Brush Up! 権利の変動篇
物権変動の過去問アーカイブス 物権変動の対抗要件 平成16年・問3
不法占有(不法占拠者)・賃借人・共有者・元の所有者(前主)
Aは,自己所有の建物をBに売却したが,Bはまだ所有権移転登記を行っていない。この場合,民法の規定及び判例によれば,次の記述のうち誤っているものはどれか。(平成16年・問3) |
1.「Cが何らの権原なくこの建物を不法占有している場合,Bは,Cに対し,この建物の所有権を対抗でき,明渡しを請求できる。」 |
2.「DがAからこの建物を賃借し,引渡しを受けて適法に占有している場合,Bは,Dに対し,この建物の所有権を対抗でき,賃貸人たる地位を主張できる。」 |
3.「この建物がAとEとの持分1/2ずつの共有であり,Aが自己の持分をBに売却した場合,Bは,Eに対し,この建物の持分の取得を対抗できない。」 |
4.「Aはこの建物をFから買い受け,FからAに対する所有権移転登記がまだ行われていない場合,Bは,Fに対し,この建物の所有権を対抗できる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | ○ | ○ |
●登記がなければ対抗することができない第三者 | ||||
・物権変動の当事者及びその包括承継人〔相続人等〕以外の者であること。 ・登記がないことを主張することについて正当な利益を有する者であること。 この2つとも該当する者に対しては,登記がなければ対抗することができません。
|
1.「Cが何らの権原なくこの建物を不法占有している場合,Bは,Cに対し,この建物の所有権を対抗でき,明渡しを請求できる。」 |
【正解:○】昭和61年・問7・肢2,平成10年・問1・肢3,【関連】平成3年・問4・肢4, ◆不法占拠者−登記なくして対抗できる A(売主)―B(買主) 未登記 無権原で建物を不法占有しているCは,「Bに登記がないことを主張するについて正当の利益を有する第三者」ではありません。(最高裁・昭和25.12.19) したがって,Bは,登記がなくても自らの所有権に基づいて建物の返還請求権を有し,Cに対して,建物の明渡しの請求をすることができます。 ▼不法占有者Cとはどのような人か? |
●参考問題 |
1.「XがYから甲土地を買い受けたが,その所有権移転登記を受けていない事例において,ZがYに対する貸金債権の回収のためといって,甲土地を正当な権原なくして占有している場合,Xは登記なくしてZに対抗できる。」(司法書士・平成2年・問2・イ)改 |
【正解:○】 Y(売主)―X(買主) 未登記 Zは甲土地を正当な権原なくして占有しているので,貸金債権の回収のためといっても,不法占拠者です。Xは登記なくしてZに対抗できます。 |
2.「XがYから甲土地を買い受けたが,その所有権移転登記を受けていない事例において,ZがYに対する貸金債権に基づき,甲土地を差し押さえ,その登記をした場合,Xは登記なくしてZに対抗できる。」(司法書士・平成2年・問2・エ)改 |
【正解:×】 Y(売主)―X(買主) 未登記 差押債権者Zは,「Xに登記がないことを主張するについて正当の利益を有する者」なので,Xは登記なくして差押債権者Zに対抗できません。(最高裁・昭和39.3.6)したがって本肢は誤りです。 |
2.「DがAからこの建物を賃借し,引渡しを受けて適法に占有している場合,Bは,Dに対し,この建物の所有権を対抗でき,賃貸人たる地位を主張できる。」 |
【正解:×】昭和58年・問14・肢2,63年・問12・肢4,平成元年・問13・肢1,【賃借権の登記】2年・問13・肢1,【転貸】平成12・問12・肢1,⇔cf.【使用貸借】平成9年・問8・肢1 ◆対抗要件を備えた賃借人−登記がなければ対抗できない B(買主) 未登記 売買目的の不動産に対抗要件〔建物では引渡し・賃借権の登記,土地では借地上の建物の所有権の登記または表示の登記・借地権の登記〕を具備した賃借人がいる場合,その賃借人は賃借権をもって新しい所有者に対抗することができます。(借地借家法・31条1項,同10条,民法605条) 対抗要件を備えた賃借人も「新しい所有者Bに登記がないことを主張するについて正当の利益を有する第三者」になります。 したがって,所有権移転登記をまだ行っていないBは,建物の所有権を主張できず,またこの建物の賃貸人の地位も主張することができません。(最高裁・昭和49.3.19等) ▼本肢でのDがAの承諾を得て転貸し,転借人に既に引き渡していた場合も,Dは,建物の新所有者(買主)Bに対抗することができます。(出題:平成12・問12・肢1) |
●参考問題 |
1.「Aは,BからB所有の建物を賃借して,居住しているが,Bがその建物をCに売却し,登記も移転した。Aは,建物の引渡しを受けているから,Cに借家権を対抗することができるが,建物の引渡しを受けていないときは,常にCに対抗することができない。」(宅建・平成2年・問13・肢1) |
【正解:×】 C(買主) 所有権移転登記 Aは,建物の引渡しを受けていなくても,賃借権の登記を得ていれば,Cに対抗できるので,<建物の引渡しを受けていないときは,常にCに対抗することができない>とする本肢は誤りになる。 |
2.「Aが,B所有の建物を賃借している場合において,Aが,建物に自ら居住せず,Bの承諾を得て第三者に転貸し,居住させているときは,Aは,Bからその建物を買い受けた者Cに対し,賃借権を対抗することができない。」(宅建・平成12年・問12・肢1) |
【正解:×】 (本問題では,Cが所有権移転登記を得ているかどうかについては書いてありませんが,Cが登記を得ていることを前提として説明します。) Aは,自ら建物に居住していなくても,Bの承諾を得て第三者に転貸し居住させているので,第三者を介しての間接占有となり,Cに対抗できます。 |
●参考●借地権者と借地の譲受人との対抗関係の出題 |
平成7年・問7・肢3,8年・問3・肢4,8年・問13・肢2,10年・問1・肢1,11年・問13, |
3.「この建物がAとEとの持分1/2ずつの共有であり,Aが自己の持分をBに売却した場合,Bは,Eに対し,この建物の持分の取得を対抗できない。」 |
【正解:○】初出題 ◆ほかの共有者−登記がなければ対抗できない ┌A(持分1/2,売主)――B(買主) 未登記 共有では,各共有者は,ほかの共有者の同意を得ることなく,自由に,自己の持分を処分すること〔売却,抵当権の設定等〕ができます。(民法206条) しかし,判例では,譲渡人以外のほかの共有者は,「持分の譲受人に登記がないことを主張するについて正当の利益を有する第三者」になるとし,Aの持分を譲り受けたBは,譲渡人A以外の共有者Eに対して,登記がなければ対抗することはできないとしています。(最高裁・昭和46.6.18) |
4.「Aはこの建物をFから買い受け,FからAに対する所有権移転登記がまだ行われていない場合,Bは,Fに対し,この建物の所有権を対抗できる。」 |
【正解:○】【関連出題】平成8年・問3・肢1,平成7年・問5・肢3 ◆前主−登記なくして対抗できる F(Aの前主,登記上の名義人)――A(売主) 未登記――B(買主) 未登記 この建物の所有権は,F→A→Bと移転しているので,FはAの前の所有者〔前主〕としてBとは対抗関係にはなく,当事者に準じる立場にあります。つまり,Fは,「Bに登記がないことを主張するについて正当の利益を有する第三者」ではありません。(最高裁・昭和41.11.29等) したがって,Bは,登記がなくても,Fに対して,この建物の所有権を対抗することができます。 ▼前主と後主
|
●参考問題 |
1.「XがYから甲土地を買い受けたが,その所有権移転登記を受けていない事例において,ZがYに甲土地を売り渡したが,いまだに登記名義を有している場合,Xは登記なくしてZに対抗できる。」(司法書士・平成2年・問2・オ)改 |
【正解:○】 Z(Yの前主,登記上の名義人)――Y(売主) 未登記――X(買主) 未登記 平成16年・問3・肢4のソックリ問題です。この司法書士の問題をモデルにしたと思われます。 |
2.「Aの所有する土地について,AB間で,代金全額が支払われたときに所有権がAからBに移転する旨を約定して売買契約が締結された。AからBへの所有権移転登記が完了していない場合は,BがAに代金全額を支払った後であっても,契約の定めにかかわらず,Bは,Aに対して所有権移転を主張することはできない。」(宅建・平成8年・問3・肢1) |
【正解:×】 A(売主,登記上の名義人)――B(買主) 未登記 AB間で,代金全額が支払われたときに所有権がAからBに移転する旨を約定して売買契約が締結されているので,BがAに代金全額を支払ったときに,当該土地の所有権はBに移転している。したがって,Bは登記がなくても,Aに対して所有権移転を主張できる。Aは当該売買契約の当事者なので,「Bに登記がないことを主張するについて正当の利益を有する第三者」ではない。 |
●予想問題 |
1.「売買による不動産の取得者は,これを登記しなければ第三者に対抗できず,また第三者側からも登記のない取得者を権利者と認めることができない。」 |
【正解:×】『不動産について権利を得た者は登記がなければ第三者に対抗できない』というのは,第三者の利益を保護するための規定なので,第三者の側から登記のない権利取得者に対してその権利取得を認めても差し支えない。(大審院・明治39.10.10) |