Brush Up! 権利の変動篇

解除・物権変動の過去問アーカイブス 平成16年・問9 解除と第三者

権利保護要件と対抗要件


に甲建物を売却し,からに対する所有権移転登記がなされた。AB間の売買契約の解除と第三者との関係に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成16年・問9)

1.「の債権者との間で甲建物につき抵当権設定契約を締結し,その設定登記をした後,AB間の売買契約を適法に解除した場合,はその抵当権の消滅をに主張できない。」

2.「が甲建物をに賃貸し引渡しも終えた後,AB間の売買契約を適法に解除した場合,はこの賃借権の消滅をに主張できる。」

3.「の債権者との間で甲建物につき抵当権設定契約を締結したが,その設定登記をする前に,AB間の売買契約を適法に解除し,その旨をに通知した場合,BE間の抵当権設定契約は無効となり,の抵当権は消滅する。」

4.「AB間の売買契約を適法に解除したが,からに対する甲建物の所有権移転登記を抹消する前に,が甲建物をに賃貸し引渡しも終えた場合,は,適法な解除後に設定されたこの賃借権の消滅をに主張できる。」

【正解】

× × ×

●権利保護要件
 解除によって,当事者以外の (解除前の) 第三者の権利を害することはできない。(545条1項但書)

 契約が解除されると,当該契約の締結時に遡って契約は消滅し,はじめから存在しなかったのと同じになります。(判例・通説)解除権の行使によって,各当事者は相手方を原状に回復させる義務を負いますが,解除の前後で第三者が利害関係を持つことがあり,その処理をどうするかということが問題になります。判例・通説では,次のようになっています。

 解除前の第三者  解除後の第三者
 民法545条1項によって第三者が保護されるには
 以下の権利保護要件が必要。(545条1項,判例)

 登記 (転得者,抵当権者,借地権者等の場合)
 引渡し (建物の賃借人の場合)

 解除権者と第三者は対抗関係にあるので,
 第三者は以下の対抗要件を具備しないと,
 解除権者に対抗できない。(177条)

 登記 (転得者,抵当権者,借地権者等の場合)
 引渡し (建物の賃借人の場合)

 第三者の善意・悪意は問わないことに注意。

賃貸借,雇用,委任,組合契約では,解除の効果は遡及しない(620条,630条,652条,684条)
※解除権も解除する事由が発生したときから10年の消滅時効にかかる。(判例)

契約の解除は必ずしも債務不履行によるとは限らない。例えば,「担保責任による解除」,「手付による解除」(557条),「請負での注文者の解除」(641条),「委任での各当事者からの解除」(651条)など。

1.「の債権者との間で甲建物につき抵当権設定契約を締結し,その設定登記をした後,AB間の売買契約を適法に解除した場合,はその抵当権の消滅をに主張できない。」

【正解:第三者=所有権の場合 平成3年・問4・肢2,

◆解除前の第三者−抵当権者

              ┌  (抵当権を設定) 抵当権設定登記
    (売主) ――  (買主) 

  Bに         を抵当権者とする
  所有権移転登記    抵当権設定登記      が売買契約を解除

 ―――――――――――――――――――――――――

 抵当権者は,が解除する前に現れた第三者なので,が保護されるには,権利保護要件として,を抵当権者とする抵当権設定登記が必要です。(民法545条1項但書,判例) 

 本肢では,を抵当権者とする抵当権設定登記がされているので,はその建物に抵当権が設定されていることをに主張することができます。この結果,はその抵当権の消滅をに主張することはできません。

 このことにより,は解除してもに返還されるのは『の抵当権がついている建物』ということになります。

2.「が甲建物をに賃貸し引渡しも終えた後,AB間の売買契約を適法に解除した場合,はこの賃借権の消滅をに主張できる。」

【正解:×

◆解除前の第三者−賃借人              

    (売主) ――  (買主,賃貸人) 
              
              
 (賃借人) 引渡し

  Bに         が賃借権を取得,
  所有権移転登記    甲建物の引渡し      が売買契約を解除

 ―――――――――――――――――――――――――

 賃借人は,が解除する前に現れた第三者なので,が保護されるには,権利保護要件として,建物の引渡しを受けていなければなりません。(民法545条1項但書,判例) 

 本肢では,は既に建物の引渡しを受けているので,はその建物についての自己の賃借権をに主張することができます。その結果,はその賃借権の消滅をに主張することはできません。したがって,本肢は誤りです。

 このことにより,は解除してもに返還されるのは『の賃借権がついている建物』ということになります。

3.「の債権者との間で甲建物につき抵当権設定契約を締結したが,その設定登記をする前に,AB間の売買契約を適法に解除し,その旨をに通知した場合,BE間の抵当権設定契約は無効となり,の抵当権は消滅する。」

【正解:×

◆解除前の第三者
 は,に対しては自己の権利を主張できないが,抵当権の設定自体は無効ではない

              ┌  (抵当権を設定) 
    (売主) ――  (買主) 
          

  Bに         が抵当権設定契約,
  所有権移転登記    を締結したが,未登記      が売買契約を解除

 ――――――――――――――――――――――――――

 本肢の場合,は解除前の第三者に該当しますが,抵当権設定登記をしていないので権利保護要件を満たしていません。そのため,は建物に抵当権が設定されていることをに対して主張することはできません。⇒ Aに返還されるのは抵当権のついていない建物になる。

 しかし,「を抵当権設定者とする抵当権が設定されたこと」と「が抵当権をに対して主張できるかどうかということ」は別次元の問題であり,が抵当権をに対して主張できないからといって,を抵当権設定者とする抵当権の設定が無効になるわけではありません。

 したがって,<BE間の抵当権設定契約は無効となり,の抵当権は消滅する。>とする本肢は誤りです。〔本肢では,「通知した場合」となっていますが,通知の有無は関係ありません。〕

4.「AB間の売買契約を適法に解除したが,からに対する甲建物の所有権移転登記を抹消する前に,が甲建物をに賃貸し引渡しも終えた場合,は,適法な解除後に設定されたこの賃借権の消滅をに主張できる。」

【正解:×

◆解除後の第三者

   (売主) ――  (買主,賃貸人) 
         解除 
             
 (賃借人) 引渡し

  Bに                        が賃借権を取得,
  所有権移転登記    が売買契約を解除   甲建物の引渡し      

 ―――――――――――――――――――――――――

 は,が解除した後に現れた第三者なので,は対抗関係に立ち,どちらが対抗要件を先に具備したかで優劣が決まります。(民法177条,判例) 
     <対抗要件 : は所有権移転登記,は建物の引渡し>

 本肢では,は既に建物の引渡しを受けているので,は自己の賃借権についてのへの対抗要件を満たしています。その結果,はその賃借権の消滅をに主張することはできません。したがって,本肢は誤りです。

●参考問題
1.「の所有地がからからへと売り渡され,名義の所有権移転登記がなされた後でも,の債務不履行に基づきAD間の売買契約を解除した場合,は,その所有権をに対抗することができる。」(宅建・平成3年・問4・肢2)

【正解:×

◆解除前の第三者

  (売主) ――  (買主) 
            |売却
           E (転得者) 所有権移転登記

  に         に売却し,
  の所有地が売却    所有権移転登記      AD間の売買契約を解除

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 は,が解除する前に現れた第三者なので,が保護されるには,権利保護要件として,への所有権移転登記が必要です。(民法545条1項但書,判例) 

 本肢では,への所有権移転登記がされているので,はその建物についての自己の所有権をに主張することができます。その結果,AD間の売買契約の解除によって自己の権利をに主張することはできません。

 このことにより,は解除しても土地はには返還されませんが,に対しこのことについての損害賠償を請求することができます。


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