過去問で学ぶ 区分所有法入門 

区分所有法の過去問アーカイブス 宅建・平成13年・問15


 ガイド   公正証書による規約・一部共用部分に関する規約・管理者の訴訟追行権・
 集会の招集手続の省略

建物の区分所有等に関する法律に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。(宅建・平成13年・問15)

1.「最初に建物の専有部分の全部を所有する者は,公正証書により,共用部分の全部について持分割合を定める規約を設定することができる。」

2.「一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものについての区分所有者全員の規約の設定,変更,又は廃止は,当該一部共用部分を共用すべき区分所有者全員の承諾を得なければならない。」

3.「管理者は,規約の定め又は集会の決議があっても,その職務に関し区分所有者のために,原告又は被告となることができない。」

4.「管理者は,少なくとも毎年1回集会を招集しなければならないが,集会は,区分所有者全員の同意があるときは,招集の手続を経ないで開くことができる。」

【正解】

× × ×

1.「最初に建物の専有部分の全部を所有する者は,公正証書により,共用部分の全部について持分割合を定める規約を設定することができる。」

【正解:×

◆公正証書による規約

 共用部分持分割合の定め』は原則として,区分所有者による規約の設定・変更によります。⇒ 各共有者の持分は原則として専有部分の床面積割合によりますが,規約で別段の定めができます。

 最初に建物の専有部分の全部を所有する者 (分譲業者等) は,『規約共用部分に関する定め』に関する規約は設定することができますが,本肢の『共用部分持分割合の定め』に関する規約を,公正証書で設定することはできません。分譲業者等が公正証書規約で設定できるのは下記の四つに限られています。

●公正証書による規約
規約共用部分に関する定め』に関する規約の設定   できる
共用部分持分割合の定め』に関する規約の設定  × できない

公正証書による規約を定める−一定範囲に限られる

 規約は本来,区分所有者の意思に基づいて集会の決議で設定されるべきものですが,重要なものに限っては,分譲業者が規約で定めておく必要があります。

 規約共用部分や規約敷地の定め,敷地利用権の割合,分離処分ができるか等の定めをあらかじめ決めておけば,後日の紛争を回避することができ,分譲時点で買受人の共有持分が確定しているので,買受人も安心です。

 ただし,分譲業者が単独で設定できるといっても,その内容を客観的に明らかにしておく必要があり,そのために区分所有法では,公正証書で定めるものとしています。

 最初に建物の専有部分の全部を所有する者は,公正証書によって,以下のものに限って単独で規約を定めることができます。(32条)

規約共用部分に関する定め (4条2項)

規約敷地の定め (5条1項)

・専有部分と敷地利用権の分離処分を可能にする定め (22条1項但書,22条3項)

敷地利用権の割合に関する定め  (22条2項但書,22条3項)

 ただし,これらの事項を第三者に対抗するためにはその旨の登記が必要です。

●公正証書規約が設定されているときは,規約は2段階にわたって定められる 

 公正証書規約−分譲業者が設定
       ↓
 区分所有者による規約の設定

(備考) 公正証書による規約設定はすることができるのであって,必ずしなければならないものではない。公正証書による規約設定をしない場合は,区分所有者による規約の設定のみになる。

●規約の設定
 規約の設定は,区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議〔書面又は電磁的方法による決議を含む〕によってするのが原則〔31条1項〕ですが,区分所有法では,その例外が2つあります。

分譲業者等公正証書によって規約を設定する 〔32条〕 ← 原始規約の一部

書面又は電磁的方法による全員の合意で規約を設定する 〔45条2項〕

 〔マンションのいわゆる原始規約は,分譲業者等が原案を作成して購入者全員から原案に対する承諾書(合意書)を集める方式で設定されることが多いようです。この方式は45条2項に基づいて『書面による全員の合意』で規約を設定したことになります。〕

※昭和37年法(1962)では規約の設定・改廃は区分所有者全員の書面による合意によって行うとなっていましたが,昭和58年法(1983)で現行の4分の3以上の多数決による(31条1項)と改正されました。平成14年法(2002)では,新たに『電磁的方法による全員の合意』,『書面・電磁的方法による決議』が加わりました。 

2.「一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものについての区分所有者全員の規約の設定,変更,又は廃止は,当該一部共用部分を共用すべき区分所有者全員の承諾を得なければならない。」

【正解:×

◆一部共用部分に関する規約の設定・変更・廃止

 本肢では,「当該一部共用部分を共用すべき区分所有者全員の承諾を得なければならない」とあるので×です。本肢では,「区分所有者全員の利害に関係しないもの」となっていますが,混乱させるための「落とし穴」です。問題を解くのに直接関係するものではありません。

 一部共用部分に関する事項についての区分所有者全員の規約の設定,変更,又は廃止は,一部共用部分区分所有者の1/4を超える者又は一部共用部分区分所有者全体で有する議決権の1/4を超える議決権を持つ者反対したときはすることができません。(31条2項)

 〔3/4以上の賛成が必要とすると厳格になりすぎて円滑に規約の設定・変更ができなくなるため,一部区分所有者の人数・議決権の1/4を超える積極的な反対がなければ,つまり,賛成も反対もしない者を含めて反対しない者が3/4以上あれば,規約の設定・変更ができるようにしています。

  一部共用部分区分所有者・・・当該一部共用部分を共用すべき区分所有者

 1/4を超える反対 
 → 3/4未満が反対しない場合
  全体の規約の設定・改廃はできない
 1/4以下が反対
 → 3/4以上が反対しない場合
  全体の規約の設定・改廃ができる

一部共用部分について

  一部共用部分は,これを共用すべき区分所有者の共有に属しています。(11条1項但書)このため,一部共用部分の管理に関する費用は,原則として,一部区分所有者が負担します。

 一部共用部分に関する管理は,三つに分けて考えます。(16条)

区分所有者全員の利害に関係する事項 ⇒ 区分所有者全員で管理する。
                             全員の規約で定める。

区分所有者全員の利害に関係しない事項

   ⇒ 全員の規約で定めのあるものの管理は,全員で行う。

   ⇒ 全員の規約で定めのないものの管理は,一部区分所有者で行う。
      (この部分については,一部区分所有者は自分たちだけで規約を設定し,
      これに関する管理は一部管理組合で行う。)

 基本的にはこれで十分なのですが,よくここはイメージがしにくいと言われます。同じことの繰り返しで恐縮ですが,以下で再確認してアタマに焼付けてください。

一部共用部分の管理 (16条) 

区分所有者全員の利害
に関係する事項
全員の規約で定める  管理は全員で行う
区分所有者全員の利害に
関係しない事項
全員の規約に定めがあるもの  管理は全員で行う
全員の規約に定めがないもの  管理は
 一部区分所有者で行う

一部共用部分に関する規約 (16条,30条2項)

区分所有者全員の利害
に関係する事項
全員の規約で定める  設定・改廃は全員で行う
区分所有者全員の利害に
関係しない事項
全員の規約に定めがあるもの  設定・改廃は全員で行う
全員の規約に定めがないもの  設定・改廃は
 一部区分所有者で行う

 ⇒ 『一部共用部分の管理に関するもの』で『全員の規約で定めのあるもの』の設定・改廃については,全員の利害に関係があるなしに係らず,一部共用部分区分所有者の1/4を超える者の反対があるか,一部共用部分区分所有者の議決権全体の1/4を超える議決権の反対があるときは,することができない。

●関連問題
「一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係するものは,その一部共用部分を共用すべき区分所有者の規約で定めることができない。」(マンション管理士・平成15年・問5)
【正解:

 一部共用部分の管理のうち,「区分所有者全員の利害に関係するもの」又は「区分所有者全員の規約に定めのあるもの」は区分所有者全員で行う。(16条,30条2項) 

 したがって,区分所有者全員の利害に関係するものは,その一部共用部分を共用すべき区分所有者の規約で定めることはできない。

3.「管理者は,規約の定め又は集会の決議があっても,その職務に関し区分所有者のために,原告又は被告となることができない。」

【正解:×

◆管理者の訴訟追行権

 区分所有法では,管理者は,その職務に関して,団体の代表者ではなく,区分所有者のための代理人として,規定されています(26条2項)が,その代理権は,建物等の管理事務に関するものと考えられ,訴訟追行権までは含まれないと考えられます。したがって,管理者がその職務に関して訴訟するためには訴訟追行権を授権される必要があります。

 管理者は,規約又は集会の決議により,その職務に関して,区分所有者のために原告または被告になること〔訴訟を追行すること〕ができます。(26条4項)

 管理者は,規約の定めにより原告又は被告となったときは,遅滞なく,区分所有者にその旨を通知しなければなりません。規約で訴訟追行権が付与されているとしても,いつ原告or被告になったのか区分所有者が知らないというのでは困ります。(26条5項) ⇒ 集会で訴訟追行権が付与された場合は二度手間になるので不要です。

 管理者が原告又は被告になった判決の効力は,区分所有者全員に及びます。

●管理者に訴訟追行権を付与する
 規約で訴訟追行権を付与  規約で授権するには,規約の設定・変更の
 ための特別決議が必要です。

 〔『包括的に付与』,『特定事項に限定して付与』
 のどちらもできます。〕

 集会で訴訟追行権を付与  普通決議個別の事案について授権する。

管理組合法人の訴訟追行権

 管理組合法人では,規約又は集会の決議により,その事務に関して,区分所有者のために,管理組合法人が訴訟の当事者になります。(47条8項)

●関連問題
「管理組合法人の理事は,規約又は集会の決議により,その事務に関し,区分所有者のために,原告又は被告となることができる。」(管理業務主任者・平成15年・問35)
【正解:×】管理組合法人の訴訟の当事者は「管理組合法人そのもの」です。理事ではありません。

●盲点 共同利益に反する行為への請求裁判での訴訟主体 (訴訟追行)

当該違反者を除く他の区分所有者全員

 〔必ず全員で訴訟を提起しなければならないとすると著しく不便なため,区分所有法では,集会の決議により,他の区分所有者全員のために,訴訟追行権を付与された『管理者』または『集会において指定された区分所有者』が訴訟を提起することができるとした。〕(57条3項・58条4項・59条2項・60条2項)

管理組合法人

 ⇒ 義務違反者への訴訟の場合は,請求訴訟提起の決議に加えて,57条3項等により,管理者が訴訟を提起するには,それについての集会の決議を必要とするので注意

 管理者の職務遂行上必要な場合の
 管理者への訴訟追行権の付与
 (26条4項)
 ・集会の決議 (普通決議)
   or
 ・規約の定め
 義務違反者に対する訴訟の場合の
 管理者への訴訟追行権の付与
 (57条3項・58条4項・59条2項・60条2項)
 ・集会の決議 (普通決議)

4.「管理者は,少なくとも毎年1回集会を招集しなければならないが,集会は,区分所有者全員の同意があるときは,招集の手続を経ないで開くことができる。」

【正解:

◆招集手続の省略

招集権者

 管理者や管理組合法人の理事は,集会を招集する権限を持っています。(34条1項)

 管理者や管理組合法人の理事は,1年に1回集会を開かなければならず(34条1項・2項,47条12項),また,集会において,毎年1回一定の時期に,その事務に関する報告をしなければいけません。(43条,47条12項)〔通常集会〕

 このほかに,管理者や管理組合法人の理事は,必要であればいつでも,臨時集会を招集することができます。(34条1項)

 ただし,管理者や管理組合法人の理事は,招集の手続〔35条〕を踏んだ上で招集しなければなりません。

招集手続きの省略

 小規模の区分所有建物では,電話連絡などで即日又は翌日に区分所有者が集まることが可能であり,また,小規模でなくても,緊急に意思決定する必要があるときに,簡便・迅速に集会を開催できるようにしておく必要があります。

 区分所有法は,このような要請にも対処できるように,区分所有者全員の合意があるときは,35条集手続をしなくても,集会を開催できるとしました。(36条) 


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