃借人が負担すべき金銭債務があったとき、それらを担保すべき性質のものと考えられ、敷金からそれらを控除したときに残額があれば、その残額を返還することになっています。したがって賃貸借契約期間中に賃借人側から支払うべき賃料を支払わずに、「その敷金から充当してくれ」とは主張できないということです。 |
●類題 | ||||||
1.「敷金によって担保される債権は、賃貸借期間中の賃料債権や損害賠償請求権のみに限られる。」 | ||||||
【正解:×】
賃貸借期間中だけでなく、賃貸借の終了時〜明渡しの完了時点までの「損害賠償請求権」まで含みます。(最高裁・昭和48.2.2)
|
2.「Bの債権者Cが敷金返還請求権を差し押さえたときは、Aは、その範囲で、Bの未払賃
料の弁済を敷金から受けることができなくなる。」
【正解:×】 A (賃貸人) 設問1でも解説しましたが、敷金は賃借人の賃貸人に対する未払賃料等の債務の担保として差し入れられる性質のものです。 判例によれば、第三者(C)がその敷金返還請求権を差し押さえても、未払賃料があれば、債権者たる賃貸人(A)はその敷金より優先弁済を受ける権利があります。(民法619条2項) したがって、本設問は×になります。 → 未払賃料があれば、敷金返還請求権が差し押さえられても、債権者たる賃貸人(A)はその敷金より優先弁済を受ける権利がある。 |
3.「AがDに建物を譲渡し、Dが賃貸人となった場合、Aに差し入れていた敷金は、Bの未
払い賃料を控除した残額について、権利義務関係がDに承継される。」
【正解:○】 A (前・賃貸人)―――→ D (新・賃貸人) 判例によれば、賃貸借存続期間中に目的不動産の「所有権」が移転し、新所有者(D)が賃貸人の承継(受け継ぎ)したとき、未払い賃料があれば敷金から差し引かれ、前の賃貸人(A)に差し入れられた敷金に残額があれば、それについての権利義務は新賃貸人(D)に承継されます。(最高裁・昭和44.7.17) →なお、「賃借権」の移転の場合は、次の設問4のようになるので注意してください。
→ 敷金の残額の権利義務は、新所有者(D)に承継される。 |
4.「Bが未払賃料を支払って、Aの承諾を得て賃借権をEに譲渡した場合、BがEに敷金返
還請求権を譲渡する等しなくても、敷金に関する権利義務関係は、Eに承継される。」
【正解:×】 A (賃貸人) 判例によれば、賃貸人の承諾を得て「賃借権」が旧賃借人(B)から新賃借人(E)に移転された場合であっても、敷金に関する権利義務関係は、新賃借人に敷金返還請求権を譲渡する契約等の特段の事情がない限り、いまだに敷金交付者(B)と賃貸人(A)との間の関係であって、新賃借人(E)に自動的に承継されるものではない、とされています。
→ 敷金返還請求権は、当然には新賃借人(E)には承継されない。 |
5.「賃貸借終了の際の賃借人の目的物返還義務と、賃貸人の敷金返還義務とは、
同時履行の関係に立つ。」
【正解:×】 敷金によって担保される債権には、設問1の類題で見たように、賃貸借終了の時から明渡しの完了時点までの損害賠償責任も含まれます。時系列でいうと次のようになります。 賃貸借終了 → 明渡し → 敷金返還 賃借人の「敷金返還請求権」は、建物の明渡し完了時点までに生じた債権を控除して残額があればその残額につき発生します。 つまり、借家人の家屋明渡し義務が先の履行になるため、賃借人の目的物返還義務と、賃貸人の敷金返還義務とは、同時履行の関係には立ちません。(最高裁・昭和49.9.2) したがって、賃借人は、賃貸人の明渡し請求に対して、敷金の返還と引き換えでなければ、当該建物を明渡さないと抗弁することはできません。 |