民法クローズ・アップ
  判例による意思表示の研究
 瑕疵ある意思表示/詐欺と代理・1

詐欺の基本的なことは前回(詐欺の根底知識)、前々回(取消しの根底知識)と

まとめてきました。今回は、詐欺と代理の過去問を2つまとめてみましょう。

●●詐欺師のいる三角形

 今回は、詐欺と代理です。これは、詐欺師が本人、代理人、相手方

の3人のどこにいるかということで分類できます。

ア.相手方が詐欺師

A(本人)

|

B(代理人)―C(相手方・詐欺師)

イ.代理人が詐欺師

A(本人)

|

B(代理人・詐欺師)―C(相手方)

ウ.本人が詐欺師

A(本人・詐欺師)

|

B(代理人)―C(相手方)

 この三つはさらに、誰をダマすのか、ダマされたほうが善意か悪意かによって、

分かれます。

ただ、宅建の試験では、全部のパターンを知っておく必要はありません。

過去問では、出るパターンは限定されています。

●●代理人と詐欺師の風景の根底事項(瑕疵ある代理行為の基本)

今回は、相手方が詐欺師のパターンのうち、根本的なものを扱います。

その基本を押さえましょう。いきなりで申し訳ありませんが、そんなに難しい

ところではありません。

 意思表示に瑕疵(キズ)があるとき、その瑕疵によって意思行為の効力が影響を

受けて変わることがあります。これまで扱ってきた、意思の欠缺(心理留保・虚偽表示・

錯誤)、詐欺・強迫善意・悪意についての無過失・有過失などがそうでした。

 これまでは、主に本人と相手方の2者で考えてきたのですが、瑕疵ある代理行為

の場合は、基本的な根本原理として3つあります。

▽相手方が詐欺師のとき

A(本人)

|

B(代理人)―C(相手方・詐欺師)

代理人が相手方とした意思表示の効果は、直接、本人に帰属します。

 (民法99条1項)

 これは説明しなくても大丈夫ですね。

代理行為における意思表示の瑕疵の有無は、代理人を基準とする。

(民法101条1項)

(ケース1) B(代理人)が錯誤・詐欺に合う

A(本人)

|

B(代理人)―――――C(相手方・詐欺師)

錯誤・詐欺

B(代理人)が錯誤する・詐欺にあう→「A(本人)が錯誤する・詐欺にあう」

と考えます。

(ケース2) 代理人が悪意=本人が悪意

A(本人)

|

B(代理人)―――――C(相手方・詐欺師)

悪意

たとえ、本人が善意でも、代理人が悪意なら、

本人と相手方の2者間の契約で「本人が悪意」の場合に準じて考える

ということです。

A(本人)がC(詐欺師)の詐欺を知っていた場合(詐欺について悪意の場合)

 取消す事ができません。(民法101条2項)

(ケース)

A(本人・悪意)

|

B(代理人・善意)―――――C(相手方・詐欺師)

 普通は、瑕疵がある場合は代理人を基準にして「代理人の○○→本人の○○」

のように考えますが、例外があります。

 例えば、A(本人)から特定の法律行為を委託されたB(代理人)が本人の指図に

従って代理行為を行なうような場合で、

 代理人が善意でも、本人が悪意のようなケースでは、代理人ではなく

本人を基準にして考えます。

つまり、本人は相手方に「代理人が善意だったのだから」と理由づけできない、

ということです。このようなケースでは、代理人が善意だったことを錦の御旗に

して、取消すことはできません

 では、これまで学んできた知識を過去問で確かめてみましょう。

●●代理人が詐欺にあった場合

●問題例・その1

――――――――――――――――――――――――――――――――――

Aは、Bの代理人として、C所有の土地についてCと売買契約を締結したが、

その際次に掲げるような事情があった場合、民法の規定によれば、○か×か。

CがAをだまして売買契約を締結させた場合は、Aは当該売買契約を取り消す

ことができるが、Bは取り消すことができない。

(平成2年問5肢3)

――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆基本原理◆ 

・代理行為における意思表示の瑕疵は、代理人で判断する。(民法101条1項)

・代理人が相手方とした意思表示の効果は、直接、本人に帰属します。

 (民法99条1項)

・ダマされた人は、当該契約を取消すことができます。(民法96条1項)

 B(本人)

 |

 A(代理人)――C(詐欺師)  →  B(本人)---------C(詐欺師) と考えます。

【正解:×】

A(代理人)が詐欺にあってダマされた=B(本人)が詐欺にあってダマされた

                       ↓

                  B(本人)は取消し権を持つ

★A(代理人)は、B(本人)から当該契約を取消す事について代理権を与えられ

ていなければ取消す事はできません

●問題例・その2

――――――――――――――――――――――――――――――――――

AがBから代理権を与えられて、契約を締結し、又は締結しようとする場合

に関する次の記述は、民法の規定によれば、○か×か。

AがCにだまされて契約を締結した場合においても、Bは、Cの詐欺

を知っていたときは、その契約を取り消すことができない。

(平成3年・問3・肢2)

――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆基本原理◆ 

・B(本人)はC(詐欺師)の詐欺を知っていた場合(詐欺について悪意の場合)

 取消す事ができません。(民法101条2項)

 B(本人)(悪意)

 |

 A(代理人)――C(詐欺師)      

【正解:○】

今回の瑕疵ある代理行為と詐欺についても、基本書では、細かく説明しないのが通例になっています。

しかし、これをご覧になれば、一通り基礎知識は身についたものと思います。


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