民法クローズ・アップ
  判例による意思表示の研究
 瑕疵ある意思表示/詐欺と代理・2

このシリーズは、意思表示の過去問レベルがどのくらいなのかを検証しています。

過去問の出題範囲から特に深入りはしていません。

●●代理人と詐欺師の風景の三つの根本原理(瑕疵ある代理行為の基本)→復習

●根本原理1

 代理人が相手方とした意思表示の効果は、直接、本人に帰属します。

 (民法99条1項)

●根本原理2

 代理行為における意思表示の瑕疵の有無は、代理人を基準とする。

 (民法101条1項)

 ★本人は代理人を活用することによって利益を受ける立場なので

そのリスクも負担すべき、と考えられます。H4出題

―(ケース1)―――――――――――――――――――――――――

B(代理人)がC(相手方・詐欺師)からダマされる H2,H3出題

A(本人)

|

B(代理人)―――――C(相手方・詐欺師)

▼A(本人)はC(相手方)に対して、詐欺による取消しを主張できる

1) 取消権はAにある。H2

Bに取消について代理権を与えられていない場合はBは取消せない

2) 本人は原則として取消せるが、本人が詐欺について悪意のときは

  取消せない。(民法101条2項) H3 →根本原理3

―(ケース2)―――――――――――――――――――――――――

B(代理人)が錯誤

A(本人)

|

B(代理人)―――――C(相手方)

錯誤

▼A(本人)はC(相手方)に対して、錯誤による無効を主張できる。

―(ケース3)―――――――――――――――――――――――――

代理人が悪意=本人が悪意に準じる ←★注意

A(本人)

|

B(代理人)―――――C(相手方)

悪意

たとえ、本人が善意でも、代理人が悪意なら、

Aは無効の主張や取消す事ができません

例・

 AはBに住宅を購入する代理権を与え、BはCとの間である住宅の購入

契約を締結した。ところが、売買の目的となっていた住宅はCがDに住居として

賃貸していた。契約時、Bはその事情を知っていたが、Aは知らなかった。

 

 |(代理権授与)

 ―――――

         |(賃貸している)

          (賃借人)

 この場合は、Aは担保責任をCに対して追及することはできません。

瑕疵についての善意・悪意は、代理人Bを基準にして考えるからです。

 

 代理人の介在のない取引で、売買の目的物に瑕疵がある場合は、買主は

損害賠償の請求や、瑕疵により契約の目的が達成できないなら、契約を

解除する事ができます。

 しかし、上のように、代理人が悪意の場合は、賠償請求・契約の解除とも

できません。ただ、AがBの代理行為によって損害を受けているのならば、

当然不法行為責任によって、AはBに損害賠償請求をすることはできます。

●根本原理3

 A(本人)がC(詐欺師)の詐欺を知っていた場合(詐欺について悪意の場合)

 取消す事ができません。(民法101条2項) H3出題

A(本人・悪意)

|

B(代理人・善意)―――――C(相手方・詐欺師)

 普通は、瑕疵がある場合は代理人を基準にして「代理人の○○→本人の○○」

のように考えますが、例外があります。

 例えば、A(本人)から特定の法律行為を委託されたB(代理人)が本人の指図に

従って代理行為を行なうような場合で、

 代理人が善意でも、本人が悪意のようなケースでは、代理人ではなく

本人を基準にして考えます。

つまり、本人は相手方に「代理人が善意だったのだから」と理由づけできない、

ということです。このようなケースでは、代理人が善意だったことを錦の御旗に

して、取消すことはできません。


●●代理人が詐欺師だった場合

●問題例・

――――――――――――――――――――――――――――――――――

Aが、Bの代理人として、Cとの間でB所有の土地の売買契約を締結した

場合に関する次の記述は、民法の規定及び判例によれば、、○か×か。

AがBから土地売買の代理権を与えられ、CをだましてBC間の売買契約を

締結した場合は、Bは詐欺の事実を知っていたと否とにかかわらず、Cは、

Bに対して売買契約を取消す事ができる。

(平成8年問2肢3)

――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆基本原理◆ 

・代理行為における意思表示の瑕疵は、代理人で判断する。(民法101条1項)

・代理人が相手方とした意思表示の効果は、直接、本人に帰属します。

 (民法99条1項)

・ダマされた人は、当該契約を取消すことができます。(民法96条1項)

 B(本人)

 |

 A(代理人・詐欺師)――C(相手方)  

【正解:○】

・AはBの代理人

・Aの詐欺は第三者の詐欺ではない→次の問題例参照。

 これらにより、本人が善意・悪意を問わず、

 Cは詐欺による取消しを主張できます。

ここでは、結論は同じでも、根拠が通説と判例でわかれています。

このように議論のあるものを出すのは珍しいことですが、出題されています。

(根拠については、ここでは余り突っ込まないで下さい)

(96条1項による通説)  (101条1項による判例)

●●代理人が第3者の詐欺により、契約を締結した場合 ←マチガイやすい点

  →相手方の善意・悪意で考えます。

●問題例・

――――――――――――――――――――――――――――――――――

Aが、Bに土地売却に関する代理権を与えたところ、BはCにダマされて、

善意のDと売買契約を締結したが、AはBがダマされたことを知らなかった。

この場合、民法の規定によれば、次の記述は正しいか。

1 Aは、BがCにダマされたことを知らなかったのであるから、契約を

  取消す事ができる。

2 CがBをダマしたことをDが知らなかったのであるから、Aは契約を

  取消す事ができない。

(平成4年問2肢3、肢4)

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 A(本人)善意

 |        

 B(代理人)――――――――D(相手方)善意 

   ↑

  C(詐欺師)

▼この場合は、本人や代理人を基準としないで、相手方を基準に考えます

D(相手方) が第3者Cの詐欺について、善意のとき、Aは取消せません。 

D(相手方) が第3者Cの詐欺について、悪意のとき、Aは取消せます。(96条2項)

【基本原理】

これは、第3者の詐欺での以下のことと同じように考えるからです。

 甲――――乙(相手方)

   ↑

  第3者・丙による詐欺

乙(相手方) が第3者・丙の詐欺について、善意のとき、甲は取消せません。 

乙(相手方) が第3者・丙の詐欺について、悪意のとき、甲は取消せます

【正解:1×、2○】

本問の場合、A(本人)はB(代理人)に対して、不法行為責任を追及できます。

◆今回のものも入り組んでいましたが、知っていればサッと簡単に解けてしまう

問題でした。民法恐れるに足りず、です。


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