Brush Up! 権利の変動篇
契約の過去問アーカイブス 組合契約 (平成16年・問11)
AはBと,それぞれ1,000万円ずつ出資して,共同で事業を営むことを目的として民法上の組合契約を締結した。この場合,民法の規定によれば,正しいものはどれか。 (平成16年・問11) |
1.「AとBは,出資の価額が均等なので,損益分配の割合も均等に定めなければならない。」 |
2.「組合への出資金で不動産を購入し組合財産とした場合,この組合財産は総組合員の共有に属する。」 |
3.「組合財産たる建物の賃借人は,組合に対する賃料支払債務と,組合員たるAに対する債権とを相殺することができる。」 |
4.「組合に対し貸付金債権を取得した債権者は,組合財産につき権利行使できるが,組合員個人の財産に対しては権利行使できない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | × | × |
●組合契約 |
組合契約とは,2人以上の当事者が,相互に出資 (金銭・動産・不動産,労務,信用の提供) をして,共同の事業を営むことを約束することによって成立する契約です。(民法667条〜688条) 組合というと,消費生活組合(生協),農協,労働組合が思い浮かびますが,これらは特別法で法人格を与えられた組合であり,本問題での民法上の組合 (任意組合) とは区別されます。 民法上の組合とは,複数の人が契約として結合したものに過ぎないので団体性は弱く,法人のように権利能力が認められているわけではありません。 民法上の組合は,大雑把に言えば,建設工事などを複数のゼネコンが共同して請け負う「ジョイント・ベンチャー」(JV,共同事業体)などを思い浮かべればよいでしょう。 これまで組合契約は出題されていませんでしたが,今後は「法人」,「権利能力なき社団」などとの違いも見ておく必要があるかもしれません。 組合契約が出題された平成16年は担保物権等の民法の規定が改正された年でした。改正された抵当権などが出題されず,替わりに組合契約が出題された事実は,宅建試験の歴史で永く語り継がれることでしょう。 |
1.「AとBは,出資の価額が均等なので,損益分配の割合も均等に定めなければならない。」 |
【正解:×】 ◆損益分配の割合 組合の事業により損益が生じた場合,損益分配の割合を定めなかったときには,出資価額の割合により分配され(民法674条1項),組合契約 (規約) で損益分配について定めがあるときにはそれに従います。 損益分配を定める際に,<組合員の出資価額の割合に応じて損益分配を定めなければならない>という規定は民法上はないので,本肢は誤りです。 ▼組合契約の中で,特定の者が損失を分担しないと決めておくこともできます。(大審院,明治44.12.26) |
2.「組合への出資金で不動産を購入し組合財産とした場合,この組合財産は総組合員の共有に属する。」 |
【正解:○】 ◆共有 各組合員の出資その他の組合財産は,総組合員の共有に属します(民法668条)。 ▼組合契約での共有は,物権での「共有」(民法249条〜264条)とは異なる『合有』とされています。〔組合契約が終了する前には分割を請求することはできず(民法676条2項),持分を処分しても組合や第三者に対抗することができない(民法676条1項)という点で,異なるとされています。〕 |
3.「組合財産たる建物の賃借人は,組合に対する賃料支払債務と,組合員たるAに対する債権とを相殺することができる。」 |
【正解:×】 ◆組合の債務者による相殺の禁止 組合の権利は各組合員が共有し,組合が持つ債権は組合が行使するので,組合の債権は各組合員の分割債権にはなりません。このため,組合の債務者は,その債務を組合員に対する債権で相殺することはできません(民法677条)。 |
4.「組合に対し貸付金債権を取得した債権者は,組合財産につき権利行使できるが,組合員個人の財産に対しては権利行使できない。」 |
【正解:×】 ◆組合員に対する『組合の債権者』の権利行使−組合員の無限責任 組合の債務は組合員全員に帰属し,その責任及び義務は組合員個人に及びます。組合が負う債務について,債権者は,組合の財産,組合員個人の財産のどちらにも権利行使することができます。〔ただし,組合員の財産に対する場合は,損失分担の割合による。債権者が債権発生当時にその割合を知らなかったときは,各組合員均等の割合(民法675条)。〕 ▼ここでいう「債務」は,金銭債務だけではなく,組合の事業から生じた損害賠償請求に対するものも含まれます。 ▼組合員は,組合の債権者に対して負う債権を受働債権,組合員がその債権者に対してもっている債権を自働債権として相殺することができます。 |