Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
贈与の問題1 平成3年・問10
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | ○ | × |
AのBに対する土地の贈与(何らの負担もないものとする。)に関する次の記述は,民法の規定及び判例によれば,誤っているものはどれか。(平成3年・問10) |
1.「その贈与が書面によらないものであっても,Bにその土地の所有権移転登記が
なされたときは,Aは,その贈与を撤回することができない。」(関連:平成10)
【正解:○】 ◆書面によらない贈与 書面によらない贈与契約は、各当事者は、原則として撤回することができます。しかし、履行の終わった部分については撤回することはできません。履行が終わっているならば、贈与の意思がはっきりとして贈与が軽率に行われたものではないことを意味するからです。(民法550条) 不動産の場合は、不動産の登記または引渡し(現実の引渡しではなく簡易の引渡しでもよいとされる)があれば、履行が終了したものとみなされます。(判例) ▼贈与契約での「撤回」は、制限能力・詐欺・強迫の取り消しや解除とは違います。 ・行為能力の制限・詐欺・強迫の取り消し⇒「意思表示の効果を遡及的に消滅させる」もの 贈与契約の撤回 ⇒ 「当事者が将来に向かって契約の効力を消滅させる」もの ・時効、除斥期間によって消滅しない。(判例) ・撤回の効果は、第三者に対抗することができる。解除は第三者の権利を害することができないという解除の545条1項但書の規定は適用されない。 ▼この撤回の規定は、書面による贈与契約にのみ法的な拘束力を与えて、贈与者の軽率な行為を防止して将来の紛争を避ける趣旨です。 |
●類題 |
1.「すでに登記のある建物をAがBに口頭によって贈与した場合に、AがBに対し建物を引き渡したときであっても、所有権移転登記をするまでの間は、贈与を撤回することができる。」(司法書士・平成5-11-1) |
【正解:×】
書面によらない贈与であっても、履行の終わった部分については撤回することができないとされており、不動産が贈与の目的物の場合は、引渡しまたは所有権移転登記があれば履行は終わったものとみなすことができます。 本設問の場合は所有権移転登記はなされていなくても、すでに引渡しが済んでおり、履行が終わっていると言えます。 したがって、本設問の場合は贈与を撤回することはできません。 |
●贈与での取り消しのまとめ | ||
書面による贈与 | (原則として) 撤回不可 | |
書面によらない贈与 | 履行終了後 | (原則として) 撤回不可 |
履行終了前 | 撤回可能 |
2.「その贈与が書面によるか否かを問わず,その土地に瑕疵があっても,Aは,
そのことを知らなかったときは,Bに対して瑕疵の責任を負わない。」(類:平成7)
【正解:○】 ◆担保責任は原則として負わない 贈与契約(負担なし)では、一方の当事者(贈与者)が自己の財産を無償で相手方(受贈者)に与える意思を表明して、相手方が受諾することによって成立する、無償・片務契約です。 このため、売買契約などとは異なり、贈与する物や権利の瑕疵または欠陥について、担保責任も原則として負いません。ただし、目的物や権利の瑕疵や欠陥について知っているのに受贈者に告げなかった場合にのみ、責任を負うとされています。(551条1項) |
3.「その贈与が書面による死因贈与であっても,Aは,後にその土地を第三者に
遺贈することができる。」
【正解:○】 ◆死因贈与は、後の遺贈によって撤回される 死因贈与は、遺贈に関する規定に従うことになっています。(民法554条) 本設問のように、先に死因贈与の契約があり、次に遺贈がある場合は、
この規定が準用され、本設問では、遺贈が時間的に後になっているので、死因贈与は撤回されたものとみなすことができます。 死因贈与 遺贈 ―――●―――――●―――
▼単独行為・・・相手方の意向には関係なく、承諾を必要とせずに、一方的な意思表示により、行うことができる法律行為。法律行為には、単独行為、契約、合同行為の三つの類型がある。 |
4.「その贈与が書面による死因贈与であったときは,Aは,後に遺言によりその贈与を
撤回することができない。」(類:平成10)
【正解:×】 ◆死因贈与を後から遺言で撤回することができる 上で見たように、書面による死因贈与を、遺言により後で撤回することができます。 死因贈与 遺言で撤回する ―――●―――――●――― |
●書面による贈与 | |
最高裁の判例では、書面による贈与の「書面」について、ゆるやかに解釈して次のように解しています。
したがって、「書面」といっても必ずしも「公正証書」のようなものが要求されているわけではないことになります。 |