民法クローズ・アップ |
判例による意思表示の研究 |
瑕疵ある意思表示/第三者の強迫 |
-----≪意思表示の問題解決のカギ≫------------------------------------
意思表示の問題では、
0 契約のプロセスに、何か問題はないか
1 契約当事者間の効力はどうなっているか
2 第3者に対抗できるか
をつかむことがポイントです。
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▼強迫に関する出題を前回から見ています。
<過去問出題歴> 平成3年・問2 全肢 ▼「善意の第3者」(借地人) →今回扱います。 平成7年・問2・肢2 ▼登記の欠缺を主張できない者(不動産登記法) →今回扱います。 平成10年・問7・肢2 ▽「善意の第3者」(転売)→前回扱ったものです。 |
●詐欺との違い(1)―取消し前の第3者
―(ケース1)――――――――――――――――――――――――――――――
Aがその所有地をBに譲渡し、移転登記を完了した後、Cが、Bからその土地を
賃借して、建物を建て、保存登記を完了した。その後、AがBの強迫を理由として
AB間の売買契約を取り消し、Cに対して土地の明渡し及び建物の収去を請求した
場合、民法及び借地借家法の規定によれば、次の記述のうち正しいものはどれか。
(1)Cは、借地権に基づき、Aの請求を拒むことができる。
(2)Cは、Bの登記名義を善意無過失に信じたとして、Aの請求を拒むことが
できる。
(3)Cは、AがBから強迫を受けたことを知らないことについて善意無過失で
あるとして、Aの請求を拒むことができる。
(4)Cは、Aの請求を拒むことができない。
(平成3年・問2)
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<関係図>
A(売主)――――――B(移転登記)
|
C(土地を賃借し、建物の保存登記)
▼詐欺、強迫による取消権は <追認できる時から5年、又は行為の時から20年>
が経過すれば、消滅するので、この期間内に取消した事になります。(民法126条)
▼登記の公信力
Bは移転登記をしていますが、これは<登記に公信力がない>とされているため、
登記があることを信じたCが保護されるわけではありません。(判例)
このため、
(2) Cは、Bの登記名義を善意無過失に信じたとして、Aの請求を拒むことが
できる。
という記述は不適切になります。(2)は×です。
▼「強迫による取消し」前の第3者Cに対しては、
<取消しの遡及効によってAは対抗できる>
とされています。つまり、取消しの効力は強迫者のBだけでなく、第3者のCが善意
でも及びました。第3者Cは表意者Aに対抗できませんでした。
▼このため、
(3)Cは、AがBから強迫を受けたことを知らないことについて善意無過失で
あるとして、Aの請求を拒むことができる。
の記述は、不適切になります。
(4)の <Cは、Aの請求を拒むことができない。>という記述は正しい肢となります。
----クドイようですが、詐欺の取消しの場合は、---------
A(ダマされた)―B(詐欺師)
|
C(善意)
Aの取消し前ならば、CはAに対抗できました。
AはCに対抗できませんでした。
ここが、詐欺と強迫の第一の違いでした。
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(1)の借地権ですが、これは<第3者>であることを示す標識のようなものです。
判例では、第3者の規定を幾つかしていますが、借地権者もその中に入ります。
<Bから所有権、抵当権、賃借権を取得した人>を第3者としています。
本問の場合は、その借地権のよって立つ基盤―BがAから譲渡されたこと―が
取消され、取消し前の第3者は保護されないと言う判例がある為、借地権者だか
らと言って保護されるわけではありません。このため、(1)は×になります。
<借地権者は、土地の地上権や賃借権の登記がなくても、借地上の建物の登記が
あれば、借地契約後に地主から土地を取得した第3者に借地権を主張できる>
という借地借家法の規定は確かにありますが、本設問の場合は上記の理由のため
借地基盤そのものが成り立っていません。このような場合、CとしてはBに対し
て補償や損害賠償の請求をすることになります。
親カメの上に乗っている子カメに譬えれば、
親カメ=Bが「その土地」の所有者だということ
子カメ=CがBから「その土地」を借地する
この土地そのもののBの所有権が覆された以上、借地権の成り立つ基盤は
ないということです。上の借地借家法の規定は、有効にこの基盤が成立していた
ときの話なので、混同しないようにしてください。
【正解: 4】
●詐欺との違い(2)―第3者の強迫
強迫と詐欺の違いの第2弾は、<第3者の詐欺>と<第3者の強迫>の扱いの
違いです。
<第3者の詐欺> (民法 96条2項) ★出題歴があります。
相手方が第3者の詐欺の事実について悪意のときに限って、表意者は取消せる。
A(ダマされた)―――――B(相手方)
↑
C(詐欺師)
このような場合は、相手方Bが悪意ならば、AはBに取消すことができました。
相手方Bが善意ならば、Bへの取消しできません。
第三者にダマされたAは | |
相手方Bが悪意 | 取消すことができる |
相手方Bが善意 | 取消すことができない |
<第3者の強迫> (民法 96条1項・2項の反対解釈)
第3者の強迫の事実について相手方の善意・悪意関係なく、表意者は取消せる。
A(強迫された)―――――B(相手方)
↑
C(強迫者)
ここも、詐欺との違いでした。
第三者に強迫されたAは | |
相手方Bが悪意 | 取消すことができる |
相手方Bが善意 | 取消すことができる |
○第3者の詐欺、強迫での取消しの比較
Aは | |
第三者の詐欺 | 相手方が第3者の詐欺について悪意のとき、
表意者は取消せる |
第三者の強迫 | 相手方が第3者の強迫について善意・悪意問わず、 表意者はいつでも取消せる。 |
強迫は、<自由意思が妨げられていること>から、詐欺に比較すると、
保護される度合いが強いと言えます。
さて、今回はもう一つ、宅建試験での出題歴を見てみましょう。
●第3者の強迫 ―番外編― (不動産登記法の規定)
―(ケース2)――――――――――――――――――――――――――――――
Aの所有する土地をBが取得した後、Bが移転登記をする前に、CがAから登記
を移転した場合に関する次の記述は、民法及び不動産登記法の規定並びに判例に
よれば、○か×か。
BがAから購入した後、CがBを強迫して登記の申請を妨げ、CがAから購入して
登記をC名義に移転した場合、BはCに対して登記がなければ土地の所有権を主張
できない。
(平成7年・問2・肢2 改)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●登記がなければ対抗できない第三者になっているか判定
<関係図>
A(売主)――――――B(移転登記はしていない)
| ↑
C(登記) C : 強迫して登記の申請を妨害
<解>
Cは、Bから見れば第3者であり、すでに登記を得ています。
ここをどう判断するかですが、Cは登記の有無には関係なく、次の条文により、
Bに対して、「Bは登記を得ていないのだから、Cには対抗できない」とは主張
できません。
<詐欺又は強迫によって、Bが登記申請するのを妨げた>からです。
▼不動産登記法4条 詐欺又は強迫に因りて登記の申請を妨げたる第3者は 登記の欠缺を主張することを得ず。 |
などにより、本設問は×ということになります。これについては相当数の判例が
ありますが、今回は扱わない事にします。
本問は、民法だけでなく、ほかの規定と混ぜて出題される事もあるという実例です。
【正解 : ×】
▼これまでの連載は、いかがだったでしょうか。 <宅建の過去問の全貌>を知ることによって、いわば、「入門編」である「基本書 の知識の次元」から、本当の意味で「問題が解ける次元」までの橋渡しをするのが、 本連載の目的でした。 実務に携われば、これまで扱ってきたような、言わば<プレーン>の世界から、 もっと複雑なケースに遭遇すると思います。 本連載により、「民法は難しくてできないのではなく、知らないからできなかった だけだ」ということをお伝えできれば、何よりの幸せだと思います。 また、<基本書は入門編に過ぎない>ということも何度も申し上げてきました。 <基本書が問題解決の指南書>だと捉えると、どうしても<受身の姿勢>に 回ってしまい、この種の試験対策の学習では絶対に必要な<アグレッシヴな姿勢> がとれなくなり、泥沼にハマリこむことになります。 <受身になったら、何よりも大切な、自分らしさ、思考の自由を失ってしまう> ことを最後に申し上げて、この連載をひとまず終わらせていただきます。 …人生でも、受身の姿勢では対応が難しかった、とつくづく思います。 |