Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
相殺に関する問題1 平成7年・問8
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | ○ | ○ |
AがBに対して100万円の金銭債権,BがAに対して100万円の同種の債権を有する場合の相殺(AB間に特約はないものとする)に関し,次のそれぞれの記述は,民法の規定及び判例によれば○か,×か。(平成7年・問8) |
●問題文設定 |
「AB間に特約はないものとする」の意味
当事者が相殺しない旨の合意(特約)をしていた場合には相殺できません。(505条2項) 相殺は、債権者と債務者が互いに同種の債権・債務を有している場合に、相手方の意向には関係なく(相手方の承諾を必要とせずに)、対当額において債権と債務を意思表示によって消滅させる制度です。 このように、相殺〔法定相殺〕は、債務者の一方的な意思表示により行われる単独行為であるため、特約によって、その相殺ができないようにあらかじめ封じておく場合があります。 もっとも、この相殺禁止の特約は、これを知らない善意の第三者には対抗することができないとされています。(例:相殺禁止の特約を知らずに債権譲渡を受けた者) |
1.「Aの債権が時効によって消滅した後でも,時効完成前にBの債権と相殺適状に
あれば,Aは,Bに対して相殺をすることができる。」
【正解:○】昭和58年・問8・肢4,62年・問10・肢2,平成7年・問8・肢1,16年・問8・肢3 時効によって消滅した債権が、時効の完成前に相殺適状であったとき、債権者は相殺をすることができます(民法第508条)。 つまり、対立する両債権が相殺に適している状態であったにもかかわらず、消滅する債権の所有者が気づかずに成立したときであっても、当事者間の信頼関係(取引の慣行)を保護する趣旨から、時効消滅の例外規定として、相殺することができます。 もし、相殺適状できないとすると、AはBへの債権が消滅した後、一方的にBに対する債務を弁済することになり、片手落ちになります。 |
●相殺の意思表示をする前提 |
相殺は、一方的な意思表示で自働債権の履行を強制することと同じであることから、原則として、少なくとも自働債権の弁済期が到来していることが必要になります。 |
2.「Aの債権について弁済期の定めがなく,Aから履行の請求がないときは,Bは,
Bの債権の弁済期が到来しても,相殺をすることができない。」(関連:昭和62)
【正解:×】 判例によれば、「弁済期の定めのない債権は、常に弁済期にあるものであり、これを受働債権(相手に取られる債権)とし、弁済期の到来している自働債権(自分が受け取る債権)で相殺することができる」とされ、相殺できます(第505条)。(判例は、大審院・昭8.9.8) つまり、弁済期の定めのない債権(例えば「いつでもいいから払ってね」など)とは、受け取った時点から弁済期であり、すでに弁済期の到来している債権と、弁済期の定めのない債権をもって相殺することができる、ということです。 |
3.「Aの債権が,Bの不法行為によって発生したものであるときには,Bは,
Bの債権をもって相殺をすることができない。」
【正解:○】平成7年・問8・肢3,16年・問8・肢2, 例えば、BがAに貸している10万円を、Aがなかなか弁済をしてくれないため、アタマにきたBが、故意にAの乗用車に損害額10万円相当のキズを付け(不法行為)ても、Bはそのその損害賠償義務をもって先の貸金と相殺(チャラ)することはできないということで、不法行為の誘発の防止のほか、不法行為者に現実の弁済をなさしめる趣旨の規定であると考えられています。 逆にいえば、債務が不法行為をもって生じたときは、その債務者は、それをもって債権者に対抗することはできません(第509条)。 ムツカシク言うと、「不法行為に基づく債権を受働債権として相殺することはできない」 ≪参考≫ この場合は、Aからのみ、相殺できます。 |
4.「CがAの債権を差し押さえた後,BがAに対する債権を取得したときは,Bは,
Aへの債権との相殺をもってCに対抗することはできない。」
【正解:○】
← C(差押債権者) これは意味を把握するのがなかなか難しい問題です。必ず相関図を書いて解答を導くように習慣付けましょう。 差し押さえによって支払いを差し止められた(第481条)場合には、その後に取得した反対債権をもって相殺しても、差押債権者を害することになり、差押制度の実効性が失われるため、BはAの債権と相殺をすることはできず、したがってBは相殺による債務の消滅を主張することはできません。(第511条)。 AB間だけをみると一見相殺できるように見えますが、CによってAの債権は差し押さえられているので、BはAに支払うことを差し止められています。もしBが相殺できるとすると、CはAの債権を差し押さえることによってCの債権を回収しようとする意図が意味をなさず、Cが保護されません。また、Bは、Aの債権が差し押さえられた後にAに対する債権を取得しているので、相殺されないことをBは事前に知っていることになります。
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●参考問題 |
1.「抵当不動産の第三取得者は、自己の抵当権者に対する債権をもって抵当権者が債務者に対してもっている債権と相殺することはできない。」 |
【正解:○】
抵当権者A(債権者) → 債務者B ↑ 抵当不動産の第三取得者C 抵当権のついた不動産を取得したCは、Bのために第三者弁済するに際して、自らがAに対して有している債権をもって、抵当権者が債務者に対してもっている債権と相殺することはできません。(大審院・昭和8.12.5) ▼第三者の弁済では、第三者は、自己が債権者に対して有している債権を自働債権として、債権者の債務者に対する債権と相殺することはできません。→弁済 |
●差押について |
← C(差押債権者) 差押は、差押債権者Cが裁判所に債権執行の差押命令の申立をして、裁判所は適法かどうか審査して、差押命令をA、Bに送達します。(民事執行法・145条・3項) 差押命令が発せられると、差押の効力として、その債権の処分は禁止され、債権者Aは債務者Bからの弁済を受領する権限はなくなります。(債権の譲渡や免除もできなくなります。) もし、差し押さえられた債権に抵当権などの担保がついていれば、担保権も差し押さえられます。 また、債務者Bも債権者Aへの弁済を禁じられます。 ▼差押の効力は、差押命令がBに送達された時に生じます。(民事執行法・145条・4項) |